病理検査
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病理検査(びょうりけんさ、Pathological examination)とは、疾患の診断や原因(病因)の究明を目的として、手術または検査の目的で採取された臓器、組織、細胞などを対象に病理診断を行うことである。同義語に病理学的検査、病理組織学的診断などがある。
病理診断の方法としては、
- 摘出された臓器や組織の一部を肉眼的に観察する(肉眼診断=マクロ診断)
- 顕微鏡標本を作製し光学顕微鏡を用いて組織学的な検索を行う(組織診断=ミクロ診断)
- スライドグラスに付着させた細胞を染色して顕微鏡下で診断する(細胞診断=細胞診)
- 病死した患者の死因、合併症、治療効果の究明を目的に解剖をする(病理解剖=剖検)
などがある。特殊な検査手段として電子顕微鏡を用いた細胞や組織の観察が診断に必要なこともある。
ヒトの疾患の診断を目的として行う病理検査は医療行為である。したがって医師、歯科医師のみが病理診断を行う権限と責務がある。臨床検査技師は病理標本の作製に重要な役割を担っている。標本作製の良し悪しや染色の質は病理診断の品質に大いに影響する。実際の病理検査室では、病理検体の受付登録、標本作製、染色までを検査技師が分担し、病理診断は医師(または歯科医師)が行っている。
細胞診検査では、臨床検査技師の資格を有し日本臨床細胞学会が認定した細胞検査士(サイトスクリーナー)が予備診断を分担している。最終的な診断の責任は医師または歯科医師が負う。
病理解剖については、死体解剖保存法に従って死体解剖資格を有する医師または歯科医師が行う。
手術材料や生検材料などを対象に、ヒトの疾患の病理診断などを研究する領域を総称して「外科病理(surgical pathology)」と呼ぶ。外科病理学を専門にする医師または歯科医師を病理医と称する。外科病理学では疾患ごとの病理形態学的な特徴を明らかにし、診断基準や組織学的分類を策定したりすることを研究の目的としている。腫瘍であれば予後の判定に必要な情報の提供、治療の適用や妥当性を評価することも外科病理の専門医の役割である。
病理医の制度や役割はアメリカの医療の発展の中で専門職として確立された。病院に勤務して臨床検査や病理検査を専任で行う病理医の数は米国では非常に多い。専門医数としては整形外科医に匹敵する数といわれている。日本では病理学が基礎医学の研究分野として発展してきた経緯があり、病理検査の専門医の認定を日本病理学会が本格的に行い始めたのは1980年代の初頭からである。専門医数は順調に増えているが、大学などで研究職にある医師が相当数を占めるのが現状である。病院に勤務し病理診断を専門に行う医師の実数は1500名前後といわれ、中規模以上の医療機関(病院)でも常勤病理医不在の施設がかなりの数にのぼっている。小児科医、産婦人科医の不足が叫ばれているが、2005年現在、病理医の不足も深刻である。病理医の社会的認知度を上げる努力が病理医に託されている。