診療録
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診療録(しんりょうろく、独Karte:カルテ、英medical record)とは、医療に関してその診療経過等を記録したものである。かつてはドイツ語で書かれていた。
また全体的な概念として診療情報、または医療情報とも言われる。(※本稿では診療録に関することのみではなくこの概念についても記述。)
近年では電子カルテ化が進んでいる。
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[編集] 用語
日本で一般に知られている「独Karte:カルテ」はドイツ語では「カード(英語のcard)」という意味である。
[編集] 分類
- 診療情報:診療の過程で知りえた患者に関するすべての事象。
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- 診療録:診療に関する経過を記録したもの。
- その他診療に関する諸記録:検査結果、手術所見、レントゲン写真など。
[編集] 法律
現在日本の法律では「診療録」と「その他の診療に関する諸記録」は便宜上別物として扱われている。
[編集] 医師法
医師法第24条1項に、医師は患者を診療したら遅滞なく「経過を記録すること」が義務づけられている。これを「診療録」としている。また、2項で記録後最低5年間は保存することが義務づけられている(医療機関内で診療したものについては、その医療機関の義務である)。
診療録は単なるメモにとどまらず医療訴訟においても証拠としての重要性は非常に大きく、たとえ必要な処置を行っていたとしてもカルテに記載がない場合、行ったとの主張は認められない可能性もある。
[編集] 歯科医師法
歯科医師法も医師法と同様の規定がなされている。
[編集] 医療法
医療法第5条では都道府県知事と一部市長、区長は、必要な場合に医師、歯科医師、助産師に対し診療録、助産録等の提出を命ずることができるとされている。
第21条において病院、第22条において地域医療支援病院、第23条において特定機能病院は、それぞれ診療に関する諸記録を備えておかなければならないとされている。また25条では診療所、助産所、病院に対して都道府県知事と一部市長、区長は、また特定機能病院に対して厚生労働大臣は、それぞれ必要な場合に診療録その他を検査することができるとされている。
第69条では診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することができることを広告することができるとされている。第71条では助産所が助産録に係る情報を提供することができる旨を広告することができるとされている。
医療法施行規則では、診療録以外の検査記録や画像写真、手術所見など「診療に関する諸記録」は病院に対し2年間の保存が義務付けられている。
[編集] 個人情報保護法
現在では診療録、その他診療に関する諸記録等すべての「診療情報」の管理、開示等の規定は個人情報保護法を基にして運用されている。ちなみに同法第2条においてこの法律で扱う「個人情報」は「生存する個人に関する情報」と規定されている。
各種医療機関は「診療情報」という個人情報を扱う「個人情報取扱業者」とされているため、原則患者本人から開示請求があった場合はこれを開示することが義務付けられている。
一方、患者の家族、または遺族に対しては開示規定はなく、患者死亡の際の医療訴訟では遺族が裁判所に証拠保全を申し立てるといった法的措置を行う場合もあるが、現在では、各医療機関もこれに対応してきており、厚生労働省は診療録開示のガイドラインを制定している。
[編集] その他
診療情報の扱いについては、以下の法律も関係している。
- 刑法第134条
- 正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密(医療においては診療情報)を漏らしてはならない。
- 刑事訴訟法第149条
- 業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するもの(医療においては診療情報)については、証言を拒むことができる。
- 児童虐待防止法第6条
- 規定により本人の承諾が無くとも保健所、都道府県知事に患者の住所氏名等も届け出ることが規定されている。またはこの場合の個人情報である診療情報は個人情報保護法第16条によって公衆衛生上必要な場合には規定されないとされている。
- ※覚せい剤取締法においては届出義務は無い。このため本人の承諾無しに通報、届出を行うと刑法第134条に抵触する恐れがある。(最近もこれをめぐって訴訟が生じた。)
- 食品衛生法第27条
[編集] 診療録の記載
[編集] 内容
医師法施行規則には、診療録には以下の4つを最低限記録しなければならないと定められている。
- 診療を受けた者の住所、氏名、性別及び年齢
- 病名及び主要症状
- 治療方法(処方及び処置)
- 診療の年月日
しかし一般的に、診療録に記載される内容は以下のようなものである。不必要な項目については適宜記載されないこともあるが、システマティックに患者の状況を知って適切な医療を行うため、以下の項目はすべて重要である。
- 患者の基本情報
- 氏名・年齢・性別・住所・保険証番号等
- 主訴(CC; Chief Complaint)
- 胸痛・発熱といった、患者が来院するきっかけとなった主な訴えであり、診療はここから始まる。
- 現病歴(PI; Present Illnessまたは O.C; onset and course)
- いつから、どのように主訴が始まり、どのような経過をとったのか、前医ではどのような治療を受けたのか、どのような症状が出たのか。
- 既往歴(PH; Past History)
- 過去に患者がかかった病気。現在の病状の把握や、治療の際の方針に大きく影響する。
- 家族歴(FH; Family History)
- 親族や同居者の病気・健康状態。遺伝性疾患や感染症等で家族歴が重要となるだけではなく、患者背景を知り適切な治療方針を立てる上での参考になる。
- 社会歴(SH; Social History)
- 出身地・職業・日常の生活状況・趣味。これらから診断が絞られることは珍しくない。
- 嗜好
- 喫煙・飲酒等
- アレルギー
- 花粉等のほか、アレルギーを起こす薬剤について
- 現症・身体所見
- 視診・聴診・触診による所見、反射・精神状態等
- 検査
- 血液検査・画像検査等各種の検査結果や予約の状況
- 入院後経過・看護記録
[編集] 問題指向医療記録
カルテが単なるメモでないのは上述の通りである。しかし、実際には書いた本人にしかわからない略号だらけであったり、不十分な記載しかないというものもまた多い。本人も読めない場合すらある。チーム医療の重要性が注目されている中で、そのたたき台となるべきカルテは記録として機能する必要があり、その方法論のひとつが問題指向(型)医療記録、(POMR: Problem Oriented Medical Record又はPOS:Problem Oriented System)である。特に入院後の治療・看護計画を立てる上で有益な方法であり、採用している病院が多い。
この方法ではまず問題点を列挙し、それぞれの問題について記録内容を以下の4項目に分離する。
- S(Subject):主観的データ。患者の訴え、病歴など。
- O(Object):客観的データ。診察所見、検査所見など。
- A(Assessment):上2者の情報の評価。
- P(Plan):上3者をもとにした治療方針。
問題を列挙した一覧をProblem Listと言う。問題点毎に、「収集した情報」と「そこからの判断」を明確に区別することから始めるのである。そして客観的に得た情報と聴取した情報も区別した上で、その中から問題点を抽出し、それぞれの問題点について評価と対処を記録していくというものである。(POMR又はPOSはこの4項目の頭文字をとってSOAPと呼ばれることもある)
実際にこれら4者を明確に区別できない場合も多く、厳密にこのルールに従うことは不可能なこともあるが、これを意識して記載することでカルテの機能性を向上させることが期待される。
[編集] 診療録で用いられる略語の一覧
略記 | 原語(和製英語もある) | 日本語訳 | 解説 |
# | Problem Number | 問題番号 | Problem Listで列挙した問題点を、SOAPに書き下す際に用いる |
(→) | 変化なし | 検査結果に変化が無い | |
(+) | 陽性 | 検査で陽性の結果が出た | |
(-) | 陰性 | 検査で陰性の結果が出た | |
A) | Assessment | 評価 | 主観的データや客観的データに対する分析 |
Do | ditto(ラテン語) | 前回と同じ | 処方、処置、検査などのオーダで用いる |
Dx | Diagnosis | 確定診断 | 疑いや問題より解釈が進んだ事を意味する |
IVH | IntraVenous Hyperalimentation | 静脈内高カロリー輸液 | 経口摂取が不足するときに行う栄養輸液、もしくはそのためのルートを指していう。 |
Lab; Labo | laboratory | (生化学)検査結果 | 血液検査の結果一覧の前に表記される事が多い |
n/p | Nothing Particular | 特に無し | 特筆すべき異常は見られない |
O) | Object | 客観的データ | 診察所見、検査所見など |
P) | Plan | 治療計画 | 評価をもとにした治療方針 |
p/o | per os | 経口 | 薬などを口から摂取する事 |
S) | Subject | 主観的データ | 患者の訴え、病歴など |
s/o | Suspicious of | 疑い | 評価の項に記述すべきだと思われる |
Tx | Therapy | 治療 | 治療計画の項に記述すべきだと思われる |
ワイセ | White Blood Cell (count); white count | 白血球(数) | 末梢血白血球(細胞数) |
(I~VIまでのギリシャ数字)/VI | Levine ○/VI | Levine分類六分の○度 | 心血管雑音の大きさ |
これらの略語はなるべく用いるべきではないと考えられている。
[編集] 関連項目
カテゴリ: 医学関連のスタブ項目 | 医療