ファランクス (火器)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ファランクス (Phalanx) とは、アメリカのレイセオン・システムズ社製、艦載近距離防空システム (CIWS) Mk.15 の事である。6銃身のゼネラル・エレクトリック社製 20mmガトリング砲M61A1 を用い、捜索・追跡レーダーと火器管制システムを一体化した完全自動の防空システムである。対艦ミサイルからの防御を主目的とする。ファランクスという名前は、古代ギリシアで用いられた重装歩兵の密集陣形に由来する。
目次 |
[編集] 開発経緯
第三次中東戦争に続く消耗戦争の1967年10月に、エジプト沖で哨戒中のイスラエルの駆逐艦エイラート号が、ポートサイド港のエジプト海軍のミサイル艇から発射されたソビエト連邦製の対艦ミサイルに撃沈された。このエイラート号事件は、西側海軍に対艦ミサイルの脅威を知らしめた。アメリカ海軍は、この事件を契機に対艦ミサイル防御システムの開発を開始することとなった。
[編集] 特徴
[編集] 構造
Kuバンドの捜索レーダーが納められた半球状の丸いレーダードームの下に同じくKuバンドの追跡レーダーが納められた円筒上の胴体が続き、下部に銃身が付いている。この上部システムは胴体中ほどでマウントに接続されている。砲とレーダーも含めた上部システム全体が俯仰し、マウントが全周旋回して標的を狙う構造である。その外観からアメリカ海軍では本システムを非公式に R2-D2 と呼び習わしている。最大射程 4,500 m、有効射程 1,500 m、有効迎撃距離 550 m、発射速度は毎分 3,000 発。弾倉容量は 989 発。自重 6 t。劣化ウラン弾芯の APDS を使用していたが、1988年からはタングステン弾芯に切り替えられた。
動力配線を別にすれば、ファランクス・システムの構成要素は全てマウント上に設置されており、設置にあたって床面に穴をあける必要がない。したがって甲板強度が許す限り何処にでも設置が可能である。このことは既存の艦船への後日装備が極めて容易であることを意味する。結果的にこのことがファランクス・システムのセールスポイントとなって各国海軍に広く普及することとなった。
[編集] 射撃制御
目標破壊までは、以下の手順で行われる。システムが起動し、目標が射程内に入ると、20mmガトリング砲を発射する。発射した20mm弾の弾道をレーダーで追尾、目標とのズレを計測する。そのデータに従い、銃身の向きを変更し、銃弾の発射を行う。目標が破壊されるまでこの動作を繰り返し行い、目標が破壊されると、次目標の索敵を行う。これらは全自動で行われる。この制御手順は自動機器の基本的な制御手順の一つであるクローズド・ループ制御(またはフィードバック制御)を応用したものである。この制御ロジックは少数の目標を確実に破壊できるが、多数の目標には同時に対処できず、弾薬の消費が激しい点に問題がある。後発の CIWS であるゴールキーパーやシーガードでは、一定の射撃で目標を破壊したと見なして次の目標との交戦を開始することで同時目標攻撃能力を実現している。
[編集] 改良型
- Block1
- 1988年から製造されている能力向上型。主な改良点は:
- 発射速度向上(3,000 → 4,500 発/分)
- 弾倉の大型化(989 → 1,550 発)
- このBlock1 が登場したことで、最初の量産モデルは Block0 と呼ばれるようになった。
- Block1A
- Block1 のコンピュータシステムを更新したもの。
- Block1B
-
- 新型レーダー
- 改良型弾薬
- 赤外線センサ (FLIR) による光学照準
- 砲身の延長
- 制御システムの改良による遠隔手動操作
- マウントの改良により俯角を大きく取れるようにする(-20°~ +80°)
- などの改良を受けて、
- 小型の水上目標(体当たりしてくる自爆ボートなど)
- 低速低高度の空中目標(無人機や爆弾を積んだラジコン飛行機など)
- への対処が可能になった (Phalanx Surface Mode, PSuM) ほか、射撃精度がより向上した。
[編集] 配備状況
1980年にミッドウェイ級航空母艦「コーラル・シー」に搭載されたのを始めとして現在ではほとんどのアメリカ海軍艦艇が装備している。また海上自衛隊の護衛艦にも広く採用されているほか、NATO各国海軍など、21 ヶ国で 870 セットの採用実績がある。
海上自衛隊ではしらね型護衛艦が新造時から装備が計画されたが、昭和50年度計画艦の一番艦「しらね」は後日装備となり、実際には平成2年に装備された。昭和51年度計画艦の2番艦「くらま」は新造時から装備している。汎用護衛艦では、はつゆき型護衛艦の昭和54年度計画艦の3番艦「みねゆき」から新造時に装備されるようになっている。また他の護衛艦にも順次追加装備されている。自衛隊では当時のファランクス Block0 で使用していた劣化ウラン弾を採用せず、独自に弾薬を開発・装備している。最新の Block1B はこんごう型護衛艦の「ちょうかい」から装備される予定の他、既存のファランクス・システムも Block1B に改装される予定。
海上自衛隊では高性能20mm機関砲と呼称している。
[編集] 欠点と後継システム
ファランクス・システムの短所として、射程の短さ・20mm機銃の破壊力の小ささ・多数目標への同時対処能力の不足が挙げられる。イギリスはフォークランド紛争の戦訓から インヴィンシブル級航空母艦にファランクスを採用したが、後により破壊力の大きなゴールキーパーに更新した。アメリカ海軍は多数目標への同時対処を目的にドイツと共同開発したRAM近接防空システムの搭載を始めている。なお、90年代初頭にはファランクス Block2 としてより大口径のガトリング砲を使用するバージョンも検討されていたが、採用されなかった。