タマネギ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
タマネギ | ||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
分類 | ||||||||||||||||
|
||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||
Allium cepa L. | ||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||
タマネギ | ||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||
onion |
タマネギ(玉葱、学名Allium cepa、英Onion)は、ネギ科(クロンキスト体系以前の分類法ではユリ科)の多年草。ただし、園芸上では一年草もしくは二年草として扱われる。鱗茎は野菜として利用される。学名cepaはケルト語の「頭」の意味からきたといわれる。日本でも戦前は「葱頭」が正式な和名とされていた。
目次 |
[編集] 食用
おもに鱗茎を食用とするが、強い辛味、香味がある。生のタマネギはイチゴ位の甘みを持っているが、辛さのほうが強いため辛く感じるのである。辛みは、品種によって、早生の方が辛みが少なく、晩生になるにつれ辛みが強い傾向にある。辛味は加熱するとなくなり、甘みが出る。多様の料理に使われる。たとえばカレーやグラタン、スープや肉じゃがなどの煮込み料理、ネギと同様に鍋料理や味噌汁の具としても用いられる。新たまと呼ばれる、極早生のタマネギは生で薄切りにしてもおいしく食べられる。
タマネギを切ると涙が出る理由はタマネギに硫化アリルが含まれているからである。タマネギを切ったとき、硫化アリルが気化し、目・鼻の粘膜を刺激するため涙がでる。防ぐにはゴーグルのようなもので目を覆ったり、鼻をつまんだりするのが良い。また他の方法として水につけながら切ると硫化アリルが水に溶けて気化しなくなる。また、あらかじめ冷蔵庫で数時間冷やしておくのも良い。反対に電子レンジで加熱することでも硫化アリルの効果を弱められる。
ヒトが食べても無害であるが、 イヌやネコなどのほとんどの動物が食べた場合、成分に含まれる硫黄化合物が中毒を引き起こし、血液中の赤血球が破壊され死亡することがある。ペットにはタマネギを含む食品を摂取させない様、注意が必要である。
[編集] 植物的特徴
染色体数は2n=16。生育適温は20℃前後で、寒さには強く氷点下の低温下でも凍害はほとんどみられないが、25℃以上の高温では生育障害がおこる。花芽分化は品種や系統によって大きく違うが一定の成長期に10℃前後又はそれ以下の低温下に一定期間さらされると花芽分化する。結球には日長条件が大きく関与し、短日・中日・長日それぞれに品種系統で分化している。大まかに、日本で栽培されているものは、春まきが14時間以上の長日条件下、秋まきの早生種で12時間程度の中日条件下で結球する。長日条件・温度上昇で肥大が促進される。苗の時に大きいものは分球や裂球しやすく、小さいまま低温にあうと花芽分化しやすい、玉が成熟すると葉が倒伏し数ヶ月の休眠に入る。
[編集] 栽培の歴史
原産は中央アジアとされるが、野生種は発見されていない。栽培の歴史は古く、紀元前のエジプト王朝時代には、ニンニク等と共に労働者に配給されていた。ヨーロッパの地中海沿岸に伝わったタマネギは、東ヨーロッパ(バルカン半島諸国やルーマニア)では辛味の強い辛タマネギ群、南ヨーロッパ(イタリア、フランス、スペイン)では辛味の少ない甘タマネギ群が作られた。これらの両系統は16世紀にアメリカに伝えられ、さまざまな品種が作られた。 その一方、原産地から東のアジアには伝わらず、日本では、江戸時代に長崎に伝わったが、観賞用にとどまり、食用としては1871年(明治4年)に札幌で試験栽培されたのが最初とされ、1878年(明治11年)、札幌農学校教官のブルックスにより本格的な栽培が始まった。 その後1880年(明治13年)に札幌の中村磯吉が農家として初めて栽培を行った。 品種の系統としては、アメリカから導入された春まき栽培用の「イエロー・グローブ・ダンバース」という品種が「札幌黄」という品種に、秋まき栽培用は1885年(明治18年)、大坂に「イエロー・ダンバース」という品種が導入され「泉州黄」に、フランス系の「ブラン・アチーフ・ド・パリ」が「愛知白」にそれぞれ地域に定着化した。 さらに農家や農協単位で自家採種・選抜をおこない、農家や地域ごとに特徴のある品種が作られた。 現在では大手種苗会社によるF1品種がほとんどを占めている。特に七宝による一連の品種は、乾腐病に対する抵抗性を持ち、長期貯蔵性などにもすぐれ、平成16年度民間部門農林水産研究開発功績者表彰の農林水産大臣賞を受賞した。
[編集] 栽培体系
大きく分けて春まき栽培と秋まき栽培がある。
春まき栽培
- 主な産地は、北海道で栽培は以下のように行われる。
- 2月末から3月にビニールハウス内で播種し、育苗する。
- 4月下旬から5月にかけて畑に定植する。現在は「みのる式」とよばれる成型苗を自動移植機で定植するのが一般的である。
- 定植後1ヶ月ほどは苗の活着に要する。
- 6月から7月中旬にかけては葉の生育が盛んな時期で、その後7月下旬から鱗茎の肥大が始まる。鱗茎の肥大期以降はボトリティス菌、軟腐病菌、ネギアザミウマによる被害を受けやすいため、定期的に農薬による防除を行う。
- 7月から8月にかけ地上部が倒伏する。倒伏が順調に進まない場合には人為的に地上部を倒伏させる場合もある。
- 倒伏がそろった後、収穫の前には株を土から引き抜く作業を行う。これは「根切り」と呼ばれ、着色を促したり貯蔵性を高める効果がある。
- 収穫直前には枯死した葉を切り落とす。収穫後、コンテナに入れ、乾燥させる。
秋まき栽培
- 主な産地は、西日本で、栽培は以下のように行われる。
- 九月に播種し、育苗する。
- 十月下旬から十一月にかけて畑に定植、極早生から早生にかけては、マルチ栽培やトンネル被服を行うところもある。
- 倒伏は三月から五月にかけて、極早生は、倒伏後まだ青いうちに収穫する。
中生、晩生になると、葉をつけたまま、専用の小屋で吊し貯蔵する。
[編集] 重要病害虫
- 乾腐病 病原菌:Fusarium oxysporum f. sp. cepae
- 軟腐病 病原菌:Erwinia carotovora subsp. carotovora
- ボトリティス菌による葉枯れ(白斑葉枯病):Botrytis squamosa、B. cinerea、ほか
- ボトリティス貯蔵腐敗:Botrytis allii、B. byssoidea、ほか
- ネギアザミウマ Thrips tabaci
- タマネギバエ Delia antiqua
- タネバエ Delia platura
[編集] 日本における生産と流通
日本では生産量108万3000t、作付面積は23,000ha(以上、統計値は平成17年、農林水産省統計による)である。そのうち北海道が生産量約58万t、作付面積11,100haと、全国生産量の約5割を占める。北海道に次いで佐賀県、兵庫県(おもに淡路島)、愛知県、長崎県、香川県、静岡県、栃木県、がおもな産地である。 北海道は春まき栽培、西日本では秋まき栽培が行われるため、季節ごとに産地の異なるものが小売されている。
また、近年、特に加工用では中国やアメリカからの輸入品も多く使われている(輸入量約38万t)。国産品はそれに対抗するために、価格面の対策としては生産・流通コストの低減化、端境期対策としてはマルチング・トンネル栽培による極早生の早期化や貯蔵技術の向上、極早生品種・高貯蔵性品種の開発、品質面の対策としては高機能性品種の開発を行っている。
[編集] その他
玉葱の名産地、北海道の北見市では、街をあげて玉葱を大量に使用した食品や料理(北見ラーメン・玉葱ジャムなど)の考案、試作に努めている。 作家椎名誠がキャンプに最適の野菜と評している。椎名は「タマネギ教」という宗教があったら宣教師になってもいいといっているらしい。