活用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
活用(かつよう)とは、動詞など述語の語形変化のこと。元来、江戸時代の国学以来、国語学で用いられた日本語の述語がもつ語形変化の体系を指す言葉であったが、西洋の言語学でいうコンジュゲーションの訳語としても使われ、動詞などが人称、数、性、時制、法、態、相など文法的意味の違いによって規則的な変化を生じさせることをいう。このため国語学でいう活用と、言語学やその他の語学でいう活用は若干の違いを見せている。
目次 |
[編集] 学校文法における国語の活用
国語学でいう活用とは、音声的な形態の違い、つまり付属する助動詞や助詞の違いに対応する語幹の母音の変化によって述語を分類している。例えば、動詞五段動詞の「書く」であれば、「書か(ない)」「書き(ます)」「書く」「書く(こと)「書け(ば)」「書け」のように母音がa, i, u, eと変化する。この五段動詞の音声的な変化を規準にして他の一段動詞や形容詞・助動詞にいたる活用形・活用表が作られている。
言語学の観点から言えば、国語学の活用表は文法形式の違いによる語形変化をそのまま反映しているのではなく、終止形・命令形のようにそれだけで文法的意味を持つものと、未然形や仮定形のように「ない」や「ば」を伴って文法的意味をもつものが混在している。また変化しない語幹部分は形態論で言えば、「書く」であれば「Kak」の部分であり、母音a, i, u, eは語尾の一部であったり、語尾と語幹をつなぐために挿入されたものであり、「書か」「書き」「書く」「書け」といった母音を伴ったものは語幹ではなく語基と呼ばれる。
[編集] 活用語
日本語において活用する語は用言(動詞、形容詞、形容動詞)と助動詞であり、あわせて活用語という。
[編集] 活用形
用言の活用形 |
---|
未然形 |
連用形 |
終止形 |
連体形 |
已然形/仮定形 |
命令形 |
語の活用された形を活用形と呼ぶ。以下に示す通り六つの活用形がある。ただし、実際上、6つすべてが異なる活用形をもつ語は文語の「死ぬ」「往ぬ」「す」「来」だけである。他の語は同形の活用形をもつ場合がほとんどであり、また口語の形容動詞は同形がない代わりに命令形自体を持たない。
- 未然形 打消の「-ない」、受身・可能などの「-れる(られる)」、使役の「-せる(させる)」、意思・推量の「-う」などに接続する形。
- 連用形 他の用言や多くの助動詞、過去・完了の「-た(だ)」などに接続する形。接続無しで名詞として用いられることもある。
- 終止形 他への接続無し、又は終助詞に接続して文末で言い切る形。
- 連体形 他の体言に接続する形。
- 仮定形(文語では已然形(いぜんけい)) 仮定・条件(文語では原因・理由)の「-ば」に接続する形。文語での仮定表現は未然形に「-ば」を接続させた形。
- 命令形 他への接続無し、又は終助詞に接続して命令を表わす形。
また活用される前の基本の形を基本形と呼び、辞典の見出しなどに使われている。
[編集] 活用形の問題点
活用形を見ると、「る」「れ」「よ(ろ)」までが含まれているが、これは係り結びの結びの語形であったり、命令の語形であったり、すべて言い切る際の語形であったためである。しかし、その他の場面において「る」は名詞修飾の際に動詞と名詞の間をつないだり、名詞自体の役割をするものであり、「れ」は本来、「れば」で「ば」と分かちがたい。また命令の「よ(ろ)」も対照的な禁止の「な」などは助詞に分類されている。よってこれらは動詞の一部というよりは文法機能を果たす付属成分であり、これらを一段・二段・カ変・サ変・ナ変動詞のみにつく助詞とすれば、現在のように表まで作る必要がなくなる。
[編集] 活用の基本的規則
日本語動詞の活用の種類 | |
---|---|
文語 | 口語 |
四段活用 ナ行変格活用 ラ行変格活用 下一段活用 |
五段活用 |
下二段活用 | 下一段活用 |
上一段活用 上二段活用 |
上一段活用 |
カ行変格活用 | |
サ行変格活用 |
活用の基本的規則には以下のようなものがある。
[編集] 口語体
- 動詞の活用の種類
- 形容詞の活用の種類
- 形容動詞の活用の種類
- 助動詞の活用の型
- 五段型
- 下一段型
- 形容詞型
- 形容動詞型
- 不変化型
- 特殊型
[編集] 文語体
- 動詞の活用の種類
- 形容詞の活用の種類
- 形容動詞の活用の種類
- 助動詞の活用の型
- 四段型
- ラ行変格型
- ナ行変格型
- 下二段型
- サ行変格型
- ク活用型
- シク活用型
- ナリ活用型
- タリ活用型
- 不変化型
- 特殊型
[編集] 活用の研究史
江戸時代、国学において活用の研究がなされた。本居宣長は『御国詞活用抄』(みくにことばかつようしょう)によって活用の分類を行った。これを受けて、鈴木朖は『活語断続譜』で『御国詞活用抄』の語例を列挙して1等から8等に分け、本居春庭は『詞八衢』(ことばのやちまた)で動詞の活用を四段・一段・中二段・下二段・変格の5種類に分類している。さらに東条義門は『活語指南』においうて活用形を「将然言(未然言とも)・連用言・截断言・連体言・已然言・希求言」という6つに分類し、現在の活用形はこれを継承している。
[編集] 最近の活用表作り
学校文法の活用表には様々な問題点があるが、これに替わるための決定的な案はまだ出ていない。学校文法の活用表の問題点は音声的な形態が重視されて文法的機能との対応が少ない点で、文法的機能によって否定形・受身形・使役形・可能形・丁寧形…といったように分類するような試みがある。また五段動詞の語幹を子音で終わることとし、学校文法のa,i,u,e,oを伴った形態は語幹ではなく、語基とする。五段動詞を子音語幹動詞、一段動詞を母音語幹動詞、カ変・サ変を不規則動詞とすることも行われている。
[編集] 関連項目
[編集] コンジュゲーション
コンジュゲーション (conjugation) とは、動詞などが人称、数、性、時制、法、態、相といった文法カテゴリーに応じた規則的な語形変化をすることであり、これも日本語で活用と呼んでいる(名詞や形容詞の変化は、曲用 (declension) という)。
コンジュゲーションには、変化しない語幹に接辞や活用語尾を接続することによって語形を変化させるものと、形態の決まった語尾を持たず語形そのものを変化させるものがある。日本語は前者にあたり、人称や数、性などによる活用はなく、時制、法、態、相などの違いを区別する活用形をもっている。後者は屈折語に特徴的で、印欧語に代表される。
印欧語は、動詞が時制や主語の人称によって変化する。その際、英語でいえばその語尾となる-ing, -ed などは、接尾辞とは考えず、活用による語形変化と考え、活用語尾と呼ぶことがある。
ラテン語 | フランス語 | イタリア語 | スペイン語 | ポルトガル語 | 英語 | ドイツ語 | スウェーデン語 | ラトビア語 | ハンガリー語 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
不定詞 | esse | être | essere | ser | ser | to be | sein | vara | būt | lenni |
1人称・単数 | (ego) sum | je suis | (io) sono | (yo) soy | eu sou | I am | ich bin | jag är | es esmu | (én) vagyok |
2人称・単数 | (tu) es | tu es | tu sei | (tu) eres | tu és | you are | du bist | du är | tu esi | (te) vagy |
3人称・単数 | (is/ea/id) est | il / elle est | lui / lei / Lei è | él / ella / usted es | ele / ela / você é | he/she/it is | er / sie / es ist | han / hon / den / det är | viņš/ viņa ir | (ő/Ön) van |
1人称・複数 | (nos) sumus | nous sommes | (noi) siamo | (nosotros / nosotras) somos | nós somos | we are | wir sind | vi är | mēs esam | (mi) vagyunk |
2人称・複数 | (vos) estis | vous êtes | (voi) siete | (vosotros / vosotras) sois | vós sois | you are | ihr seid | ni är | jūs esat | (ti) vagytok |
3人称・複数 | (ei/eae/ea) sunt | ils / elles sont | (loro/Loro) sono | (ellos / ellas / ustedes) son | eles / elas / vocês são | they are | sie sind | de är | viņi, viņas ir | (ők/Önök) vannak |
[編集] 英語
動詞の変化表 (speak)
- 現在分詞: speaking
- 過去分詞: spoken
現在 | 過去 | 現在完了 | 過去完了 | |
---|---|---|---|---|
一人称 | speak | spoke | have spoken | had spoken |
二人称 | speak | spoke | have spoken | had spoken |
三人称単数 | speaks | spoke | has spoken | had spoken |
[編集] イタリア語
動詞の変化表(parlare = speak, talk; しゃべる、話す)
- 現在分詞: parlante
- 過去分詞: parlato
直説法単純時制と近過去、命令法現在のみ示す。
現在 | 半過去 | 遠過去 | 単純未来 | 命令法現在 | 近過去 | |
---|---|---|---|---|---|---|
一人称単数 | parlo | parlavo | parlai | parlerò | ho parlato | |
二人称単数 | parli | parlavi | parlasti | parlerai | parla | hai parlato |
三人称単数 | parla | parlava | parlò | parlerà | parli | ha parlato |
一人称複数 | parliamo | parlavamo | parlammo | parleremo | parliamo | abbiamo parlato |
二人称複数 | parlate | parlavate | parlaste | parlerete | parlate | avete parlato |
三人称複数 | parlano | parlavano | parlarono | parleranno | parlino | hanno parlato |
[編集] フランス語
動詞の変化表(parler = speak, talk; しゃべる、話す)
- 現在分詞: parlant
- 過去分詞: parlé
直説法単純時制と複合過去、命令法のみ示す。
現在 | 半過去 | 単純過去 | 単純未来 | 命令法 | 複合過去 | |
---|---|---|---|---|---|---|
一人称単数 | parle | parlais | parlai | parlerai | ai parlé | |
二人称単数 | parles | parlais | parlas | parleras | parle | as parlé |
三人称単数 | parle | parlait | parla | parlera | a parlé | |
一人称複数 | parlons | parlions | parlâmes | parlerons | parlons | avons parlé |
二人称複数 | parlez | parliez | parlâtes | parlerez | parlez | avez parlé |
三人称複数 | parlent | parlaient | parlèrent | parleront | ont parlé |
[編集] ドイツ語
動詞の変化表(sprechen = 英 speak, talk; 話す、しゃべる)
- 過去分詞: gesprochen
- 現在分詞: sprechend
但し、この動詞は不規則動詞(現在活用・三基本形で語幹の母音が変化する動詞、強変化動詞とも呼ばれる)である。
現在完了(助動詞haben, sein)、過去完了、未来形(助動詞werden)、未来完了はいずれも[助動詞(+助動詞の不定形)+本動詞の不定形/過去分詞]で作られ、助動詞が動詞と同じように活用するため、ここには(直説法の)現在完了のみ挙げた。 ドイツ語も参照のこと。 [編集] スペイン語規則動詞の変化表(hablar = speak, talk; 話す、しゃべる)
|