野辺山宇宙電波観測所
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野辺山宇宙電波観測所(のべやまうちゅうでんぱかんそくじょ)は、日本を代表する電波天文台。八ヶ岳のふもと、長野県南牧村に位置する。英語略称は NRO (Nobeyama Radio Observatory)。 正式には、自然科学研究機構国立天文台野辺山宇宙電波観測所/太陽電波観測所。
それぞれ扱っている部門で部署が分けられており、宇宙電波観測所と太陽電波観測所を総合して「野辺山電波観測所」と呼んでいる。 現在、2012年の運用を目指したALMA計画を推進中。
この地における太陽電波観測が始まったのは、電波ノイズが少ない事と小海線等によるアクセスの良さ、さらには信州大学の実験農場等があり、他大学から協力を得て行われることになったためである。その太陽電波観測所の敷地内に、三鷹キャンパス等で開発研究が行われた後、大型ミリ波望遠鏡を設置することになったのである。
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[編集] 主な観測装置
[編集] 宇宙電波観測所
- 45mミリ波望遠鏡
- 1981年に完成した、口径45mの電波望遠鏡。波長が数ミリの電波「ミリ波」を観測する電波望遠鏡としては世界最大を誇る。現在、BEARS と呼ばれる25素子受信機が搭載されており、一度に25点を観測することができる。これにより、高速マッピング観測が可能になった。いくつもの新星間分子、原始星周囲のガス円盤、ブラックホール存在の証拠の発見など、世界的にも重要な観測成果を出し続けている。
- 野辺山ミリ波干渉計 (NMA: Nobeyama Millimeter Array)
- 口径10mのアンテナを6台結合させ、最大口径600mの電波望遠鏡に相当する高解像度観測を行うことができる電波干渉計。原始惑星系円盤の発見などで活躍している。
- (Note.1)両望遠鏡とも、集光力を限界まで高めるために開発されたホモロガス変形法を採用している。また、パラボラ面の裏側にカバーをし、かつまた、温度調整機構などを備えている。45m望遠鏡に関しては、レーザーを用いた鏡面精度測定装置によって、メンテナンスの必要があるときにはパラボラ面を測定し、すばる望遠鏡と同様のアクティブ鏡面支持装置によって鏡面精度を維持する機能を持つ。
- (Note.2)音響レーザー変換型スペクトル分析装置によって、高い精度のスペクトル分析が可能な観測装置を搭載している。また、超低温型受信素子の開発研究、相関演算装置の開発研究、解析ソフトウエアの開発等のプラットホームとなった望遠鏡でもある。
[編集] 太陽電波観測所
- 電波ヘリオグラフ
- 直径80cmのアンテナ84台を東西490m、南北220mのT字型の線上に配置した太陽観測専用の電波望遠鏡。実質直径120メートル近い電波望遠鏡と同等の受信範囲を持ち、観測対象は太陽の全面である。撮影される画像はカメラで撮影したような映像で、プロミネンスや黒点などを視覚的に観察できるのが大きな特徴である。最高で毎秒20枚の電波画像を取得することができ、天候に関係なく毎日太陽を観測している。
- 野辺山強度偏波計
- さまざまな周波数を用いて太陽の電波を計測することを目的とした電波計で、それぞれ1、2、 3.75、 9.4、 17、 35、 80 GHzの7周波数を持つ観測機から成っている。太陽の爆発のメカニズムを研究することが主な目的である。
[編集] 公開情報
年末・年始を除いて自由見学が可能であり、団体に対しては案内員をつけるために事前申し込みが必要。
毎年8月の20日頃に「特別公開」としてイベントを行っており、普段は入ることのできない研究棟や観測棟あるいは45mミリ波望遠鏡の内部に入ることが可能になり、職員側もいくつかのイベントを自治体と協力しながら催している。 見学等でも丁寧な説明や観測所員の方々の親切な対応によって、多くの天文ファンが訪れる。特に、天文学や宇宙物理学を指向する若い人たちのみならず、ベテランのアマチュア観測家の方々による高い評価も得られている。
施設内には観測対象や観測目的によって開発された、バラエティに富んだ数多くのパラボラアンテナを擁している。
<注意>当観測所を含む電波観測所では、微弱な宇宙電波の観測を行っているため、駐車場から場内に入る際には、携帯電話等の電源を切ることが推奨されている。携帯電話の電波の電力を1とすれば、宇宙から得られる電波は10の-12乗以下程度であるため。このような微弱なささやきの中から、電波を解析し、正確な観測を行うため、雑音となる携帯電話の電波をなくすためである。
[編集] その他
電波天文学分野であり、かつまた、開口合成法を用いた観測を行うため、天文学分野では日本で一番最初にスーパーコンピュータ(富士通VP-400)を導入した観測所としても知られている。太陽電波望遠鏡に関しても、その画像を得るためには大きな計算機資源が必要なため、これまた専用のスーパーコンピュータシステム(NEC SX-4)を導入した。
国内で最初に水素メーザー原子時計を開発し運用の開始を行ったことも当観測所の他に先駆けた研究であり、この目的はVLBI観測の精度を高め、かつまた、ミリ波領域において高い精度の観測を行うためでもある。なお、ミリ波領域の観測を開始したのは、東京大学附属宇宙線研究所によって開発され、三鷹キャンパスに設置された10m電波望遠鏡からである。そして、その後東京天文台によって開発された20m電波望遠鏡によって本格的なミリ波観測が開始された。なお、この望遠鏡は、現在もVLBI観測点の一つとして活躍している(参照:国立天文台水沢VERA観測所 入来局)。
(Note.)野辺山宇宙電波観測所の10m干渉計型電波望遠鏡は、初期に開発された10m電波望遠鏡の流れを汲んだものである。なお、20m電波望遠鏡では、ホモロガス変形法を東京大学附属宇宙線研究所、東京大学附属原子核研究所、国立天文台(当時は、東京大学附属東京天文台)で開発・設計を行い、それを元に望遠鏡の製造が可能なメーカを調査したところ、三菱電機及び日本電気が残り、三菱電機が格安にて請け負ったため、最終的に45m電波望遠鏡の製造を委託したものである。
(Note.)当観測所には半導体を製造できる装置も置かれており、電波望遠鏡の心臓部である、受信装置も本観測所にて開発が行われている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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