発癌性
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発癌性(はつがんせい)とは、その物質を人体に取り込むことによって、その影響で体内に癌(悪性腫瘍)を発生させる恐れのある性質のこと。発癌性物質(はつがんせいぶっしつ)とは発癌性をもつ物質のことである。いずれも本稿で扱う。
発癌性は遺伝子に作用することで発現すると考えられているが、実際の癌は細胞DNAの幾重もの突然変異と環境因子が積み重なって発生すると考えられている。ある細胞が癌化すると、時が経つにつれて大きな腫瘍に増殖する。突然変異は種々の異なる機構で発生し、全てが知られているわけではないし、それに加えて全ての突然変異が癌になるわけでもない。したがって、「水疱瘡がVZウイルス(Varicella-zoster virus)の感染で起こる」といったふうには癌では原因を特定できず、種々の因子を比べて癌になる危険率の違いを示せるだけである。
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[編集] 発癌機構
19世紀において、発癌機構はデンマークのフィビガーの唱える寄生虫発癌説とドイツの病理学者ウィルヒョウの提唱する癌刺激説が対立していたが、1915年に日本国の病理学者山極勝三郎・市川厚一がウサギを用いてコールタールを刺激物として実験的に癌を発生させることに成功した。
その後発癌物質の探求が進むにつれ、発癌性を持つ物質(発癌イニシエーター)とそのもの自体は発癌性は持たないがイニシエーターが共存すると発癌確率が大幅に向上する物質(発癌プロモーター)が発見され、イニシエーター/プロモーター発癌仮説が提唱された。それまでに発癌性をもつ事物として、化学物質の他にも放射線やウイルス感染が発癌性に関与することが明らかになっており、この段階で遺伝子損傷と発癌機構とが関係あることがおぼろげながらも判明してきていた。イニシエーター/プロモーター仮説ではイニシエーターが直接遺伝子を損傷することは実験的にも判明したが、「赤発」などの病理的関係はわかるものの、プロモーターの遺伝子レベルの作用機序は解明が進まなかった。
1980年代以降の分子生物学の急速な進展により、プロモーター作用とされていたものが複雑な細胞内シグナル伝達と遺伝子発現制御機構であることが徐々に判明し、現在では発癌には複数の遺伝子の順次変化が必要であるとする多段階発癌説が提唱されている。
したがって実際の発癌は、発癌物質がDNAを損傷することに起因するが、多数存在するいわゆる発癌遺伝子と癌抑制遺伝子はそれ自身の発現や遺伝子翻訳産物を介して発癌に関係している。また、細胞内でのDNA修復や細胞免疫による微視レベル癌の排除など複雑なプロセスで進行するため、何か1つの要素をもって発癌性への量的関与を計測することは事実上不可能である。
また、慢性肝炎からの癌化やアスベスト吸入による肺癌の発病などは、DNA損傷によらない発癌機構をもち、いずれも長期間にわたる炎症反応が癌化を誘導するとされている。長期の炎症反応は癌化を促す2つの効果、すなわち (1)細胞増殖の活性化と (2) TNF-a, NF-kBを介した抗アポトーシス作用を引き起こす。癌化誘導において、(1)と(2)は槍と盾のようなものである。(1)で細胞増殖が活性化されると、DNA複製が通常より活発になる。その結果ミスが起こりやすくなったり、外部因子に影響されやすくなって変異を導入してしまう。通常、このようなミスはp53などによって取り除かれるが、(2)の作用によってp53の作用が打ち消される。その結果、発癌が誘導されるのである。(Nature,431,461-466,2004 および PNAS,103(27),10397-10402,2006 を要訳)
[編集] 発ガン性リスクの分類
世界保健機関(WHO)の下部機関である国際がん研究機関(IARC)は、ヒトの疫学調査あるいは生物学的知見および動物実験結果に基づいて、純物質、混合物、生活環境の発癌性リスクを評価し、定期的に勧告している。IARCの発癌性リスクの分類を次に示す。
- グループ1 :人に対して発癌性がある
- グループ2A:人に対しておそらく発癌性がある
- グループ2B:人に対して発癌性があるかもしれない
- グループ3 :人に対する発癌性については分類できない(不明である)
- グループ4 :人に対しておそらく発癌性がない
個々の物質・事例については『IARC発がん性リスク一覧』を参照頂きたい。
[編集] 評価方法
発癌性の試験法としては普通、マウスやラットなどのげっ歯類(または必要に応じてその他の哺乳類)に検体を連続投与して各臓器の癌の有無を検索する試験(長期発癌性試験)が行われている。これには1年以上の長期間を要するため、より短期間で結果の出る方法として「中期発癌性試験」も用いられている。これは3~4ヶ月程度の連続投与後、過形成などの前癌病変を検索する方法である。そのほか、培養細胞を用いた代替法として「形質転換試験」などが研究されている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
IARC発がん性リスク評価(IARC Monographs Programme on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans; 英語)
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