電子カルテ
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電子カルテ(でんしカルテ)とは、従来医師・歯科医師が診療の経過を記入していた、紙のカルテを電子的なシステムに置き換え、電子情報として一括してカルテを編集・管理し、データベースに記録する仕組みのことである。
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[編集] 概念
検査オーダー、処方、画像・検査結果参照、会計等、比較的事務的色彩の強く定型化が可能な作業について電子化したオーダリングシステムは、比較的早期から多くの病院で実用化されており、病院業務の効率化に貢献してきた。
一方、狭義に「電子カルテ」という場合、医師法で規定され、5年間の保存が義務付けられた医師の診療録自体の電子化を指す。もっとも、オーダリングシステムと狭義の電子カルテとは、単一の端末上で操作されることがほとんどであるため、併せて「電子カルテシステム」と呼称することも多い。歯科医師法も同様。
[編集] 紙のカルテとの比較
カルテ記載を電子化することにはいくつかの利点がある。
- カルテの物理的な管理が不要になり、紛失の恐れが少なくなる。長期の大量保存も容易。
- テキストとして診療経過が保存されるため、文字が判読不能といった問題がなくなる。
- 院内をネットワーク化することにより、任意の場所でカルテを呼び出して参照できる。
- 検査結果や画像とリンクさせることで、画像に直接コメントを入れたり、データをその場で様々な切り口からグラフ化するなど従来できなかった記載が可能になる。
- 紹介状、診断書作成時や学会発表時などに、データの柔軟な再利用が可能。
- 処方や検査オーダーと一体化することで実際の実施内容と記載内容を容易に一致させられる。
対して、紙のカルテに劣る面も存在する。
- ディスプレイ上での一覧性は見開きの紙に比べて非常に低い。
- ペン1本で記載できる紙と違い、操作に慣れが必要で入力時間もかかるうえ、入力内容の柔軟性も低い。
- 停電時、システムダウン時などに閲覧さえできなくなる危険性がある。このため、電力の供給停止や通信ネットワークの断絶が予測される災害時医療などには不向きである。
- データ量が膨大である為、システム全体のレスポンスが悪い。
- セキュリティへ配慮する必要性が高い。
- デジタルな文字は記憶をたどることが難しくなる。
- データの短時間で大規模な盗難が考えうる。
- 認証には通常パスワードや指紋認証などを利用するが、万全なものとは言い難い。
- 改変に際して証拠が残りづらい
[編集] 法的整備
カルテとは、医師が医師法第24条に基づいて記載し、 5年間の保存が義務付けられている準公式書類である。 そのため、検査オーダや画像参照・会計などのオーダリングシステムのように 単純に効率のため電子化できるものではなく、狭義の電子カルテの実現には法的な裏づけが 必要であった。
1999年に厚生省(当時)は診療録の電子媒体による保存を認める 通達を発表し、その際、電子カルテのガイドラインとして知られる以下の 3つの条件を満たすよう求めた。
- 真正性
- 書換、消去・混同、改ざんを防止すること。作成者の責任の所在を明確にすること。
- 見読性
- 必要に応じ肉眼で見読可能な状態にできること。直ちに書面に表示できること。
- 保存性
- 法令に定める保存期間内、復元可能な状態で保存すること。
[編集] 標準化と今後の展望
2004年現在、日本では電子カルテについて、業界標準となるソフトウェアや データ交換フォーマットは存在しない。 電子カルテを採用していても、他院に紹介状を書く際にはデータや診療画像を フィルムや紙に印刷して患者に持たせる以外にないのが、ほとんどの病院での現状である。 診療情報の交換フォーマットとして、 日本では診療情報をXMLで表現するMML(Medical Markup Language)などの仕様が提案されている。MMLは(NPO)MedXMLコンソーシアムで開発・改良が進められている仕様で、日本医師会標準レセプトソフト(ORCA)と電子カルテを接続する仕様にもMMLの部品であるCLAIMが採用されている。 一方で、アメリカを中心としてHL7の仕様策定が進んでおり、 電子カルテフォーマットの標準化についてはまだ混乱のある状況である。
カルテはその性格上、聴診や触診所見、入院後の経過等につき、自然言語や図面を使って 記入されることが多い。これが年齢や処方内容等、容易に構造化できる情報とは違う カルテ保存での技術上の難題となっている。 保存される情報の粒度を上げ、細かい入力欄を設けるほどに入力時間が増加し自由度は減少する。 一方で、自然言語による記述は現状では、のちの情報の再利用や検索に支障を来たし、 医療情報の構造化という意味では一歩譲る(しかし、構文解析エンジンや検索エンジンなどの進歩により、近い将来、自然言語による記述でも実用上大きな弊害のなくなる可能性はある)。
また、専用のタイピストが音声から診療情報を入力して行くシステムが確立されているアメリカと比べ、1人当たりに投入できる医療資源の限界があり、これも電子化の普及への障害となっている。