議員立法
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議員立法(ぎいんりっぽう)とは、立法府に所属する議員の発議により成立した法律の俗称である。立法行為そのものを指す場合もある。
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[編集] 日本の国会
日本の国会において成立する法律案の大多数が行政府たる内閣提出のものである。慣行として内閣提出の法律案を優先して審議する傾向にあり、議員の発議による法律案は提出されてもほとんど審議されることなく廃案となることが多い。こうした背景から、国会議員による立法を特に議員立法と呼ぶようになった。また、両議院の委員会の提案する議案も議員立法にあたる。衆議院議員が提出した法律案は衆法、参議院議員が提出した法律案は参法と称される(内閣が提出した法律案は閣法)。
実際に議員立法として成立する法律案は、議員が熱心にその問題に取り組んでいたり、新しい価値観に基づいたもので政府が前面に出て参画しにくいものであることが多い(特に生命倫理に関する法制度の構築を目的とする場合に顕著である)。また、利益団体から政治献金を受けた議員が立法することもある。ただし、法律案そのものは作成に特殊な専門知識が要求されること等もあり、行政府の官僚が関与している場合が多い。その他、内閣が法案を提出する場合は、与党への事前説明等、手続がより煩雑になることから、それを避けるために議員立法の形式がとられることもある(この場合は完全に形式のみの議員立法となる)。いずれにせよ、政府・与党と利害が対立する議員立法は可決されることができず廃案となる。
法律上の制度では、衆議院では20名以上、参議院では10名以上の賛成がないと提案することができない。さらに予算を伴う場合はそれぞれ50名、20名以上の賛成が必要となる。しかし、実際には各会派は議院事務局に、会派の承認の無い議員立法を受理しないよう申し入れているため、議員が単純に賛同者を集めただけでは提案できないのが現状である。これらの法律案の作成においては、両議院にそれぞれ設置された議院法制局が議員に協力する。議員の立案依頼に対して、その原案の問題点などを指摘し、これを繰り返して作られた法案を最終的に議院法制局が審査し、問題が無ければ議員により提出される。なお、議院法制局の能力の問題等もあり、これらの過程において政府(各府省)による非公式の内容確認(実質的な審査)が(議院法制局からの善意の情報提供という形式を通じて)実施される場合もある。
[編集] 議員立法の例
- 優生保護法(現母体保護法)
- 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
- 臓器の移植に関する法律
- 児童虐待の防止等に関する法律
- ストーカー行為等の規制等に関する法律
- 貸金業の規制等に関する法律
- 子どもの読書活動の推進に関する法律
- ダイオキシン類特別措置法
- 特定非営利活動促進法
[編集] 現在与党議員が提出している法律案
- 衆議院提出
- 臓器移植に関する法律の一部を改正する法律案(2案)-臓器の摘出要件等の緩和などを内容
- 海洋構築物等に係る安全水域の設定等に関する法律案
- 日本国憲法の改正手続に関する法律案
- 地理空間情報活用推進基本法案
- 永住外国人に対する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権の付与に関する法律案(公明党のみ提出)
[編集] 野党議員が提出している法律案で委員会に付託されている法律案
- 衆議院提出
- 人身取引等の防止及び人身取引等の被害者の保護に関する法律案
- 牛海綿状脳症対策特別措置法の一部を改正する法律案
- 輸入牛肉に係る情報の管理及び伝達に関する特別措置法案
- 道路交通法の一部を改正する法律案-幼児へのヘルメット着用義務化法案
- 海底資源開発推進法案
- 排他的経済水域等における天然資源の探査及び海洋の科学的調査に関する主権的権利その他の権利の行使に関する法律案
- 刑事訴訟法の一部を改正する法律案-権利保釈制限事由の制限、被疑者段階での弁護人の立会い捜査、捜査の可視化等の制度を設ける法案
- 消費生活用製品等及び特定生活関連物品に係る危険情報の提供の促進等に関する法律案
- 国立国会図書館法の一部を改正する法律案-国立国会図書館に恒久平和調査局の設置等を定める法案
- 日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案
- 民法の一部を改正する法律案-夫婦別姓等を認める法案
- 公職選挙法等の一部を改正する法律案-インターネットによる選挙運動を認める法案
- 学校教育法の一部を改正する法律案-学校にいじめ等の専門相談員を設置する法案
- 刑法及び道路交通法の一部を改正する法律案-飲酒運転等の処罰の厳格化
- 交通基本法案
- 電気通信事業法の一部を改正する法律案-インターネットの青少年保護のための閲覧制限に関する法的整備を図る法案
- カネミ油症被害者に対する特別給付金の支給に関する法律案
- 参議院提出
- 特殊法人等の役職員の関係営利企業への就職の制限に関する法律案
- 戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案
- 国家公務員の離職後の就職に係る制限の強化その他退職管理の適正化のための国家公務員法等の一部を改正する法律案
- 国が行う契約の過程及び内容の透明性の確保等による契約事務の適正化を図るための会計法の一部を改正する法律案
[編集] 日本の地方議会
地方議会においても国会と同様の傾向が見られ、成立する条例案のほとんどは首長提出のものである。なお、議員立法に熱心な地方議員はかえって同僚議員から「目立ちたがっている」と疎まれることさえある。
[編集] アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では厳格に三権分立がなされており、大統領には連邦議会に対する法案提出権さえ認められておらず、議員立法のみとなっている。ただし、教書を送付したり、近しい議員に法律案の提出を依頼する、拒否権を背景に法案を修正させるなどして、立法過程に関与することは可能である。
[編集] 関連項目
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