鯨肉
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鯨肉(げいにく) とは、食品として扱われる鯨類や、その小型種の一部の総称であるイルカ類の可食部全般を指す。筋肉・内臓・鯨類特有の脂皮(脂肪層)なども含む。
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[編集] 種類と食味
獣肉の常として、その食味は、種類によって大きく異なる。日本では、捕鯨問題をめぐる議論の中、しばしば「鯨肉」として同一に扱われるが、それは牛肉も羊肉も同じ『ウシ目(偶蹄目)肉』として同一に扱うような乱暴な話であり、種類(系統群、種、あるいは地域系群)によって食味や資源管理に必要とされる議論の方向性が大きく異なるため、別々に扱うのがふさわしい。
食味は、まず大きく「ハクジラ(マッコウクジラ、ツチクジラ、イルカ類など)」と「ヒゲクジラ(シロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ミンククジラなど)」で異なり、それぞれの中で更に異なっている。
このうち、ハクジラに属するマッコウクジラは、日本では鯨油目的捕鯨で捕獲が行われた地域の食文化の食材として使われたことはあるものの、きわめて強いクセを持っていることから、基本的には食用には適さないとされる(世界的にもインドネシアの一部などを除き、ほとんど食用とはされない)。また、ツチクジラやイルカ類も、マッコウクジラほどではないがクセが強く、個人による好き嫌いや地域文化による嗜好の地域性が強く分かれるとされる。
対して、ヒゲクジラに属する鯨類の肉は、ハクジラ類よりは味のクセが少なく牛肉などに近い食味であるとされる。ただしヒゲクジラ類の中でも、鯨種によってかなりの差がある。
[編集] 流通
2007年現在は、主にツチクジラとミンククジラの鯨肉が流通している。
ミンククジラは、日本では1970年代から商業捕鯨対象にされるようになり、食べられるようになった。
海溝に沿って回遊して深海のイカ類を捕食するツチクジラは、千葉県房総半島太平洋岸のように、該当種の捕鯨が行われてきた地域では古くから食べられ、特有のクセに応じた調理法も工夫されてきた(ジャーキー状の「鯨のタレ」と呼ばれる加工品など)。ただ、外房のツチクジラ漁では、基本的に「血抜き」をせず「血を味わう」と表現されたりもするものであるため、クセの強さが強調されている。
他に、静岡県などイルカ漁が行われている地方では、イルカ肉も流通している。イルカ肉も地域的な食文化ではあるが、時おり「鯨肉」として遠隔地まで流通する場合がある。
北海道函館市近郊に店舗展開するファストフード店の「ラッキーピエロ」では、ハンバーガーのレギュラーメニューの一つとして「くじら味噌カツバーガー」を提供している。
2006年上半期には、国内における鯨肉の供給過多(だぶつき状態)が各紙で報道されている(まとめサイト)。
- 1月30日(月)- 産経新聞 「『クジラ』在庫 10 年間で倍増 調査捕鯨拡大で供給過多」
- 2月11日(土)- 朝日新聞 「鯨肉の在庫、調査捕鯨拡大で増加 水産庁が消費拡大に」
- 2月14日(火)- 産経新聞 「広がる鯨肉給食 4 都府県 100 校以上で“復活”」
[編集] 食文化の流れ
江戸時代より商品経済、特にウンカを主対象とした水田害虫駆除剤としての鯨油などの商品化と結びついた組織的な捕鯨が行われるようになり、それら沿岸部の一部地域では、鯨肉は常食とされており、近傍経済圏にも伝統的な鯨肉料理が存在する。長期保存に適した加工が難しく、雑菌の増殖などによる痛みが早い為、漁村の地産地消が原則であった。また、少量が塩蔵品などの形で大都市などに輸送され、珍味とされていたという記録もある。
第二次世界大戦前後の食糧難時代以降になると、そうした特定の限られた流通圏を越え、日本中に鯨肉食が広まった。鯨カツ、鯨ステーキ、鯨カレーなどの鯨肉料理の大半は、牛肉や豚肉の入手が困難だった時代に、鯨肉を代用獣肉という位置づけの食材として使ったものである。戦後しばらくは、鯨肉は魚肉練り製品とともに、安価な代用肉の代名詞であり、日本人の重要なたんぱく質源として食生活の中で重要な位置を占めた。戦後を生き抜いた人々の間では「鯨肉=代用=安物」といった偏見・嫌悪感もある一方で、当時へのノスタルジーを惹起する食材でもある。
また、近年は急速冷凍の技術が発達したことにより、「刺身」として供されることも多い。かつては、新鮮な魚介類が食べられる地域は海に囲まれた日本でも多いとは言いがたかった。大坂(現在の大阪)のように海に面した土地でも、塩漬け、粕漬けなどの加工を施した食品がほとんどであり、京では棒鱈や身欠き鰊などの干物ばかりであった(川魚はあったが量が少ない上に生食には適さず、琵琶湖の魚もなれずしなどの加工されたものが主であった)。鯨肉は保存、加工が難しいこともあって、都市での消費をまかない、漁村に利益をもたらすほど広く流通することはなかった。したがって、鯨から採れた脂は都市に供給し、肉は地元で消費するといった形になったとされる。
鯨肉をめぐる食文化論には、「江戸時代には鯨食が文化として根付いていた地域が(わずかに)存在した」「日本国内で鯨食が一般化したのは第二次世界大戦前後であり、その位置づけは代用獣肉であった」というもの等がある。また、「食文化として一切存在しなかった」「広く存在した食文化であった」とする論は正しくないとされる。
[編集] 鯨肉の名称
- セセリ - 舌。さえずりともいう。かつての関西のおでん種等に用いられた。
- オバケ(尾羽毛) - 尾びれ。水にさらして、酢みそ和えなどにする。「おばいけ」「花くじら」とも。
- オノミ(尾の身) - 尾びれの付け根の霜降り肉(鯨肉では最高級部位)。刺身、ステーキに用いられる。
- ヒャクヒロ(百尋) - 腸。茹でて食べる。
- コロ - 皮の脂を絞った残り。本皮ともいう。
- カノコ(鹿の子) - あごからほほにかけて関節回りの肉で、霜降り状態のもの。はりはり鍋や刺身で食べる。
- 赤身肉 - 背肉、腹肉などの脂肪の少ない部位。カツなどにされる。給食ではフライや竜田揚げにした。
- ウネス(畝須) - ヒゲクジラの下あごから腹にかけて見られる縞模様の肉。
- さらしくじら - 脂肪が付いたままの表皮に熱湯をかけ、冷水でさらし、塩漬けしたもの。酢みそで食べる。
- くじらベーコン - 下あごから腹にかけての凹凸部分である畝須(うねす)で造る。薄切りしたものを軽く火であぶるなどして食べる。
ただし、前述のように鯨種によって食味が違ったり、取れる鯨肉の種類が異なったりする場合がある。
(例:「オノミ」の部位は、ミンククジラにはほとんど存在しない。等。)