浄水器
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浄水器(じょうすいき)は、水道水を給水栓(各家庭の蛇口)より後の段階できれいにするための機器である。有機物、次亜塩素酸およびこれに由来する化合物、カルシウムやマグネシウム、金属などの物質を減少させる。
類似の機能を持つ家庭用製品に浄水蛇口があるが、こちらは除去能力が低い代わりに構造が単純で安価である。
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[編集] 使用目的
- 日本の水道水には水道法の定めにより、必ず次亜塩素酸が給水栓(例えば各家庭の蛇口)の時点で残留するように添加されている(残留塩素の項を参照)。このためウィルスや、大腸菌をはじめとする有害な微生物、有機物などは混入していても既に無害化されている筈であり、本来浄水器で取り除くべき対象とは言えない。万が一混入しているとすれば集合住宅などで清掃されていない給水タンクなど人為的な汚染源があるためであり、これを取り除くことが先決である。
- 次亜塩素酸と不純物とが反応して生じた化合物の一部(例えばトリハロメタンなど)には発ガン性があるとされ、日本での浄水器の主な目的はこの化合物の除去にある、とされる。しかし、これを本当に水道水から取り除く必要があるのか、必要であるとすればどこまで取り除けば安全なのか、科学的な定説は未だに示されていない。化合物でない次亜塩素酸そのものは、人体内で胃酸によって塩化水素、すなわち胃酸自体の主成分に変化し、水道水では含まれる量も少ないことから、これを飲み続けてもまず害はない。また実際に日本の水道水で次亜塩素酸化合物によって人体に何らかの被害が発生したとの報告も皆無である。この点での浄水器の効果に対する評価は未だ一様ではない。
- クリプトスポリジウムなど次亜塩素酸に強い一部の原虫は、最近では浄水場の管理が徹底されるようになってまず混入はないと考えられるが、通過する物質の大きさが概ね1マイクロメートル以下(マイクロメートルはミリメートルの千分の一)のフィルタか精密ろ過膜を通せば十分に取り除くことができる。
- 欧米で家庭用浄水器が発達した主な理由は、大陸で河川の長さが日本よりも長いため、水道水に炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムなど地表に広く存在する物質が大量に溶け込んでおり(これを「硬度が高い」「硬水である」と言い表す)、これによって料理の味が変わったり、場合によっては直接飲用すると下痢などの症状を起こすためである。しかし日本では河川の長さが短く、全国的にみても水道水中のカルシウムやマグネシウムの量は飲用に適した濃度にとどまっている(「硬度が低い」「軟水である」と言う)ため、必ずしも除去すべき対象とは言えない。
- 他に、水道水には水道管や給水タンクが古くなって劣化することなどにより金属などの不純物が混じっていることがあり、これらを取り除くことも目的とされる。また、開発途上国などで水道水の殺菌や不純物の除去が不完全である場合は、それぞれに適した機能を持つ浄水器が有効となる。
[編集] 機能と原理
次亜塩素酸やその化合物、およびイオン化したカルシウムやマグネシウム、金属などはあまりにも小さいため、活性炭を通すか、逆浸透膜で分離する必要がある。
活性炭は次亜塩素酸と反応して僅かずつ失われると同時に、その表面の細かい孔に不純物を吸着してゆく。このため、通水した量や時間に関係なく全ての活性炭が不純物を吸着し終われば寿命を迎える。また、長期間使用しているとその細かい孔の中で微生物が増殖するため、製造段階で殺菌のための銀などを蒸着または噴霧しておくが、それでも時間が経つと微生物が発生してくることは避けられない。このため、活性炭の寿命はこれらを総合的に考え合わせてメーカーごとに決められている。
逆浸透膜は水分子だけを透過させ、その他の物質を表面および内部をも使って阻止し、濃縮水として排出する。使用中に膜の表面が不純物で覆われてくることと、特定の金属イオンなど膜を劣化させる物質(膜の素材により異なる)が流入することによって次第に処理水量やイオンの阻止率が低下してくるが、その寿命は使用水圧や水質、水温などによって大きく異なるため一概には言えない。実際に使用する場合は寿命を延ばす目的で、最初にフィルタ、次に活性炭を通してから使うのが一般的である。
一方、それ以外に除去すべき対象は上述の通り、クリプトスポリジウムなどの原虫や、水道管またはタンクの劣化などによる不純物であるため、基本的には孔径が概ね1マイクロメートル以下のフィルタか精密ろ過膜を通せばよいと考えられる。
日本では少ないが、金属などのイオンの除去にイオン交換樹脂を使う場合もあり、これを特に純水器と呼ぶ。イオン交換樹脂には陽イオン交換樹脂(自身が持つ水素イオンを水中の陽イオンと置き換える)と陰イオン交換樹脂(自身が持つ水酸イオンを水中の陰イオンと置き換える)とがあるが、水には空気中の二酸化炭素が溶解していて陰イオンである炭酸イオンが過剰であるため、陰イオン交換樹脂を多めに入れておくことが必要である。水素イオンまたは水酸イオンが放出され終わるとイオン交換樹脂は寿命となり、交換または薬品を使った再生が必要となる。
[編集] 注意
水道水以外の雨水や井戸水、川の水や工業用水を浄水器に通しても、飲用するのに安全とは限らない。最寄りの保健所などに相談して水質分析を行った上で、適切な処理方法を選択する必要がある。
また災害時用に、持ち運びできて生水(雨水、井戸水、河川水など)や泥水から飲用可能な水を得られる器具もある。しかし、これらの器具は農薬などの毒性物質や金属イオンを必ずしも取り除くことはできない。使用する場合は原水にこうした物質が含まれる水を使わないよう、十分な注意が必要である。
[編集] 形状・設置方法
利用方法は、水道の蛇口に取り付けるものが多いが、中には屋内配管に組み込むものもある(ビルトインタイプ)。ビルトインタイプは、システムキッチンに組み込まれて、メインの水道栓の他に浄水用の水道栓を持つものが多い(アンダーシンク型)。フィルタ部分をシンクの下に組み込むことができるので、フィルタを大きくでき、交換間隔を減らせるというメリットがある。
汲み置きができるポット型や、災害用のものにはストロー型もある。
製品によっては、アルカリイオン水を生成できるもの(アルカリイオン水生成機)や、大腸菌などの有害菌や鉛などの重金属も除去できる性能を有するものもある。
一般的なものは、ホームセンターや家電量販店などで数千~数万円程度で入手可能であるが、訪問販売で販売される物の中には価格が数十万円もする物もある。また水道局関係を騙って「水道水が汚染されている云々」といったセールストークで販売する手法が採られるものなど、いわゆる悪徳商法といえるものもある。消費者センターや国民生活センターへの苦情が多い品目でもある。
[編集] 関連
[編集] 外部リンク
- 有限責任中間法人 浄水器協会 - 業界団体
- 水商売ウォッチング - 天羽優子(山形大学)による批判サイト。怪しげな浄水器について科学的立場からのコメントあり