松 (ワープロ)
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松(まつ)は、管理工学研究所が発売していたMS-DOS用の日本語ワープロソフトウェア。名前の由来は松竹梅の上等な方から。パソコン普及期の初期に一太郎と人気を二分した。Windows時代となってからはシェアウェアとして松風が発表されたが、松との互換性はなく大きなシェアを取ることには成功していない。
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[編集] 「松」の歴史
- 1983年- PC-9801用の日本語ワードプロセッサを発売。商品名そのものも「日本語ワードプロセッサ」であった。
- 1983年- 「日本語ワードプロセッサ」をバージョンアップし、あらたに「松」と名づけて発売する。また、廉価版として「梅」を発売する。「松」は、価格が128,000円と高価であったにも関わらず好調な売れ行きを博した。当時のPC-9800が、メインメモリを128KBしか実装していなかったのにもかかわらず、スプール印刷機能などを備えている等その操作性の良さは高く評価された。当初は、CP/M-86上のアセンブラで開発された。なお、「梅」は管理工学研究所の予想に反し売れなかった。この時期まではOS上のアプリケーションではなく、N88-BASICの環境で用いるスタンドアロンのソフトウェアであった。また当時のアプリケーションソフトウェアの多くと同様、ユーザによるコピーを不可能にするコピープロテクトが掛けられていた。特に本製品のものは比較的強力なプロテクトとして知られ、プロテクトの是非をめぐって「ソフト情報」誌で議論が交わされた。
- 1985年- MS-DOS上で稼動する「松85」を発売。しかし、まだ高価であったことなどから、DOS用ワープロとして地位を確保しつつあった「jxWORD太郎」および「一太郎」にシェアを明け渡すことになる。
- 1986年- マイナチェンジ版の「松86」を若干値下げして発売。このときから日本語入力システムが独立し、「松茸86」となる。しかし、市場では「一太郎」のシェア拡大が進む。
- 1987年- 一から再設計した「新松」を発売。操作体系が見直され、カットアンドペーストを基本としていた。また、高速化のためグラフィックソフト「鶴」等を除けばC言語などを使わずアセンブラで記述し、ライバルの「一太郎」に比べて軽く動作するソフトになった。文字修飾などの見栄えよりも長大な文書を効率よく入力することを目指しており、エディタとしての機能も他のワープロソフトにくらべ充実していた。また、カスタマイズ機能が豊富なのも特徴で、キーアサインや画面上のインターフェースの色などが好みに合わせ変更できた。日本語入力システムは「松茸V2」として添付されたが、こちらも辞書の基本登録語も削除・変更できるなど自由度が高かった。このため作家や翻訳家などの間で本製品を熱心に支持する例が見られた(「関係書籍」の欄を参照)。その他、β版を日経MIXなどを通じて希望者に無償配布し、バグや使用感などをフィードバックするという試みは当時の大手ソフトウェアベンダとしては例外的であった。
- ただし、カスタマイズ機能は表に出ておらず、メニュー画面に出ていないヘルプファイルを直接読まねばならなかった。しかもその冒頭には「見たなー」とあったのが好評だったとか不評だったとか。ただし、ユーザ登録者にはカスタマイズファイルの例が入ったフロッピィディスクが配布され、emacs風、MIFES風、一太郎風等にすることができた。
- 「松」の高精細モードが、他社のワープロソフトに比べ高速である理由として、PC-9800シリーズの白黒グラフィックモードで動作していたことが大きい。なお、見た目がカラーになるのは、白黒グラフィックにテキスト属性(色など)を加えると、カラーになるPC-9800シリーズの機能によっている。なお、白黒グラフィックモードが削除されたPC-9821Xa/WやRaシリーズでは、意図した表示にはならない。
- 1989年- 「98NOTE」が発売されたため、「新松」のカスタマイズ機能によりノートパソコンの液晶でも視認性を高めた「n松」が発売される。おまけとして、ゴルフゲームが付属した。
- 1991年- 「新松」の改良版を「松Ver5」として発売。カットアンドペーストが不評であったため、「移動」コマンドが復活する。カスタマイズ機能がメニューで指定できるようになった。
- 1992年- 「松Ver6」を発売。しかし、その後Windows 3.0への対応は行われず、後継バージョンも発売されなかった。
- 1993年- 「松Ver6」のDOS/V版が発売される。「V-TEXT」環境(800×600ドットのみ)をサポートした。
- 1997年- 「松風」をWindows版軽量ワープロソフトとしてオンライン配布開始。のちにシェアウェアとなった。この製品はDOS版の「松」シリーズとは文書レベルの互換性に乏しく、また機能も限定されたものであるため、ごくマイナーなソフトウェアにとどまり、ワープロソフト市場に影響を与えることはなかった。最新版としては2003年11月にVer4がリリースされている。
[編集] 関係書籍
- 『松が好きっ! K3ソフトウェア大研究』 酒井昭伸/K3ユーザーズグループ編 早川書房 1989年 ISBN 4-15-203392-4
- 『やっぱり松が好きっ!楽しいワープロ便利帖 松Ver.5』 酒井昭伸/K3ユーザーズグループ編 技術評論社 1991年 ISBN 4-87408-473-7
[編集] その他
- 新松以降、鶴というペイント系のグラフィック作成ソフトが付属していた。この名は、花札の絵柄にもある「松に鶴」の意匠に基づく。
- 一般には公開されなかったが、J3100版の松もあった。
- 松Ver.5は「ちょっとDTP気分」が宣伝文句であった。
- 松Ver.6は「なんてグレース」が宣伝文句であった。
- DOS/V版松Ver.6は発売された。ちなみに、ThinkPad 220の解説本(エーアイ出版)にはその試食版が附属していた。ちゃんと仕事に使えたのは内緒。
- NECのUNIXワークステーションEWS4800上で動作する松もあった。但しこれは松そのものを移植したのではなく、バイナリコンパイルという技術で、松のバイナリコードをEWS4800のネイティブコードに変換したものである。
- 松Ver5には付録として風呂敷が付いていた。
[編集] 関係項目
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