カンノーロ
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カンノーロ(伊:cannolo(単数形)、カンノーリ cannoli(複数形)、シチリア方言:カンノール cannolu(単数形)、アルバニア語:カノイァット Canojët)は、イタリアのペストリー菓子である。カンノーロの発祥地はシチリア島であり、シチリアの菓子の中でももっとも有名なものの一つである。カンノーロは現在では一年中食べられるが、本来は謝肉祭を祝って作られる季節菓子である。イタリア系アメリカ人のデザートとしても大変人気が高い。
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[編集] 語源
カンノーロの意味は「小さな筒」で、ラテン語の"canna"を語源としている。その語の代表的な意味は葦だが、竹やサトウキビの茎の意味もある。ちなみに、かつてカンノーロを円筒状に調理するためにサトウキビの茎が多く利用されていた。現代でも、家庭内でカンノーロを調理する際はサトウキビ利用を続けている人もいるが、公共衛生観念からレストランや菓子店などの商業施設での使用は許可されていない。
[編集] 概要
イタリアのカンノーロは小麦粉ベースのパスタを薄くのばし、正方形に切ってから金属製の円筒に巻き付けて低温の植物油かラードで筒状に揚げた皮の中に、甘みをつけたリコッタ・チーズにバニラ、チョコレート、ピスタチオ、マルサラ酒(シチリア地方のワイン)、ローズウォーターやそのほかの風味のうちいくつかをまぜ合わせたクリームを詰めたものである。シチリア地方では羊乳製リコッタが使用されるが、そのほかの地方では牛乳製も使用される。カンノーロがもともと季節菓子だったのも、冬の間羊乳の脂肪分などが増え、コクと旨味が増すからである。菓子職人によっては小さく切った果物の砂糖漬け(シトロン、オレンジの皮やマラスキーノ・チェリー)やズッカータ(Zuccata イタリア南瓜の砂糖漬け)を、クリームに混ぜたり両端に飾ったりする。シチリア地方以外では、リコッタではなくカスタード・クリームを使用する菓子職人もいる。皮の生地には砂糖、塩、重曹、シナモン、卵黄、マルサラ酒、ラードが入り、ココアを混ぜてチョコレート味にすることもある。カンノーロの大きさはさまざまで、指よりも細い「カンヌーリッキ」"cannulicchi"から、シチリア島パレルモの南にあるピアナ・デッリ・アルバネージ(Piana degli Albanesi)特産の拳サイズのものまでが見受けられる。クリームを詰めると皮が水分を吸って湿ってしまうため、大きさに関係なく、食べる直前まで待ってから皮にクリームを詰めた方が、クリームの柔らかさと皮のパリパリ感の対比を最大限に楽しむことができる。注文を受けてからクリームを詰めたカンノーロを特に「カンノーロ・エスプレッソ」(cannolo espresso)と呼ぶ。
[編集] ギネス世界記録
比較的大きいカンノーロが好まれることで有名なピアナ・デッリ・アルバネージでは、世界一長いカンノーロ製作への挑戦が続けられており、2003年には4メートル3センチ、2004年には4メートル84センチの最長カンノーロ記録がギネス世界記録として認定された。[1]
[編集] バリエーション
シチリアの謝肉祭には、つばのある鉄兜の形をした「テスタ・ディ・トゥルコ」("testa di turco"、「トルコ人の頭」)という菓子もカンノーロと同じ材料を使って作られる。これは本物の兜と同じ大きさに揚げた皮にリコッタ・チーズのクリームを詰めた巨大な菓子で、つばをパステルカラーのクリームを詰めた小さなカンノーリで飾ったり、細かなパステルカラーの砂糖菓子をまぶすこともある。
[編集] 起源
主要記事:cannoli
ピスタチオやローズウォーターが入ることから、カンノーロの起源はアラブ人がシチリア島を支配していた時代かそれ以前まで遡ると考えられている。筒状の形はドルイド教の影響を思わせ、謝肉祭との関係から、豊穣のシンボルであるとも考えられる。ある伝説によれば、カンノーロはカルタニッセッタのハレムで生まれたという。
[編集] アメリカのカンノーロ
アメリカ合衆国では、ニューヨークのリトル・イタリーやボストンのノースエンドなど古くからイタリア系移民が多く住んだ地域なら、イタリア菓子の専門店やイタリア料理店のデザートのメニューの中に必ずカンノーリを見つけることができる。 アメリカ合衆国では、リコッタの代わりに甘みをつけたマスカルポーネ若しくは砂糖と牛乳とコーンスターチで作ったクリームを詰めることも多い。これは、20世紀初頭のシチリアからの移民がアメリカ合衆国で手に入りやすい材料でカンノーロを作ることを余儀なくされたためであると考えられる。クリームには果物の砂糖漬けよりもむしろ小粒のチョコレートを混ぜることが多く、皮をチョコレートでコーティングしてからクリームを詰めたカンノーリも作られている。
[編集] 映画やテレビなどでの使用
主要記事:cannoli
- カンノーロは映画『ゴッドファーザー』の有名な台詞に登場する。コルレオーネ一族の忠臣クレメンザ(リチャード・S・カステラーノ Richard S. Castellano)は、一族の裏切者と見られるポーリーの殺害を命令され、実行に移すため朝家を出ようとすると、妻からカノーリ(英語発音に関しては下記の備考欄参照)を買ってくることを頼まれる。場面変わって、寂れた川原でクレメンザとその仲間はポーリーを銃殺にし、その場を立ち去ろうとするが、クレメンザは仲間にこう指示する「銃は置いていけ。(一息して)カノーリは持っていけ。(Leave the gun. Take the cannoli.)」
- この台詞で、イタリア系アメリカ人社会以外では比較的知名度が低かったカンノーロの一般アメリカ社会での認識度が一気に高まった。また、この台詞があまりにも印象深かったため、ゴッドファーザーPart IIIではカンノーロは再度登場し筋書きの中でさらに重要な役割を果たすことになるほか、その後の映画やテレビドラマでもカンノーロは小道具として度々登場することになる。
- ゴッドファーザーPart III で、タリア・シャイア(Talia Shire) 演ずるコニーは、イーライ・ウォラック(Eli Wallach)演ずるドン・アルトベッロをカンノーロを使って毒殺する。
- 米HBOのテレビドラマ『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』では主人公のジェームズ・ガンドルフィーニ(James Gandolfini)演ずるトニー・ソプラノがカンノーロ好きとして描かれているほか、ストリーの筋書きとしてカンノーリをデザートとして調理している場面が登場する。マイケル・インペリオリ(Michael Imperioli)演ずる短気なクリストファー・“クリス”・モルティサンティが、イタリア系食品店でその場でクリームを詰めてもらうカンノーリをオーダーするが、店主の作業の遅さに怒りを爆発させるシーンも。
- 米国有機栽培取引協会が有機栽培促進のため作成したショート・ビデオ『ストアー・ウォーズ』(Store Wars)は映画『スター・ウォーズ』 (Star Wars)のパロディで、オビ=ワン・ケノービならぬ、オビ=ワン・カノーリが主人公として登場する。
[編集] 備考
- カンノーロは、シチリア生まれの米国マフィア最高幹部、 ラッキー・ルチアーノの好物だったといわれている。ルチアーノは映画『ゴッドファーザー』のドン・ヴィトー・コルレオーネのモデルの一人。
- 米国では、単数形の「カンノーロ」ではなく、複数形の「カンノーリ」の名で知られている(英語の発音では二重子音を単子音と区別しないため、実際には「カノーリ」と発音する)が、イタリア語文法を理解しているアメリカ人を除いてカンノーリが複数形表現だという認識は低く、複数形を表す時は最後に英語風に"s"を付けて、「カノーリズ」(cannolis)という、和製英語ならぬ米製イタリア語が使われていることが多い。
[編集] 参考文献
- Manuli, Rosa Maria. "I cannoli di carnevale." Experiences-plus, Messina, Italy. Retrieved on 2006-10-23 (イタリア語).
- Rucker, Allen and Michele Scicolone. The Sopranos Family Cookbook: As Compiled by Artie Bucco. New York: Warner Books, 2002. ISBN: 0446530573
- Simeti, Mary Taylor. Pomp and Sustenance: Twenty-five Centuries of Sicilian Food. Ecco, Hopewell, New Jersey, 1989. ISBN: 0880016108
- ピアナ・デッリ・アルバネージ市公式ページ。Retrieved on 2006-10-23 (イタリア語).