糸里

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糸里（いとさと、生没年不詳）は江戸時代末期の女性。新撰組幹部永倉新八が書き残した『浪士文久報国記事』や『新選組顛末記』の芹沢鴨暗殺事件の際に現場に居合わせた女性「輪違屋糸里」としてその名が見える。

[編集] 生涯

輪違屋

輪違屋は京都島原の置屋で、糸里はそこの芸妓だった。新撰組初期の副長助勤平間重助の馴染みだったらしい。平間は水戸出身で筆頭局長芹沢鴨の一派だった。事件当日の糸里の様子については昭和の初めに子母澤寛が八木為三郎（新撰組が屯所にしていた八木家の子息）から聞き書きした『新撰組遺聞』にある。

文久3年（1863年）9月18日、日も暮れたので寝ようと為三郎と弟が玄関左手の寝屋へ入ったら、知らない女の人が床にしゃがんでいた。為三郎と弟が驚いて母（おまさ）に知らせると、母は驚く風でもなく別の部屋に床を敷いた。浪士組が来て以来、隊士と馴染みの女が家に黙って入り込むことはよくあったらしい。この女性が糸里だった。

その後、平山五郎の馴染みの芸妓の桔梗屋吉栄がやって来て、芹沢の愛人のお梅や八木家の女中とお勝手で談笑していた。

やがて芹沢、平山、平間が帰ってきて、芹沢とお梅、平山と吉栄は奥の10畳間へ、平間は糸里のいる玄関口の部屋へ入って同衾して寝た。

芹沢たちが寝入った深夜、突然、数人の男たち（試衛館派の土方歳三、山南敬助、沖田総司、原田左之助という説が有力）が奥の部屋へ踏み込み、芹沢と平山を殺害し、その場にいたお梅を惨殺して立ち去った。

騒ぎを聞きつけた平間が驚いて家の中を駆け回って怒鳴っていたが、やがて事情を察して逃げ出した。（暗殺事件の張本人の）近藤勇と土方歳三が八木家へ事情を聴きにやってきた時には、糸里と吉栄もどこかへ姿を消していた。

輪違屋に糸里という名の芸妓がいたという記録はなく[1]、糸里のその後も、素性も一切不明である。

なお、昭和になって島原が衰退し、ほとんどの全ての置屋やお茶屋が廃業したが、輪違屋は現在も唯一営業を続けており、建物は京都市文化財に指定されている。

2004年に浅田次郎が糸里を主人公とした時代小説『輪違屋糸里』を著した。上記のとおり芹沢鴨暗殺事件の際に八木家に居合わせた以外は糸里個人については何もわからず、作中の彼女のキャラクター設定はすべてフィクションである。