ゴジラvsビオランテ
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『ゴジラvsビオランテ』(ゴジラたいビオランテ、または、ゴジラ ブイエス ビオランテ)は1989年12月16日に公開された日本映画で、ゴジラシリーズの第17作である。1989年12月16日公開。観客動員数は200万人。キャッチコピーは「超ゴジラ」「正月映画日本代表」、ゴジラが一番!という意味で人差し指を建てているイラスト。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] 概要
シリーズ再開となった『ゴジラ』(1984年)の続編(余談だが最初の仮タイトルは『ゴジラ2』だった)。原案を一般公募で募集した(晩年の手塚治虫が特別審査員として参加している)結果、『帰ってきたウルトラマン』第34話『許されざるいのち』の原案をつくった小林晋一郎の原案が採用された。植物と動物の融合という点で、両者は接点も多い。
原案公募だけでなく、特技監督に川北紘一、脚本と監督には『ヒポクラテスたち』などの大森一樹、音楽にドラゴンクエストシリーズのすぎやまこういちを起用するなど、それまでの怪獣映画にない新しい息吹を取り入れようとした意欲作でもある。
ゴジラの熱線を反射して対抗できる陸上自衛隊の新兵器「スーパーX2」と、ゴジラの核エネルギーを奪う生物兵器「抗核エネルギーバクテリア」が登場する。
また、以降のvsシリーズのメインキャラクターとなる超能力者・三枝未希が初登場する。演じる小高恵美は第2回東宝シンデレラグランプリであり、第1回グランプリである沢口靖子演じる白神英理加が冒頭に亡くなり彼女の場面へと移るくだりは、第1回から第2回への女優のバトンタッチを意識した演出となっている。
始まりから自衛隊と米国企業マフィアとの戦闘、この当時に急速に進歩したバイオ技術、細胞をめぐるテロ合戦と、SF作品としての物語の完成度は高い。物語は全体として、生命の尊厳や科学のあり方を考えさせる内容のため、いわゆる子供向け怪獣映画とは一線を画している(初代ゴジラ、対キングコングと並んでもっとも高年齢層からの評判が高い)。また、ゴジラとビオランテの対決というよりはゴジラ対自衛隊的な部分が多い。しかし、観客のほとんどが子供である現状を鑑みればこれは失敗であり、次回作『ゴジラvsキングギドラ』からは子供を意識したつくりに変わり、こうした要素は希薄になっている。
劇中で「ゴジラのテーマ」や「怪獣大戦争マーチ」等の伊福部昭メロディが久々に使用されている(『OSTINATO』からの流用。キングレコード発売)。
[編集] ストーリー
1984年のゴジラ襲撃から一夜明けた新宿。自衛隊はビルなどに付着した「G細胞」を採取していた。米国企業共同体バイオメジャーもG細胞を採取していたが、自衛隊に発見され銃撃戦となる。辛くも逃げ切った彼らだが、サラジア共和国のエージェントSSS9によってG細胞は奪われる。サラジアに運ばれたG細胞は、白神博士の研究室で小麦などの作物と融合させ、砂漠でも育つ植物を生む実験に使用されていた。しかし、G細胞争奪戦に敗れたバイオメジャーは報復として研究室を爆破、白神博士は最愛の娘を失う。
それから5年後、三原山内において再び活動を再開したゴジラに備え、国土庁はゴジラの体内の核物質を食べる抗核エネルギーバクテリアの必要性を強く認識したが、科学者の桐島は、それが核兵器の無力化と核抑止力の不成立を意味し、各国の争奪戦が起きるという危惧を抱いていた。しかし、日に日に活動を活発化させるゴジラに対抗し得るものとして、開発に白神博士の協力を仰ぐ。彼は、1週間のG細胞の貸与を条件に抗核エネルギーバクテリアを完成させる。
数日後、芦ノ湖に巨大な薔薇の様な姿の怪獣が現れる。それは白神博士が娘と薔薇の遺伝子を融合させ、さらに永遠の命を与えるために組み込んだG細胞の影響によって誕生したビオランテという怪獣であった。同じ頃、バイオメジャーによる、抗核エネルギーバクテリアの引渡しを求める文書が首相官邸に届く。応じぬ場合は三原山を人工爆破させ、ゴジラを復活させるというのだ。桐島と自衛官の権藤は引渡しに応じるが、SSS9の妨害により抗核エネルギーバクテリアは奪われ、さらに爆破された三原山からはゴジラが姿を現してしまう。
[編集] ノベライズ版ストーリー
映画公開に併せて有馬治郎によるノベライズが発売された。序盤は映画とストーリーは同じだが、中盤以降には異なった展開も見られる。
- スーパーX2の外観が違う(コードネームはアングラー。アンコウに似ているため)。
- サラジア、バイオメジャーに加えKGBもゴジラ細胞を狙っている。
- 抗核エネルギーバクテリアの受け渡しが白神新植物研究所で行われる。
- ゴジラ復活の原因が三原山の自然噴火。
- スーパーX2が抗核エネルギーバクテリアをゴジラに撃ち込む。
- 白神、権藤が最後まで死亡しない。
[編集] 寸評
丁度「昭和」から「平成」と年号が改号された年に約5年ぶりに続編として公開された記念すべき平成ゴジラシリーズの第一弾として始まった今作。 ストーリーの一般公募、スタッフに各メディアでの巨匠が集まったこの作品は後に続く平成ゴジラシリーズとは確実に一線を画している作品であった。特に顕著な違いは、これまでや後に続くゴジラシリーズがファミリーテイスト(子ども向け)であるのに対し、今作品では重厚なストーリー性とシリアステイストを重視した展開、また、自衛隊の積極的で果敢勇猛な活躍が目立つ点である。
そして最も肝心な要素であるゴジラの宿敵(怪獣)が非常に不気味なデザインで、かつ類をみない巨体さ、凶悪な攻撃演出等、従来の「子供向け」なイメージから非常にかけ離れていた。これらの理由から、視聴者の年齢層は若年から高度成長期辺りの昭和世代が楽しめる「大人の特撮」であったと言える。しかし満を期して公開したこの作品は、平成ゴジラシリーズ以降、興行収入のワーストランクに入ってしまった。様々な理由が考えられるが、その一つには家族連れの層に受け入れられなかったことがある。特に子供にしては難解なストーリーを前提に進行した展開が不評を買い、また人が撃たれるシーン、ゴジラの体に刺さる棘など残酷とも思える描写が多かった。そして、この視聴者の反応が影響して、後の平成ゴジラシリーズは構成・デザイン等、全ての要素がファミリー向けへと変更された(そちらの方向で興行的には成功してゆく)。
この作品は興業的には成功したとは言い難い。しかし特撮映画ファンや、それに類する趣向をもった人達、また本作以前や以降の子供向けのゴジラシリーズに馴染めない観客層に、自衛隊の活躍シーンなどが高く評価された。作品としても演出や精密な造形、テンポ良い進行や起承転結がしっかりまとめられたストーリーなど、全ての構成で高い完成度を有しており、ゴジラシリーズの枠を越え特撮映画の最高傑作として上げられる事も多い。度々行われるアンケートでも、本作が上位に食い込むことがある。
ただし、シリーズ作品の常として、その完成度とは裏腹に、公開時には批判的な意見も多くみられた。例えば怪獣対決物としての構成としての欠点(ビオランテのご都合主義的な出現など)が指摘されている。以後のシリーズにおいてはその点は改善されており(ウルトラセブンにおいて戦闘がほぼ皆無でドラマ性が高いと評判の高い事はヒーロー物として本当に良かったのかという点に似ている)、それが大ヒットシリーズに繋がった事実もある。
また、公開当時は子供で、内容をよく理解出来なかったが、成長してから改めて観た時、その面白さに気付く、というパターンが多い。実際、本作が公開されてから18年経過したことになる。
[編集] 登場人物
- 桐島一人
- 筑波生命工学研究所の研究員。抗核エネルギーバクテリアの生成や大河内誠剛が進めようとしているバイオバンクのプロジェクトを危惧している。ノベライズ版では英理加に好意を抱いていたらしいが、英理加を誘うたびに英理加が明日香を連れてやって来て、いつしか明日香の方と仲良くなってしまっている。マサチューセッツ工科大学から呼ばれており、最初は彼も要請を受け入れようとしていたが、結局断っている。
- 白神源壱郎
- 遺伝子工学の世界的権威。国土庁から抗核エネルギーバクテリアの生成を依頼された。その際に預ったG細胞を死亡した娘の遺伝子を組み込んだバラと融合させ、結果的に怪獣ビオランテを誕生させてしまった。終盤でSSS9に射殺されるが、ノベライズ版では最後まで死亡しない。
- 大河内明日香
- 精神開発センターの研究員で、桐島の恋人。政財界の重鎮・大河内誠剛を父にもつ。白神英理加は友人。
- 三枝未希
- 精神開発センターに所属する超能力をもつ少女。
- 大河内誠剛
- 財団法人「大河内総研」総帥。
- 白神英理加
- 白神博士の娘。父の助手としてサラジア共和国の研究所に勤務していたが、バイオメジャーの爆破テロにより死亡した。後に遺伝子がビオランテに組み込まれる。
[編集] 自衛隊
- 権藤吾郎
- 陸上自衛隊一佐。自衛隊陸幕調査部から国土庁特殊災害研究会議に出向していた。大阪でゴジラにANB弾を2発(うち1発は口内)命中させるが、その直後ツイン21を破壊され戦死。ただし角川文庫から出版された本作のノベライズ版では最後まで死亡しない。妹は後の『ゴジラvsスペースゴジラ』に出演した権藤千夏(演:吉川十和子)。友人に同じくvsスペースゴジラに出演した結城晃(柄本明)がいるが、いずれも本作では語られていない。
- 黒木翔
- 防衛庁特殊戦略作戦室室長。三等特佐。終盤でサラジアのエージェントSSS9をTCシステムで蒸発させる。ノベライズ版でもSSS9が乗ったスパイ機をサンダービームで撃墜する。
[編集] サラジア共和国(Saradia)
中近東にある国家。石油会社を隠れ蓑に諜報活動を行っていた。
- SSS9(スリーエスナイン)
- サラジア共和国のエージェントのコードネーム。サラジアシークレットサービスの9番目という意味。G細胞と抗核エネルギーバクテリアをめぐりテロ行為を繰り返すが、白神博士を殺害後、サンダーコントロールシステムの自衛隊が発生させた人工の落雷により蒸発して死亡した。配役はバイオメジャー役を担当した外国人俳優の通訳として収録現場に来ていた人物。選ばれた理由としてたまたま通訳として来ていたところエージェントとして採用されたとのこと。
[編集] バイオメジャー
アメリカの大手遺伝子工学産業企業による共同機構。G細胞を入手するために非合法な活動を行う。
- リー
- 白人。エイリアンと名乗り抗核エネルギーバクテリアの受け渡しを日本政府に要求する。しかし受け渡しの際、SSS9の妨害により射殺された。美人コンテストの審査員。
- ロー
- 黒人。白神博士の留守中にリーと共に白神新植物研究所に侵入し、抗核エネルギーバクテリアを盗もうとしたが、そこでSSS9と銃撃戦をした後、ビオランテに襲われて死亡する。
[編集] ゲスト出演
映画の製作にあたって、斉藤由貴や声優の伊倉一恵などスタッフロールにクレジットされていない隠れキャラクター的なゲスト出演を行っている者も多い。もっとも有名な人物は、ミュージシャンのデーモン小暮閣下(ただし、デーモンはエンディングのスタッフロールに名前が記載されている)。劇中のテレビ番組にて世界の終末論を説いている最中に、ゴジラ出現の臨時番組が始まるというメタフィクション的な演出がなされている。
久我美子の出演は、夫であった平田昭彦の実の母親から「息子が好きな映画だったので、あなたも出演しておきなさい」と言う助言に従ったものであった。
ちなみに、監督の大森一樹も千里中央病院の医者役として、田中好子の後ろを通りすがる医者でカメオ出演を行っている。
[編集] スタッフ
[編集] キャスト
- 桐島一人:三田村邦彦
- 大河内明日香:田中好子
- 三枝未希:小高恵美
- 権藤吾郎:峰岸徹
- 黒木翔:高嶋政伸
- 白神英理加:沢口靖子
- 山地統幕議長:上田耕一
- 小山防衛庁長官:中田博久
- 大和田官房長官:久我美子
- 竹田科学技術研究部長:佐々木勝彦
- スーパーX2オペレーター:豊原功補、鈴木京香
- 大河内誠剛:金田龍之介
- 白神源壱郎博士:高橋幸治
- ゴジラ:薩摩剣八郎(スーツアクター)
[編集] こぼれ話
- 芦ノ湖でのビオランテ戦は、コマ撮りによる未使用カットも存在していた。全高1メートルのミニチュアで撮影された映像の単体の出来は良かったが、全体的なバランスから実写→コマ撮りの戦いのバランスが悪く、結果的に不採用となった。
- 同様に、若狭湾での戦いで倒れたゴジラを飲み込もうとするビオランテの描写も、大胆にもセルアニメによる処理を行ったカットがラッシュに持ち込まれたが、これも不採用となった。大森監督は「一応は聞いていた」と語っているが、ラッシュを観て大森含む関係者は唖然とさせられたという。川北特技監督曰く「柔らかさを表現したかった」という狙いだったらしい。
- 全体を通して、カット割り画コンテは大森でなく川北が最初に書き上げてそれに沿った映画だったという。
- 未使用シーンでは芦ノ湖での戦いの後、山々に薔薇が咲き乱れるシーンもあった。
- (これらの未使用シーンは、DVDに映像特典として収録されている)
- 大人向きの映画志向にしたかったのは、大森ではなく田中友幸プロデューサーであった。また原爆や核の次に遺伝子工学が科学が人類の脅威になると考えていたのも田中友幸であった。
- サラジアのエージェントを演じたのはタレント事務所の通訳で、大森は「外国人キャストはもう少しキチンとキャスティングすればよかった」と語っているが、個々に成功してる部分も多い。特に銃の構え方や冷静沈着な対応は、プロのような雰囲気も醸し出していた。
- この映画の前年に『黒い雨』で各賞を総ナメしていた田中好子の出演交渉の際、大森監督は「(ゴジラ映画も『黒い雨』も)どちらも原爆に関することですから」と語ったという。
- 『ゴジラ (1984)』の際に、ゴジラ造形に関して大森・川北両監督は「白い目の視点の定まらないゴジラではなく、動物としてのゴジラ」を造形スタイルとして考えついたという。
- ラジオ番組『デーモン小暮のオールナイトニッポン』にてスペシャル番組が組まれた。当初デーモン小暮独自にやっていた特集であったが(ニッポン放送ではライバルの『バットマン』を推していた)、東宝が最終的にタイアップをアピールして来た為、以前自分のMVにゴジラの出演のオファーを断られたデーモンは「今度は(ゴジラを)貸してくれるよな」とコメント。リスナーの投稿も「ゴジラ対ジラース、同時上映キンゴジ対モスゴジ」といったマニアックな投稿と、そのネタが解らないのに爆笑する小高恵美など忘れ難い場面も多かった。