裁判官訴追委員会
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裁判官訴追委員会(さいばんかんそついいいんかい)は、裁判官を弾劾するにあたり、当該裁判官を裁判官弾劾裁判所に訴追するために国会に設置される国家機関である。
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[編集] 訴追される裁判官
すべての裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される(日本国憲法第76条第3項)が、裁判官弾劾法第2条の規定により
- 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき
- その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき
には、裁判官弾劾裁判所に訴追することができるとされている。ただし、訴追することができる期間(訴追期間)は、原則として3年間とされる(裁判官弾劾法第12条)。
[編集] 訴追の請求
訴追の請求については、何人も、裁判官について弾劾による罷免の事由があると思料するときは、訴追委員会に対し、罷免の訴追をすべきことを書面により求めることができるとされており、その証拠については要しないとされている(裁判官弾劾法第15条第1項、第4項)。
また、高等裁判所長官はその勤務する裁判所及びその管轄区域内の下級裁判所の裁判官について、地方裁判所長はその勤務する裁判所及びその管轄区域内の簡易裁判所の裁判官について、家庭裁判所長はその勤務する裁判所の裁判官について、弾劾による罷免の事由があると思料するときは、最高裁判所に対し、その旨を報告しなければならない。最高裁判所は、裁判官について、弾劾による罷免の事由があると思料するときは、訴追委員会に対し罷免の訴追をすべきことを求めなければならないとされている(裁判官弾劾法第15条第2項、第3項)。
[編集] 組織
[編集] 訴追委員長
裁判官訴追委員会の委員長は、会務を統理し、訴追委員会を代表し、委員長に事故のあるときは、予め訴追委員会の定める順序により、他の訴追委員が、臨時に委員長の職務を行う(裁判官弾劾法第6条)。
[編集] 訴追委員
- 裁判官訴追委員は、独立してその職権を行う(裁判官弾劾法第8条)。
- 裁判官訴追委員の数は、衆議院議員及び参議院議員各10人とし、その予備員の員数は、衆議院議員及び参議院議員各5人とする(裁判官弾劾法第5条第1項)。
- 委員の選挙(裁判官弾劾法第5条第2項~第5項)
- 衆議院議員たる訴追委員及びその予備員の選挙は、衆議院議員総選挙の後初めて招集される国会の会期の始めにこれを行う。
- 衆議院議員たる訴追委員又はその予備員が欠けたときは、衆議院においてその補欠選挙を行う。
- 参議院における訴追委員及びその予備員の選挙は、第22回国会の会期中にこれを行う。
- 参議院議員たる訴追委員又はその予備員が欠けたときは、参議院においてその補欠選挙を行う。
- 委員の任期は、衆議院議員又は参議院議員としての任期による(裁判官弾劾法第5条第6項)。
[編集] 事務局
裁判官訴追委員会には事務局がおかれ、定数や職員の任命については、裁判官訴追委員会の委員長が衆参両議院の議院運営委員会の承認を得てこれを行う(裁判官弾劾法第7条)。
裁判官訴追委員会はきわめて小規模な組織であるため、事務局の施設は衆議院の施設に附属して設けられている。現在の所在地は、東京都千代田区永田町2-1-2 衆議院第二議員会館内。
事務局の職員は裁判官訴追委員会参事と呼ばれる国会職員で、1名が事務局長となる。主に衆議院事務局等からの出向者からなっているが、2006年まで長年、判事の職にある中堅の裁判官が最高裁判所から出向して裁判官訴追委員会事務局長に就任する人事慣行があり、訴追委員会の性質上、不適切であるとする意見があった。
[編集] 招集・議事
- 裁判官訴追委員会は委員長が招集するが、5人以上の訴追委員の要求があるときは、委員長は、訴追委員会を招集しなければならない(裁判官弾劾法第9条)。
- 議事については衆参両議院の委員のうち7人以上が、出席しなければならず、議事は非公開で行われる。また、議事は、出席訴追委員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。但し、罷免の訴追又は罷免の訴追の猶予をするには、出席訴追委員の3分の2以上の多数でこれを決する。(裁判官弾劾法第10条)
[編集] 調査
訴追委員会は裁判官について、訴追の請求があったとき又は弾劾による罷免の事由があると思料するときは、その事由を調査しなければならない。調査については、訴追委員を派遣することができ、官公署に委嘱することもできる。なお、訴追委員を派遣する場合はその委員の所属する議院の議長の承認を受けなければならない(裁判官弾劾法第11条・第12条)。
[編集] 訴追の猶予
訴追委員会は、情状により訴追の必要がないと認めるときは、罷免の訴追を猶予することができる(裁判官弾劾法第13条)。
[編集] 訴追状の提出
裁判官の訴追は、裁判官弾劾裁判所に訴追を受ける裁判官の官職、氏名及び罷免の事由を記載した訴追状を提出することによって行われ、訴追委員会は、追訴状を弾劾裁判所に提出したことを直ちにその旨を最高裁判所に通知することとなっている(裁判官弾劾法第14条)。