ガトリング砲
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ガトリング砲(ガトリングほう)は、機関銃または機関砲の一種。1862年にアメリカの医師リチャード・ジョーダン・ガトリング(Richard Jordan Gatling)によって発明された。ガトリング銃といったりもする。和名は「回転式多砲身機関銃」
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[編集] 概要
弾丸を速射したいという願望は、銃砲の発明以来存在し、連装薬室や多銃身の砲がマッチロック銃やフリントロック銃の時代から幾度も製作されたが、再装填の問題などから実用に供しがたいものであった。実用レベルでの高速連射の需要を最初に満たしたのがこのガトリング砲であった。
- なお弾丸(実包)は.45-70実包を利用していたが、当時の軍用ライフルは現在のライフル実包のように被甲していない鉛の弾丸であったため、外見的に拳銃用ロング実包によく似ていた。口径としても45口径は拳銃実包のそれであるため、現在の規格からすれば、この当時のガトリング砲は拳銃用のロング実包を発射していたことになる。
ガトリング砲は銃軸の周囲に6本の銃身を配置し、外部動力(この当時は手回し)でこれを回転させ、連続的に装填・発射・排莢を行う構造を持つ。この方式の最大の利点は、不発実包が混入していても動力で強制排除し、発砲を持続できる事である。また銃身一本当たりの発射速度は低くて済むために火薬の燃焼と摩擦によって発生する熱で銃身が過熱しにくく、これによる部品の歪みも発生しにくい。
この連射性は、当時ダブルアクションやシングルアクション(共にリボルバー式)の拳銃と、前装式のマスケットとライフルが主流だった南北戦争当時、驚異的とも言える威力を有した。少数ながらも北軍に非正式採用されて有効性が実証され、1871年に正式採用された。なお、当時のガトリング砲の給弾装置は箱型トレー内に収められた拳銃用実包を、その重みで機構内に落とし込む方法で、必要に応じてトレー上部から実包を「継ぎ足す」事も出来たようだ。この箱型トレーは、現在のマガジンの様に実包を詰めた状態で交換するようなものではなく、あくまでもバラの実包を機構内に落とし込むための支えであった。
日本の戊辰戦争(1868年 - 1869年)において佐賀藩や河井継之助率いる長岡藩でガトリング砲が使用されたとの記録が残っている。このガトリング砲は河井継之助がスネル兄弟から購入したものだといわれている。当初多大な威力が期待されたが、後に出現する機関砲と異なり、銃口の位置が高く、かつ敵弾を防ぐ防御板が無かったので、操作手を狙撃することで簡単に威力を減殺することが可能であった。
1870年代になると様々なバリエーションが登場し、普仏戦争で実戦に投入されたフランス軍のミュトレイユースと呼ばれるものもその一種。しかし、一般にガトリング砲は重量があるため機動性が低く、また砲手は操作時に敵前の火線にさらされる危険性が高かったため、イギリスのエジプト駐留軍では四方を鉄板で覆った装甲列車に載せて使用していた。また、中東や中央アジアで使用されたキャメルガンは、その名の通り駱駝に積載することが可能になったもので、ドーナツ型の弾倉を使用するものや銃身を短縮させたブルドッグと呼ばれるものも登場した。
[編集] 衰退と発展
後に、発射時の反動やガス圧を利用し、単銃身での速射を可能とする機構の発明・発達によって衰微した。この衰退には連続発射によっても過熱し難い冷却機構を持つ・または過熱しても部品精度が狂い難い素材の発達も関係している。その複雑な機構ゆえ故障が多く、また重かった事も禍し、機関銃の主流は完全に単銃身に移行した。
だがガトリング砲は後に、同技術レベル・他様式の機関銃では類比し難い連射性能が着目され、モーター駆動とすることにより大高初速や高連射速度(小型の物でも毎分4000~6000発)を要求する航空機関砲(後述)として甦り、現在では車両や、艦船などにも搭載されている。
しかし単銃身の銃に比べ部品点数が多い事に変わりはなく、それ故のメンテナンスの不便さや重くかさばるなどといった欠点は未だに残存している。また外部動力を必要とするものが多く、さらに弾薬を大量に用意しなければならない事なども重量・容積面でのデメリットを追加している。また初速や連射速度といったカタログ性能は優秀だが、砲身がその性能を出すに必要な回転数に至るまでに若干のタイムラグが発生する(特に自力駆動の場合)ため、専ら大量の弾薬を積載できる場合に連続射撃によって高速移動物(飛行するミサイルや航空機)を破壊するために利用されている。
これらでは米ゼネラル・エレクトリック社のM61バルカン砲が良く知られている。砲身を回転させるスピンアップ時間短縮では、油圧を用いることで0.3秒に短縮した物がある一方、耐久性を犠牲として銃身を軽量化したものが、航空機や船舶・戦闘車両搭載型として採用されている。艦船積載用のものでは近距離対空防衛用(CIWS)のファランクス(バルカン砲を高速追尾用の銃架・制御装置に取り付けたシステム)も広く採用されている。
現代のガトリング砲においては、給弾装置はこの短時間で実包を大量消費する「大食い」火器のためにベルトコンベヤーのような構造をしており、この弾薬の供給具合を擬態語で表すとすれば、さながら「ザーッ(流れるという形容詞が相応しい)」と言った具合であり、連射すると1000発を10秒少々で撃ちつくす。普通のマシンガンのように一発一発の発射音が断続的ではなく連続して聞こえるため、その発射音も独特の噴射音である(→参考動画)。なお他の単銃身機関銃に採用されているリンクベルトは、ガトリング砲では弾薬消費のスピードが速すぎるため、張力に耐えられず使用できないことから「レール給弾」(砲と弾倉をチューブで繋ぎ、その中に弾倉内の砲弾を電動モーターで送り出す)が用いられる。
[編集] 航空機用火器としてのガトリング砲
1950年代半ば、戦闘機用機関砲は単銃身・多薬室方式(銃身は一本だが、5~6個の薬室が回転することにより高速連射を行える)のリヴォルヴァーカノンが主流であったが、発射速度は毎分1200~1500発であり(但し機関砲数は四門が主流)、より高速化・高機動化する戦闘機による空中戦では、兵器を操作する人間の反射速度は変わらないことから来る有効な発射機会の減少や発射可能時間の短縮がみられ、航空機に機関砲を搭載することの有効性が疑問視された。
飛行速度に対して発射間隔が相対的に開きすぎることによる打撃力の低下は、第二次世界大戦の当時にプロペラ機で既に問題となっていたため、大口径砲の搭載や機銃を複数搭載することでカバーされていたが、運動性能のために少しでも軽くしたい戦闘機においては、複数の大口径機関砲を、それぞれに弾薬を大量積載することには、技術的な限界もあった。この問題は、亜音速や音速で飛行するジェット機での空中戦で、更に深刻化することが予測された。
この問題において米空軍はより発射間隔の短縮を求めてガトリング方式に着目し、陸軍博物館倉庫にあった実物の歩兵用ガトリングガンに油圧モーターを取り付けたものを作成、実験を行った。この際米空軍が発見したのは、期待以上の大きな発射速度と、弾丸の集中的着弾による期待以上の破壊効果だった。これにより有効性が認められたガトリングガンは、ジェネラルエレクトリック社製M61「バルカン」(製品の名称)として結実、現在にいたる。なおF/A-22A「ラプター」ステルス戦闘機には、砲身の延長と機関の改良が行われたM61A2が搭載されている。
しかし開発から十年ほど経過していたベトナム戦争発生時では、米軍戦闘機に「バルカン」搭載機は少なかった。これは当時流行した「航空機は高速化して機銃を撃つ機会はなくなり、高精度化したミサイルによりその必要もなくなる」という戦術思想に基づくミサイル神話の影響によるもので、「バルカン」は対地攻撃用兵器として捉えられるようになっていた。
だが実際の戦闘が始まると、ミサイル神話が実質的に楽観的な予測であったことが、以下のような現象に現れる。
- ミサイルの命中率・確実性の低さ
- 技術的な過大評価と、ベトナムの高温多湿による品質低下のため。
- 実際に携行されるミサイルの少なさに加え、運用コストの高さ
- 最大8発のミサイルを搭載できる機でも、戦術上の都合と未使用ミサイルがコスト増を招くなどの理由もあって、最大積載量まで満載されることはまずなく、精々4~6発しか搭載されていなかった。戦闘で使用しなくても、出撃に用いられたミサイルは帰還後の整備を要するためである。またミサイルは重量があるため、多く積載すればそれだけ航空機の運動性能が低下したほか、より多くの燃料を消費した。
- 米軍が独自に制定した交戦規則により、ミサイルの本分である「視程外攻撃」が許可されなかった
- 相手を目視せずに、レーダー補足のみによる攻撃が禁止されていた。
- 対地攻撃に関して、「バルカン」は弾が集中的に着弾する為、対装甲車はともかく、対人機銃掃射には向かない
こうして対空戦闘に関しては、攻撃機が自衛的に用いた「バルカン」の対戦闘機用法が予想外に大きな効果を上げたこと等が確認され、「バルカン」は対空兵器としての地位を取り戻した。なお航空機搭載に際する携行弾数は約600発程度(F-4、F-14、F-15E、F-16、F-18、F-22等)だが、ごく一部の機体は約千発を搭載できた(F-105、F-15C)。
なお当時のもう片方の軍事大国であった、ソビエト連邦でも1960年代以降はガトリング式航空機銃が用いられたが、それは対地兵器でも対地ロケット弾や対地ミサイルの補用としててであり、これは現在でもある程度継続されているが、対地兵器補用としての価値は下落している。空対空機銃としては1970年代半ばまでは23~37ミリの大口径機関砲2~3門(装弾数は各100発程度)を用いた。それ以降の空対空機関砲は一貫して30ミリ機関砲(搭載数一門。携行弾数は100~150発)が用いられており、空対空火器としてガトリング式を用いることは無かった。
[編集] 登場する作品
稼動部が多く見た目が派手なため、映画やアニメーション・漫画等では好んで使われるガジェットとなっている。
発射前に「何かファンの回るような音がしてから連続射撃が始まる」という描写も見られる。
連続かつ高初速で弾丸を発射するためその反動は極めて大きく、19世紀後半に登場した一部のタイプを除けば素手では扱えないため、本来なら銃架に固定して使用するものであるが、多くの作品ではその点は無視され、単に超高速で連続射撃できる武器として描かれている。
その派手さからアクション映画等においては度々登場しており、映画撮影用の空砲ではあるが、アメリカGE社のM134ミニガン(GAU-2A;本来は車両や航空機などに搭載される。重量15.5kg、口径7.62mm、銃身はモーター駆動、発射速度は4000発/分)を手持ち式に改造した物が『プレデター』や『ターミネーター2』等に登場している。またこれはファン筋に大いに喜ばれ、これを模したエアソフトガンもマニア向けに発売された。M134のエアソフトガンを発売したメーカーは、トイテックとアサヒファイヤーアームズの2社で、生産が終了した現在でも、大きなサバイバルゲームの試合にて使用する者が見られる。
もっともこれらは完全なる撮影用プロップ(架空の兵器)で、モーターの作動に必要な大重量の12ボルト自動車用バッテリー2個を離れた所に置き、役者にコードで繋いで発砲開始も遠隔操作するものであり、現実には携帯型は存在しないし、また実用は困難である。『プレデター』の撮影の際に、制作プロデューサーのジョエル・シルバーにより映画用に銃器を提供しているステムブリッジ・ガン・レンタルズに、元々ヘリコプター用のものを改造するという形で特別発注された。同映画中では「手懐け易い奴」という台詞もあるようだが、実際に映画内でこれを発射した、ヘビー級チャンピオンも経験した元プロレスラーの俳優ジェシー・ベンチュラの弁として「 歯を食いしばって頑張っても、吹き飛ばされてしまいますね。まるで発砲するチェーンソーですよ 」とのコメント(『プレデター』日本劇場公開時のパンフレットP.16)がある。このコメントが絡むのかは不明だが、日本での同作品TV放映時に“チェーンガン”という間違った名前にされているほか、一部の印刷媒体を含む各種媒体にも、ガトリング砲やその類型を指してチェーンガンと表現するケースすらみられる(誤用に関してはチェーンガンの項目を参考されたし)。なおこの「発砲するチェーンソー」は、もし手を離そうものなら、反動で銃だけ後ろ向きに飛んでいく事だろう。
重量が大きく反動も強烈なため、先述した通り実際に抱えて撃てるような物ではないが、コンピュータゲームのバイオハザードシリーズにも高速連射のできる威力の大きな武器として登場している。ただしこちらは砲身が3本しかなく、弾丸が発射されるまでのタイムラグ(約1秒強)が再現されているため、威力はあるが接近戦では使い勝手の悪い武器として描かれている。
[編集] その他の作品
- るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- - 武田観柳が使用。
- サイボーグクロちゃん - クロなどが使用。
- 最終兵器彼女 - 初期のちせが装備している。
- ライブ・ア・ライブ - 西部編のボスキャラクターのO・ディオが使用する。
- 攻殻機動隊 - 思考戦車タチコマの口に当たる部分に装備可能。50口径弾薬を使用し、六銃身である。
- ターミネーター2 - 主人公T-800が、ビルから階下の警官隊に向けてミニガンを掃射した。この時用いられたミニガンは撮影用に作られたものであり、実際にミニガンを個人で運用することはほぼ不可能といわれている。
- ラストサムライ - ラストシーンで渡辺謙演じる勝元の軍勢を駆逐するために官軍が使用。
- ブルーサンダー - 主兵装として炸薬弾を装填した電動式・口径20mmを装備。
- ファイナルファンタジーVII - バレット・ウォーレスが右腕に義手、ギミックアームとして使用している。
- メタルギアソリッド - バルカン・レイブンが使用。
- フルメタル・パニック! - ARX-8 レーバテインの頭部にはGAU-19/S 12.7mmガトリングガンが搭載されている(GAU-19は実在するが、これは架空)。
- ブラックホークダウン - ブラックホーク・リトルバードにM134を搭載、後者は映画のクライマックス、夜間戦で屋上の民兵を掃射するのに使用。
- ガンダムシリーズ - 各作品で、MSの武装として登場。内装火器の多いガンダムヘビーアームズやガンダムレオパルドが両腕に装備して運用する大型ガトリング砲は特徴的な例。グフカスタムやシグーは左腕のシールド一体式として、またガンダムNT-1は両腕に内蔵式、ランチャーストライクガンダムは右肩装着式で装備する。実弾の代わりにビームを撃ち出す、ビームガトリングガンも登場する。
[編集] 種類
- GAU-12
- 口径25mm 5銃身。AC-130 ガンシップ等に塔載。
- GAU-19
- 50口径(12.7mm) 3銃身。
- GAU-17 M134
- 口径7.62mm 6銃身。ミニガンとも、GAU2Bとも言う。対人兵器。
- 口径20mm 6銃身。CIWSであるファランクスシステム等。
- M197
- 口径20mm 3銃身。AH-1 コブラ等に搭載。M61の系列機。
[編集] 関連記事
- リヴォルヴァーカノン
- ガスト式