エクストリーム・アイロン掛け
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エクストリーム・アイロン掛け(Extreme Ironing, エクストリーム・アイロニング, 究極のアイロン掛け)は、人里離れた場所でアイロン台を広げて服にアイロンを掛けるエクストリームスポーツ(究極の、極限のスポーツ)である。
エクストリーム・アイロン掛けを行う場所としては、難易度の高いクライミングを伴う山の斜面や、森、カヌーの上、スキーやスノーボードの最中、大きな銅像の頂上、大通りの真ん中などがあり、アイロン掛けの目的をほとんど無視して、スキューバ・ダイビングをしながら行うこともある。
エクストリーム・アイロン掛けは、エクストリームスポーツを行う刺激と、アイロンをすっきりと掛けたときに得られる満足感を組み合わせたものであると言われる。このスポーツは一見パロディやいたずらのように見えるが、アイロニストたちの多くは極めて真剣である。イギリスの新聞社ガーディアンはこのスポーツについて、イギリス人の持つ奇行(eccentricity)の伝統を踏襲したスポーツであると紹介している。現在この競技に関するイベントの多くに、家電製品のメーカーであるロウェンタ社(Rowenta)がスポンサーとして参加している。
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[編集] 歴史
このスポーツは、イギリスのイースト・ミッドランズ地域にあるレスター(Leicester)の住人、フィル・ショウ(Phil Shaw)が自宅の裏庭で行ったことに始まる。しかし、このスポーツはもはやイギリスだけのスポーツではない。1999年6月、ショウは、「スチーム」というあだ名の通り、蒸気が出るほどに奮起し、このスポーツを広めるための世界遠征に旅立ち、途中アメリカ、フィジー、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカなどに立ち寄った。ニュージーランドでドイツ人旅行者達と出会い、その出会いがエクストリーム・アイロン掛け事務局(Extreme Ironing Bureau, EIB)と、エクストリーム・アイロン掛けドイツ支部(German Extreme Ironing Section, GEIS)の設立のきっかけになった。
2002年9月には、初の世界大会がドイツ・ミュンヘン郊外のバレイ(Valley)で行われた。エクストリーム・アイロン掛けドイツ支部が開催したこの第1回世界大会は成功を収め、世界各国のメディアの注目を引き付けた。参加者はオーストリア、オーストラリア、クロアチア、チリ、ドイツ、イギリスなど世界各国から集り、10ヶ国の参加者の全8チームが競技を行った。
このスポーツが考案されて以後、本流からの分派を自称するグループ、アーバン・ハウスワーク(Urban Housework, "都市における家事労働"。アイロン掛けの代わりに野外で掃除機を掛けるグループ。)ができつつある。このグループは自然環境を乱し、植物が腐食せず、堆肥化をしなくなるような行為を行うために、アイロニスト達からは邪道と見做されている。
2002年12月、ずばり「エクストリーム・アイロン掛け(Extreme Ironing)」という題のドキュメンタリーをイギリスのチャンネル4が作成した。
2003年のロウェンタ杯は、南アフリカのウォルフバーグ・クラック(Wolfberg Cracks)にある峡谷の上でアイロン掛けを行ったグループに贈られた(彼らは高さが30mもある峡谷上に渡したロープにぶら下がりながらアイロン掛けを行った)。その年の後半フィル・ショウは「エクストリーム・アイロン掛け(Extreme Ironing)」という本(ISBN 1843305550)を出版した。また翌年には「空の下でアイロン掛け(Ironing Under the Sky)」という DVD が登場した(ASIN: B00070DW00, 製作元: Hot Under the Collar Productions)
2004 年、事務局(EIB)はさらなるアイロニストを募集するため、ロウェンタ・ツアーと称してアメリカに旅立ち、マウント・ラッシュモア、ニューヨーク、デビルズタワーでアイロン掛けを行った。このツアーはアメリカのテレビ局 ABC の朝のニュース番組 "グッドモーニング・アメリカ" のインタビュー取材を受け、最高潮を迎えた。
[編集] オリンピック公認競技の提案
2004年のアテネオリンピックの直後、金メダルを通算5個獲得したスティーブ・レッドグレーブ(イギリスのボート競技の選手)が、エクストリーム・アイロン掛けをオリンピック競技にしたほうがいいと後押しした。「すばらしいスポーツだ。少し変わったところがいくつかあるけれど、あと数年もすればボート競技がオリンピックからはずされて、エクストリーム・アイロン掛けが入るかもしれないよ!」
創始者のスチームは「スティーブがボート競技を本気で終わらせようと考えている訳ではないと思うが、それでもイギリススポーツ界の第一人者に後押しされたのはすばらしいことだ。ひょっとすると、ボートを漕ぐ選手たちにまじって、エクストリーム・アイロン掛けという新しいスタイルのスポーツが始まるのを見ることができるかもしれない。」と付け加えている。
これらの意見を擁護するために、スチームは懐疑派の人達に対し、シンクロナイズドスイミングとそのオリンピックにおける立場を考えてほしいと言っている。さらにオーストラリアのアイロニスト、ファブロン(Fabulon)は、カーリングというスポーツを見て欲しい -- あれが冬季オリンピックの正式種目になるんだったらエクストリーム・アイロン掛けが正式種目として認識されるのに何の問題もない、と言っている。
[編集] 世界記録
このスポーツの最近の発展により、色々なエクストリーム・アイロン掛け世界記録が作られている。この流行は、イギリス人のアイロニスト二人組が、エベレストのベースキャンプでアイロン掛けを行ったことで始まった。記録はまもなくキリマンジャロの頂上(5859m)でアイロンを掛けた "南アフリカのY字の星"(South African Yster)によって破られた。現在のアイロン掛け高度記録は、アルゼンチン・アコンカグアの頂上(6959m)でアイロン掛けを行った "アイロン男・カリック"(Iron Man Carrick) が保持している。"ホットプレート兄弟"(Hot Plate Brothers)もこの記録に挑戦したが、頂上に到達できなかった。
エクストリーム・アイロン掛け水中最深記録は、イギリス人のアイロニスト、ダイブ・ガール(Dive Girl)がエジプト沖で達成した、水深100mである。2005年1月、オーストラリアのスキューバダイビングのグループが、水中で43人同時にアイロン掛けを行うことにより、水中の多人数エクストリーム・アイロン掛け記録をニュージーランドのチームから奪取した。それ以来ニュージーランドのチームが挑戦を続けている。
2004年4月、クリース・ライトニン(Crease Lightnin')が、アイロン掛けの道具を全て装着してロンドンマラソンに出場し、途中で服にアイロンを掛けながらフルマラソンを走破するという記録を達成した。リーズ在住のこのアイロニストはマラソンコースを4時間8分で走破した。
苛酷な状況で衣類にアイロンを掛けた最長の記録は、創始者であるフィル・ショウ(通称スチーム)が 2003年12月に発祥の地であるレスター(Leicester)で達成した。彼はクリスマスの買物客が困惑している所の20メートル上空で、デビッド・ブレインというマジシャンが使うような透明で巨大な箱の中に入り、アイロン掛けを行った。
[編集] 一般の文化での紹介
イギリスの人気ドラマ、イーストエンダーズ(EastEnders)の2004年8月2日の回で、エクストリーム・アイロン掛けが引用された。事務局 EIB によると、ドラマの登場人物がホットプレート兄弟の最高高度記録を引用したという。
エクストリーム・アイロン掛けは、アメリカのテレビ局CBSの番組、サタデー・モーニングのニュースで取り上げられたほか、ニューヨーク・タイムズ、ザ・サン、シドニー・モーニング・ヘラルド、カルカッタ・テレグラフ、ウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポスト、トロント・スター、タイム、ESPN.com、フィナンシャル・タイムズなど多くのメディアで取り上げられた。
日本では、テレビ朝日系『笑いの金メダル』の1コーナー「投稿あなたもヒロシランキング」で紹介されたことがある。そのときの掛け方は、滝に打たれながらアイロンをかけるというものだった。
大阪毎日放送『ちちんぷいぷい』2007年2月13日放送分で、特集として紹介された。競技や概要の説明がされ、公園(おそらく大阪市内にある児童公園)において実演(鉄棒で腕立て伏せをしながらのアイロンがけ、鉄棒にぶら下がり逆さになりながらのアイロンがけ、自転車に乗り走りながらのアイロンがけなど)もなされた。また同放送において、日本国内での競技人口が5人(取材当時)であることも公表された。
テレビ東京系『ハロー!モーニング』2007年3月18日放送分では、公園で、オートバイで走り過ぎざまのアイロンがけ、雲梯に逆さにぶら下がってのアイロンがけなどが実演された。また、アイドルの藤本美貴と亀井絵里がすべり台をすべりながらのアイロンがけなどに挑戦した。
[編集] 同傾向のエクストリームスポーツ
- アーバン・ハウスワーク(都市における家事労働): 野外で掃除機を掛ける。この行為は環境に悪影響を及ぼすと多くの人々が考えている。
- エクストリーム・会計事務: パロディのようにしか見えないが、実は管理会計協会 CIMA と会計ソフトウェアの会社 CODA が協賛している。
- エクストリーム・サンドイッチ: マーマイト(ビール酵母から作ったマーガリンのようなもの)の販売戦略のために行ったコンテスト。
[編集] 外部リンク
- 競技についての解説
- Extreme Ironing Japan site(エクストリームアイロニングジャパン)
- Extreme Ironing Bureau organization's site
- Austrian Extreme Ironing website
- Australian Extreme Ironing website
- Dutch Extreme Ironing
- German Extreme Ironing
- Extreme-Accounting website
- 競技の例(録画画像)
- YouTube: エクストリーム・アイロン掛け紹介ビデオ uploaded by gordonfox123
- 川中、ランドローバー釣り状態など、いくつかの場面を紹介
- YouTube: ダイブ・ガールによる水中でのエクストリーム・アイロン掛け(3分2秒)
- 世界最深度記録(2007年4月1日現在)