ニューヨーク・タイムズ
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ニューヨーク・タイムズ (The New York Times) は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市に本社を置くアメリカ最大規模の新聞社。間違われやすいが、ニューヨーク・ポストやワシントン・タイムズとは別物である。
同紙は1851年にニューヨーク市で発行していたニューヨーク・トリビューン紙に対する高級新聞というスタイルをとり創刊された。当初は優れた体裁が人気を集め順調に発行部数を伸ばしたが、南北戦争後に、南部に対する寛大な論調が反感を呼び一時低迷した時期もある。その後20世紀に入ると全米はもとより世界各地に取材網を張り巡らせ、日曜版を世界で初めて掲載するなどしてアメリカを代表する高級紙としての現在の地位を確立した。
英語圏ではしばしば、"タイムズ"と略される。" times.com " ドメインはニューヨーク・タイムズが所持している。" All The News That's Fit To Print "(印刷に適したニュースはすべて掲載する)とのモットーが毎号A-1面の左上に印刷されている。
日本においては朝日新聞社と提携しており、東京支局を朝日新聞社東京本社ビル内に設けている。東京支局長はノリミツ・オオニシ(2007年3月現在)。また共同で英字紙ヘラルド朝日(International Herald Tribune/The Asahi Shimbun)を発行している。
ビリー・ジョエルは代表曲、「ニューヨークへの想い」で、ニューヨーク望郷の念をデイリーニューズとニューヨーク・タイムズに込めた。
また同紙はユダヤ人によるパレスチナ人への差別迫害を隠蔽黙殺し、到底人権を貴重とるすリベラル紙とは思えない一面も見て取れる。イスラエルの語る物語を強調し、その一方で、イスラエルの占領、パレスチナ人の土地の収奪、イスラエルによる国家テロ、パレスチナ系イスラエル人や占領地、そして国外に離散したパレスチナ人に向けられる組織的な差別などの経験が報道されることはほとんどない[要出典]。
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[編集] 歴史
ニューヨーク・タイムズは1851年9月18日にヘンリー・ジャーヴィス・レイモンドとジョージ・ジョーンズによって創刊された。レイモンドはAPの創設者でもある。 新聞は1896年にアドルフ・オークスによって買収され、彼の指導のもとで国際、経済などの記事を強化していった。1897年には " All The News That's Fit To Print " というスローガンを採用したが、これは競合するニューヨーク市の新聞ニューヨーク・ワールドやニューヨーク・ジャーナル・アメリカンなどのイエロー・ジャーナリズムに対する牽制と思われる。本社を42番通りに移したあと、1904年にこの界隈はタイムズ・スクエアと呼ばれるようになった。9年後タイムズは43番通り229番地に本社ビルタイムズ・タワーを建設した。しかしながらタイムズ・タワーは、1961年に売却されている。
初期のタイムズは日刊であるものの毎週日曜日には発行されていなかったが、南北戦争中に日曜版の発行を開始した。1918年に第一次世界大戦に関する記事でピューリッツァー賞を初受賞している。翌年1919年にはロンドンへの紙面輸送が開始された。
クロスワードパズルは1942年に特集記事として開始された。ファッションの項目は1946年の開始である。1946年からは国際版が発行されていたが1967年にそれを停止し、ニューヨーク・ヘラルド・トリビューンやワシントン・ポストと共同でパリにインターナショナル・ヘラルド・トリビューンを創刊した。社説である Op-Ed は1970年に開始されている。1996年にはインターネット上に自社のサイトを開設した。新しい本社ビルであるスカイ・スクレイパー skyscraper はレンゾ・ピアノの設計によるもので、マンハッタンの8番アヴェニューと41番ストリートの交差点に建設されている。
[編集] 現在
現在のニューヨーク・タイムズは、アメリカ合衆国において部数の面ではUSAトゥデイ、ウォールストリート・ジャーナルなどの後塵を拝するものの、世界的に最も著名な新聞であり、アメリカを代表する新聞と見なされている。重要な演説、議論などが行われた際にはその原稿を一字一句もらすことなく全て掲載することでも知られている。ニューヨーク・タイムズ・カンパニーにより経営されており、アドルフ・オークスの子孫であるザルツバーガー家が株式を所有している。
タイムズは90あまりのピューリッツァー賞を受賞するなど、その記事の質を高く評価されてきた。1971年にはベトナム戦争に関するアメリカ国防総省の秘密資料ペンタゴン・ペーパーズが掲載された。これをうけ政府はタイムズ紙を機密漏洩罪で告訴したが、裁判所は報道の自由は政府の文書公開基準に優先するとの判決をくだした。この裁判は合衆国憲法の修正第1条(言論の自由)を巡る以後の判例に大きな影響を与えた。
翌年1972年にはアフリカ系アメリカ人の梅毒感染者たちが暗密のうちに治療を拒否されていることを報告し大きな議論を巻き起こした。最近では2004年の仕事現場の安全性に関する記事でピューリツァ賞を受賞している。
他のアメリカのジャーナリズムと同様に、ここ数年リストラ及び、カットオフを進めている。2006年の10~12月期は約6億5000万ドルの赤字を出した。
ニューヨーク州には16の局を持ち、他には11の国内支局、26の海外支局を有する。2004年12月26日時点では、総発行部数はウィークデイで1,124,700部、日曜版は1,669,700部であった。
タイムズ紙はクラシック専門のラジオ局WQXR(96.3 FM)とWQEW(1560 AM)を所有している。
[編集] 主要項目
紙面は3つの主要項目により構成されている。
- 1. ニュース News
- 国際、 国内、ワシントンの政治、ビジネス、テクノロジー、サイエンス、健康、スポーツ、ニューヨーク地区、教育、天気、訃報および訂正記事(常設)で構成される。
- 2. 論説 Opinion
- 社説 Editorials , Op-Ed 、および読者からの投稿 Letters to the Editor で構成される。
- 3. 特集 Features
- 芸術、書籍、映画、演劇、旅行、ニューヨークガイド、レストラン・ワイン、家庭とガーデニング、ファッション、クロスワード・ゲーム、カートゥーン、雑誌、週のまとめで構成される。
[編集] スタイル
紙面および記事の構成に関しては、一貫して同じスタイルをとっている。人名に言及する際には、通常の名字で呼ぶのではなくその役職、称号を用いる。見出しは語数が多く、重要な記事では副見出しが付される。USAトゥデイにより始められた紙面のカラー化が進んだ際にもモノクロにこだわっていた。紙面におけるトップ記事は一面の上部右側に掲載される。
[編集] インターネット版
ニューヨーク・タイムズのウェブ版は1995年に開始された。世界中のニュースサイトの中でも最も利用者が多いサイトの一つである。記事は掲載から1週間の間は、無料で利用する事ができるが、それ以後については有料となっている。2005年3月には5億5500万のプレビューを超えた。
[編集] マガジン
本紙日曜版の別冊として、「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」が発行されている。マガジンは1896年の創刊で、本紙に掲載しきれない長文の記事や、カラー写真を大きく掲載したフォト・ルポルタージュ(報道写真)で知られる。2007年1月現在、発行部数は約168万部。
[編集] ブック・レビュー
紙面の特集項目に存在する刊行書籍の書評はその質の高さで知られている。この書評での取り上げられ方によって、売り上げが左右されると言われるほどに影響力が強い。同時に掲載されるベストセラー・リストもアメリカの読書会における代表的なリストとして知られている。執筆者の1人としてミチコ・カクタニがおり、ピューリツァー賞の批評部門で受賞するなどその書評を高く評価されているが、極めて辛口な記事を書くため批判を受ける事も多い。
[編集] 有名なミス
1920年タイムズの社説はロバート・ゴダードの研究を批判し、宇宙空間を飛行するロケットなど存在し得ないとした。
1969年にアポロ11号が月面に着陸する直前にタイムズは訂正記事を発表している。
- "科学調査と実験の双方から、17世紀にアイザック・ニュートンが発見した物理法則の有効性が実証されつつある。そして今日ロケットが大気中と同様に宇宙空間でも飛行できることは周知の事実となった。当紙は過去のミスを認める。"
2000年1月1日にタイムズは「昨日までの発行号数は間違いだった」とする異例の訂正を発表。 当時の同紙記事によると1898年2月、14499号の翌日を誤って15000として以来、102年にわたって実際より500多い数字が毎日一面に掲載されてきた。
これまでに何人かの訃報記事をその死に先立って掲載したことがある。
- ウィリアム・ベーア (ニューヨーク大学教授) - 学生のいたずらにより1942年に記事掲載
- アラン・アベル - 自身の巧妙ないたずらにより1980年に記事掲載
- キャスリン・サーガヴァ (バレエ・ダンサー) - デイリー・テレグラフによる記事をうけて2003年に掲載
[編集] 報道内容に関して
[編集] リベラルにすぎる?
一般的にタイムズはリベラルな論調を持つとされる。これは政治記事と社会記事において顕著である。もっとも日本と違って、アメリカでは大統領選挙などで新聞が特定候補の支持を鮮明にするなど、政治色を強く打ち出すことは許容されている。
マサチューセッツ工科大学のリカルド・パグリシは2004年に " Being the New York Times: The Political Behaviour of a Newspaper " という論文を発表した。この中で彼は1946年から1994年の期間におけるタイムズ紙の取り上げた記事を調査し、タイムズが民主党支持であることを統計から立証している。例えば大統領選では優先的に民主党候補を取り上げ、対立する共和党候補については小さな記事で扱う、などである。
特集項目の中の芸術関連記事(主要項目を参照)における政治的コメントについてはジャーナリズムにおけるバイアスの典型として悪名高い。例として、A・O・スコットの映画評論記事は時折保守派に対する皮肉が散見され、フランク・リッチ執筆のアート関連コラムでは頻繁に芸術とは関連性の薄い保守派攻撃がなされている。一方これらは筆者のユーモアであるとの意見も存在する。
タイムズの専属コラムニストにより執筆される Op-Eds については他の紙面に比べ独立性が高く政治的偏向も少ないとされる。しかしこのセクションについても政治的中立性が批判されることがある。
2005年時点におけるコラムニストの政治的スタンスは一般的に、モーリーン・ダウド、ポール・クルーグマン、ボブ・ハーバートが左派、ニコラス・D・クリストフが中道左派、トマス・フリードマンが中道、ディヴィッド・ブルックスとジョン・ティーニーが右派とされる。しかしこれらのコラムニストをアメリカの政治的スペクトラムで色分けすることは過度の単純化である、との批判も存在する。
[編集] ニュース、論説、広告の混同?
2002年11月25日、紙面のトップ記事として "女性選手のオーガスタ参加について沈黙を続けるCBS" との記事を掲載した。この記事ではマスターズ選手権の主催者であるオーガスタ・ゴルフクラブが女性ゴルファーの参加を拒否している問題を扱い、ボイコットの支持を示唆していたが、これに対し批評家からは事実報道と論説の混同であるとの批判がよせられた。保守派ブログの主催者ミッキー・カウスは編集長のレインズが "ニュース" という言葉の再概念化を行っていること、ここでいう "ニュース" とは個人や団体がレインズが望むような失敗をすることであろう、と批判した。
社説のページにおいてエクソンモービルの広告記事を掲載していることにも批判が存在する。広告記事の掲載については、アメリカおよび日本の新聞においても一般的に行われていることである。紙面に掲載される編集者への手紙 " letters to the editors " を恣意的に選択しているとの批判もある。
[編集] タイムズ自身によるバイアスの調査
2004年の夏、上記のような批判に対してパブリック・エディターであるダニエル・オクレント執筆の調査記事が掲載された。彼はタイムズ紙が幾つかの項目においてリベラル支持のバイアスを有していることは確かであるとし、例としてゲイカップルの結婚問題をあげた。彼はこのバイアスがニューヨークの新聞としてのコスモポリタニズムに起因しているとしている。
オクレントは経済、政治、外交問題、市民権などに関する記事については言及を避けている。ただ彼はイラク戦争の問題に関してブッシュ政権批判が不足していたとしている。
[編集] 日本関連記事を巡る問題
2005年に行われた総選挙を巡る記事について、自民党長期政権を中国や北朝鮮の共産党と比較している事などから、日本の外務省から「不公正な記事である」との正式な抗議を受けるに至っている。
2006年12月 「北朝鮮による日本人拉致問題について、本来の拉致問題解決に焦点を絞らず、北朝鮮・中国に対する日本国民の嫌悪感をあおり、そうした世論を憲法改正問題などの政治的問題にも利用しようとしている」とする記事を掲載、後日、日本政府はこの報道を問題視し、中山恭子・首相補佐官(拉致問題担当)の反論文を同紙(ニューヨーク・タイムズ)と、記事を転載した国際紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンに投稿、後者へは26日付で掲載された。
2007年3月には安倍晋三首相の強制連行否定発言を受け、首相を「国家主義者」と呼び、日本政府の対応を批判する従軍慰安婦特集記事を一面に掲載した。
また1990年代には特別日本の変わった部分のみを取り上げた記事が多く掲載され、一部日本のメディアから報道姿勢を疑問視されていた。1998年には見かねたニューヨーク在住の日本人7人が、同紙のこれまでの日本関連記事から最も誤解の酷い10の記事を選んで検証・批判した『笑われる日本人 -- ニューヨーク・タイムズが描く不可思議な日本』(ジパング編集部・編、ジパング・刊 1998年9月 ISBN 4-8123-0615-9)を自費出版した。これは同紙に記事が掲載されることによる国内的・国際的影響力がいかに大きいかを物語るものとも言える。夕張市の財政破綻問題が一面で紹介されたこともある。
[編集] 経営者および記者など
[編集] 発行人
- アドルフ・オークス (1896年 - 1935年)
- アーサー・へイス・ザルツバーガー (1935年 - 1961年)
- オーヴィル・ドライフス(1961年 - 1963年)
- パンチ・ザルツバーガー (1963年 - 1992年)
- アーサー・オークス・ザルツバーガー・ジュニア (1992年 - )
[編集] 編集長
- ターナー・カトリッジ (1964年 - 1968年)
- ジェームズ・レストン (1968年 - 1969年)
- <空席> (1969年 - 1976年)
- エイブ・ローゼンタール (1977年 - 1986年)
- マックス・フランケル (1986年 - 1994年)
- ジョセフ・リリヴェルド(1994年 - 2001年)
- ホゥエル・レインズ (2001年 - 2003年)
- ビル・ケラー (2003年 - )
[編集] 現在活躍するコラムニスト
- デイヴィッド・ブルックス
- モーリーン・ダウド
- トマス・L・フリードマン
- ボブ・ハーバート
- ニコラス・D・クリストフ
- ポール・クルーグマン
- フランク・リッヒ
- ジョン・ティーニー
- ウィリアム・サファイア
[編集] 過去に在籍した著名な記者
- フランシス・チャーチ
- デイヴィッド・ハルバースタム
- ニール・シーハン
- ジュディス・ミラー
- ジェイソン・ブレア - 執筆した記事のうち約40本で捏造、盗作が発覚し、退職した。
[編集] 関連書籍
- ハワード・フリール、リチャード・フォーク - 共著、立木勝 - 訳 「『ニューヨークタイムズ』神話 -- アメリカをミスリードした“記録の新聞”の50年」 三交社 2005年11月 ISBN 4-87919-160-4
[編集] 関連項目
- CIA情報漏洩疑惑
- ノリミツ・オオニシ
[編集] 外部リンク
- nytimes.com ニューヨークタイムズ ウェブ版