アーレイバーク級ミサイル駆逐艦
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アーレイバーク級ミサイル駆逐艦 | |
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艦級概観 | |
艦種 | ミサイル駆逐艦 |
艦名 | 海軍功労者 一番艦はアーレイ・バーク提督に因む |
前級 | スプルーアンス級駆逐艦 |
次級 | ズムウォルト級ミサイル駆逐艦 |
性能諸元 | |
建造費: | ~$8億US$ |
排水量: | 8,315 トン(満載)(Flight I) 8,400 トン(満載)(Flight II) 9,200 トン(満載)(Flight IIA) |
全長: | 154 m (Flights I , II) 155 m (Flight IIA) |
全幅: | 18 m |
喫水: | 9.3 m |
機関: | LM2500 ガスタービンエンジン4基、2軸 合計100,000馬力(75 MW) マスカー装置付き5枚スクリュー |
速力: | 最大30+ ノット (56+ km/h) |
航続距離: | 4,400 海里(20ノット時) (8,100 km 、37 km/h時) |
兵員: | 士官23名、兵員300名 |
兵装: | • ハープーン対艦ミサイル4連装発射筒 ×2基(フライトIIAでは搭載せず) • Mk41VLS ×90セル(フライトIIAでは96セル) • Mk45 mod 3 5インチ単装砲 ×1門(DDG-51 - 80) • Mk45 mod 4 5インチ単装砲 ×1門(DDG-81 -) • ファランクスCIWS ×2基(DDG-83、DDG-85以降は搭載せず) • 324mm3連装短魚雷発射管 ×2基 |
探索装置: | • SPY-1D 対空レーダー ×4基 • SPS-67(V)3 対水上レーダー ×1基 • SQS-53C(V)1 ソナー ×1基 • SLQ-19B 曳航ソナー ×1基 |
射撃管制装置: | • SPG-62 スタンダードミサイル誘導装置 ×3基 |
艦載機: | • ヘリコプター1機着艦可能 (Flights I , II) • LAMPS III ヘリコプター ×2機(Flight IIA) |
アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦(Arleigh Burke class destroyer)は、アメリカ海軍のイージスシステムを搭載したミサイル駆逐艦。1番艦アーレイ・バークは1991年に就役した。海上自衛隊が保有するこんごう型護衛艦のベースとなった艦でもある。
目次 |
[編集] 開発の経緯
1970年代、アメリカは空母機動部隊に対するソ連の対艦ミサイル飽和攻撃に対する防御手段としてイージスシステムを開発し、それに合わせスプルーアンス級駆逐艦をベースとしてイージスシステムを搭載するタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦を開発した。
タイコンデロガ級は本来イージスシステムを搭載する予定だった原子力打撃巡洋艦に比べ小型でコストを抑えた設計となっていたが、それでも当時あった艦隊防空艦をすべて代替するにはコストが高すぎた。しかし近い将来に艦隊防空艦は耐用年数がきてしまうためそれを代替できる程度の価格で製造できる安価なイージス艦が必要であるのは明らかであった。そして開発されたのがアーレイバーク級ミサイル駆逐艦である。アーレイバーク級で求められたのはあくまで性能面ではなく価格面だったため能力をタイコンデロガ級の75%程度に押さえ建造費を抑えることとした。ところが、その後も更新による各種アップデートにより建造費は膨らむばかりで、とりわけ搭載を断念したはずのヘリ格納庫を復活させたフライトIIAは、排水量はフライトIより約900t増大している。そこで、ファランクスCIWSやハープーンを省略したり、また、VLSのクレーン(ストライクダウンモジュール)を撤去して、積めるミサイル搭載数を増やすなどの対応策がおこなわれている。
アーレイバーク級は開発から15年近く経った現在でも各種改良が加えられながら建造が続いている。なお、新規発注は既に終了しており、合計建造数は62隻となる予定。また、2006年度から、最終ベースライン(60~62番艦)を基準とした改装が順次実施されることになっている。
なお、一部の艦は、弾道ミサイル監視・追尾任務用の改装を受けている。
[編集] 船体
アーレイバーク級は実際に建造された中で開発時からイージスシステムの搭載が考慮された最初の艦である。タイコンデロガ級はスプルーアンス級にイージスシステムを後付した艦であるためどうしても機関の位置などの都合からレーダーが前後に分けられてしまうなど無駄が多くその分重量が増えてしまった。それに対してアーレイバーク級ではまずレーダーの配置を決めてから各種設計をおこなっていったため無駄が少なくすみレーダー自体も理想的な位置への配備が可能となった。またレーダーを一つにまとめたおかげでレーダー自体の若干の小型軽量化ということにもなった。
アーレイバーク級は建造費削減のために配管などの部分をスプルーアンス級と共通にしたり、内火艇を廃止し小型のボートを搭載するなどの工夫をしている。イージスシステム関連の重量の問題から各所で軽量化に気を配っており、例えば投揚錨装置は主錨、副錨、揚錨機各1基という同規模の艦に比べて貧弱なものになっている。また艦の安定性に重要な役割を果たすフィンスタビライザーも装備していない。
またステルス性も考慮されている。一番特徴的なのはマストで、従来までの骨組みが剥き出しの伝統的なラティスマストではなく、平面を組み合わせた新型のマストとなっている。そのほかにも全体的に平面で構成するなど各所にステルス性への工夫が見て取れる。
なお、検討段階では実際に建造されたずんぐりむっくりの船体とほっそりした船体の2案が検討され、最終的にコイントスで決定されたという冗談のようなエピソードがある。その後建造されたイージス艦が基本的に本艦をタイプシップとしていることから、ある意味1枚のコインが現代軍艦の歴史を決めたとも言える。
[編集] 装備
アーレイバーク級の外見上で最大の特徴は艦橋周辺に貼り付けられた4基のSPY-1Dフェイズドアレイレーダーである。SPY-1Dはタイコンデロガ級に搭載されていたSPY-1AまたはBの改良型で艦橋に4基すべてをまとめて搭載することでA/B型に比べ小型軽量となっている。
アーレイバーク級の戦闘能力での特徴は優れた対空攻撃能力であるがそのほかにも対潜、対艦も万能にこなすことが出来る。アーレイバーク級の主な兵装はMk41VLS、5インチ砲1門、ハープーン4連装発射筒2基、3連装短魚雷発射管2基、CIWS2基である。
[編集] ミサイル
Mk41VLSは前部に29または32セル、後部に61または64セルを装備する。Mk41VLSには数種類のミサイルが装備可能であるがアーレイバーク級では艦隊防空用のスタンダードミサイル(SM-2)、対潜用のVLA、対地用のトマホークを装備している。冷戦時代には艦隊防空の重要性からスタンダードミサイルを中心に装備していたがソ連が崩壊し対艦ミサイルによる攻撃の恐れは低下したため現在ではスタンダードミサイルの搭載数を減らしトマホークの搭載数を増やしているといわれる。また近い将来1セルに4発ずつの装備が可能な対空ミサイル、ESSM(発展型シー・スパロー) の搭載も予定されている。
[編集] 砲
主砲は艦首にMk45を1門装備する。Mk45は5インチ54口径で発射速度は毎分20発程度となっている。毎分20発という発射速度は決して現代の兵器としては速いものではなく、主砲の旋回速度もそれほどよくないため、Mk45は目標が高速で動く対空目標の場合での使用は困難であるが、その分軽量小型化が計られている。事実アーレイバーク級の改良型であるこんごう型護衛艦では毎分40発以上発射でき対空目標への使用が可能な艦砲を装備しているがその分艦首が延長されている。
DDG-81以降は5インチ62口径のMk45 Mod4を搭載する。Mk45 Mod4は発射速度などはMk45とほとんど同様であるが現在開発中のロケットモーターを使用し射程を100キロ以上に延長する対地攻撃用誘導砲弾 (ERGM) の使用が可能である。外見はステルス性を持たせるために平面を組み合わせた形状に変更されている。
[編集] 誘導装置
アーレイバーク級はスタンダードミサイル誘導用イルミネーターとしてSPG-62を前部に1基、後部に2基の計3基搭載する(艦橋上部のパラボナアンテナがそれである)。このレーダー1基で4発前後のスタンダードミサイルが誘導可能といわれており、これを3基搭載するアーレイバーク級は12発前後のスタンダードミサイルを同時に誘導できる。また前部のSPG-62は5インチ砲の射撃管制用としても使用される。
[編集] 同型艦
[編集] フライトI
フライト Iはアーレイバーク級の基本形。
- アーレイ・バーク (USS Arleigh Burke, DDG-51)
- バリー (USS Barry, DDG-52)
- ジョン・ポール・ジョーンズ (USS John Paul Jones, DDG-53)
- カーティス・ウィルバー (USS Curtis Wilbur, DDG-54)
- スタウト (USS Stout, DDG-55)
- ジョン・S・マケイン (USS John S. McCain, DDG-56)
- ミッチャー (USS Mitscher, DDG-57)
- ラブーン (USS Laboon, DDG-58)
- ラッセル (USS Russell, DDG-59)
- ポール・ハミルトン (USS Paul Hamilton, DDG-60)
- ラメージ (USS Ramage, DDG-61)
- フィッツジェラルド (USS Fitzgerald, DDG-62)
- ステザム (USS Stethem, DDG-63)
- カーニー (USS Carney, DDG-64)
- ベンフォールド (USS Benfold, DDG-65)
- ゴンザレス (USS Gonzalez, DDG-66)
- コール (USS Cole, DDG-67)
- ザ・サリヴァンズ (USS The Sullivans, DDG-68)
- ミリアス (USS Milius, DDG-69)
- ホッパー (USS Hopper, DDG-70)
- ロス (USS Ross, DDG-71)
[編集] フライト II
フライトIIはフライトIから各種電子戦システムの改良や燃料搭載量の増加などの改造が加えられたタイプであるが、外見でフライトIとの違いを見分けるのは困難。数少ない判別点はマストの最頂部で、フライトIではマストと同じ角度で傾いているが、フライトIIでは煙突からの排気の影響を避けるため垂直になっている。ただし2007年現在では相当数のフライトIのマストがフライトII仕様に改修されているためあまり参考にならない。またDDG-68~83のみがAN/SLQ-32A(V)3を装備していることもフライトIIの判別の助けとなるだろう。
- マハン (USS Mahan, DDG-72)
- ディケーター (USS Decatur, DDG-73)
- マクファール (USS McFaul, DDG-74)
- ドナルド・クック (USS Donald Cook, DDG-75)
- ヒギンズ (USS Higgins, DDG-76)
- オカーン (USS O'Kane, DDG-77)
- ポーター (USS Porter, DDG-78)
[編集] フライトII A
フライトII Aはそれまでの2つとは装備が大きく異なっており、最大の特徴はヘリコプターを2機搭載出来る格納庫を備えたことである。
アーレイバーク級は空母の支援が前提となる空母護衛用の艦隊防空艦として計画されたため、ヘリコプターは搭載せずヘリコプター甲板と給油能力のみを持っていたが、冷戦の終結とともに沿岸海域での作戦が重視されるようになり、ヘリコプターの必要性が改めて認識され、2機のヘリコプターを搭載することとなった。現在ヘリコプターは対潜対艦に使用可能なSH-60Bを装備しているが将来は陸上攻撃などもこなせるMH-60Rの装備が予定されている。
ヘリを搭載するフライトII Aでは格納庫の都合上、艦橋後部に装備される2基のSPY-1Dレーダーと後部VLS装備位置をあげる必要があり、その分重心が上昇してしまったが、艦の安定性を保つためには重心を下げる必要があった。そのためフライトII Aではコスト削減の必要もあったことからハープーン発射筒を取り外し、DDG-85以降は更にCIWSも搭載しないなど装備の簡略化がおこなわれている。ただしCIWSを撤去したのはESSMの開発に目処がついたというのも一つの理由である。しかし一部のCIWS非搭載艦は改装時に後部のみCIWSを追加している。またハープーン発射筒は必要時には前後煙突間に装備が可能である。
また、対潜任務の重要度低下により、曳航式ソナーの装備が廃止され、代わりにバウソナー内に機雷探知用の高周波ソナーが装備された。
Mk41VLSはフライトI、フライトIIでは前後VLSのうち3セルずつがミサイル再装填用のクレーンを装備するために割かれていたが洋上でのミサイル再装填は困難で危険も伴うことから現実的ではないとされ、フライトII Aではクレーンを廃止し、かわりにセル数を増し前部32セル、後部64セルの計96セルとなっている。
なおDDG-91からDDG-94の4隻は竣工時遠隔機雷掃討システム(RMS)を搭載していたが、後に全て撤去されている。
- オスカー・オースチン (USS Oscar Austin, DDG-79)
- ルーズベルト (USS Roosevelt, DDG-80)
- ウィンストン・S・チャーチル (USS Winston S. Churchill, DDG-81)
- ラッセン (USS Lassen, DDG-82)
- ハワード (USS Howard, DDG-83)
- バルクリー (USS Bulkeley, DDG-84)
- マクキャンベル (USS McCampbell, DDG-85)
- シャウプ (USS Shoup, DDG-86)
- メイスン (USS Mason, DDG-87)
- プレブル (USS Preble, DDG-88)
- マスティン (USS Mustin, DDG-89)
- チャフィー (USS Chafee, DDG-90)
- ピンクニー (USS Pinckney, DDG-91)
- マンセン (USS Momsen, DDG-92)
- チャン=フー (USS Chung-Hoon, DDG-93)
- ニッツェ (USS Nitze, DDG-94)
- ジェームス・E・ウィリアムズ (USS James E. Williams, DDG-95)
- ベインブリッジ (USS Bainbridge, DDG-96)
- ハルゼー (USS Halsey, DDG-97)
- フォレスト・シャーマン (USS Forrest Sherman, DDG-98)
- ファラガット (USS Farragut, DDG-99)
- キッド (USS Kidd, DDG-100)
- グリッドレイ (USS Gridley, DDG-101)
- サンプソン (USS Sampson, DDG-102)
- トラクスタン (USS Truxtun, DDG-103)
- スタレット (USS Sterett, DDG-104)
- デューイ (USS Dewey, DDG-105)
- ストックデール (USS Stockdale, DDG-106)
- グレーヴリー (USS Gravely, DDG-107)
- ウェイン・E・メイヤー (USS Wayne E. Meyer, DDG-108)
- ジェイソン・ダンハム (USS Jason Dunham, DDG-109)
[編集] 登場作品
[編集] 関連項目
- アメリカ海軍艦艇一覧
- 米艦コール襲撃事件:イエメン、アデン港で発生したコール(DDG-67)に対する自爆攻撃
Flight I: アーレイ・バーク | バリー | ジョン・ポール・ジョーンズ | カーティス・ウィルバー | スタウト | ジョン・S・マケイン | ミッチャー | ラブーン | ラッセル | ポール・ハミルトン | ラメージ | フィッツジェラルド | ステザム | カーニー | ベンフォールド | ゴンザレス | コール | ザ・サリヴァンズ | ミリアス | ホッパー | ロス
Flight II: マハン | ディケーター | マクファール | ドナルド・クック | ヒギンズ | オカーン | ポーター
Flight IIA: オスカー・オースチン | ルーズベルト | ウィンストン・S・チャーチル | ラッセン | ハワード | バルクリー | マクキャンベル | シャウプ | メイスン | プレブル | マスティン | チャフィー | ピンクニー | マンセン | チャン=フー | ニッツェ | ジェームス・E・ウィリアムズ | ベインブリッジ | ハルゼー | フォレスト・シャーマン | ファラガット | キッド | グリッドレイ | サンプソン | トラクスタン | スタレット | デューイ | ストックデール | グレーヴリー| ウェイン・E・メイヤー| ジェイソン・ダンハム