動力車
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動力車(どうりょくしゃ)とは、動力を有する車両のことである。
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[編集] 概要
[編集] 鉄道車両
鉄道車両では電車や気動車で電動機・エンジンなどを有する車両がこれにあたる。
場合によってはMotorの頭文字である「M」で略記する事がある。電車の場合、運転席を有する車両を特別に制御電動車(せいぎょでんどうしゃ)と呼び、先のMと運転席を示すcontroller の頭文字である「c(慣例で小文字とする場合が多い)」を組み合わせ、車体の片側に運転席がある車両を「Mc」、車体の両側に運転席がある車両を「cMc」と略記する。
以上は日本国有鉄道(国鉄)・JRに見られる略記方法であり、鉄道事業者によっては異なる表記を用いている場合がある。例えば、帝都高速度交通営団(営団)・東京地下鉄(東京メトロ)では車体の片側に運転席がある車両のことを「C」を大文字で、なおかつ「M」の前に置いて「CM」と表記している。
[編集] 称号について
国鉄・JRの在来線車両では、「M」の他にモーターの頭文字である「モ」の略称が与えられている。制御電動車については運転台の数にかかわらず、これに制御車を意味する「ク」を前に置いて「クモ」と表記する。更にこの後に、普通車を表す「ハ」やグリーン車を表す「ロ」などの車両等級、荷物車を表す「ニ」などの車種を表す記号が入れられるのが一般的である。ただし、新幹線車両については数字のみで構成されている関係でこの称号は用いられない。
しかし、鉄道事業者によっては異なる表記を用いている場合があり、名古屋鉄道・近畿日本鉄道などでは、運転台の有無にかかわらず、電動車は全て等級表記を含まない、「モ」の記号があてられ、小田急電鉄・京王電鉄などでは、「モ」の代わりに「電動車」の頭文字である「デ」が用いられている。また、その他にも電化から昭和初期まで「電」を用いた南海鉄道や、内燃化まで「M」を用いた栗原電鉄の様に、独自の称号を用いた例も幾つかあった。
[編集] 鉄道車両の駆動方式
[編集] ユニット方式
鉄道車両、特に電車においては、1両で各機能を完結させず、複数の車両間で主制御器、電動発電機(MG)、空気圧縮機(CP)などの主要機器を集約分散搭載する、ユニット方式と呼ばれるシステムが採用されることがある。
[編集] MM'ユニット方式
1954年7月に完成した、近畿日本鉄道モ1450形電車において、三菱電機と近畿日本鉄道の共同開発により、異なる機器を搭載する2種類の電動車を連結する事で1つの機構として成立する、1C8M制御[1]によるユニット方式が実用化された。
これは2両の電動車をひとまとまり(=1ユニット)として取り扱い、片方の電動車に制御機器、主抵抗器、パンタグラフといった電装系の機器を、もう片方の電動車にMG、CPといった空制系の機器を、それぞれ2両分の規模で集約分散搭載する方式で、当初はカルダン駆動方式を採用する高性能車において、回生/発電ブレーキの常用を可能とするために主電動機が低電圧・大電流・高速回転化したことに対応して、直並列制御の組み合わせの自由度を高めるべく、より多数の主電動機を1台の制御器で制御する必要が生じたことから考案されたものであった。
だが、この方式のメリットはそれだけではなかった。2両分の機器を集約分散搭載した結果、各機器の製造・保守コストが大幅に削減され、さらにMGやCPについては容量増=重量増ではないため、ユニット全体の軽量化が実現されたのである。
この方式は近鉄モ1450形での長期試験において大成功を収め、1460系以降の同社車両の大半に採用されたばかりでなく、小田急電鉄などの三菱電機製品を採用する私鉄各社にも急速に伝播した。さらには国鉄101系電車へMM'ユニット方式[2]としてこのアイデアが採用されたことによってそのノウハウが公開され、他の電機メーカー各社においても同種のシステム採用が可能となったため、この方式は以後一般化し、日本の各鉄道会社に幅広く普及している。
欠点としては、ユニット内の主要機器が故障するとユニット全車が走行不能、あるいは電動車として使用不能となること[3]、列車の最小運行単位が2両となり、1両単位での編成調整や単行運転が出来ないことが挙げられる。このため竣工時の南海電気鉄道21001系電車のように、営業運転中の故障が直接運転不能に繋がる恐れがあると考えられ、一部の山岳線区向けの車両では、冗長性確保の面からユニット構成をあえて回避する事例が見られる。
このシステムは長大編成の電車列車を、電気制動による抑速ブレーキ必須の連続急勾配区間を含む線区で長期にわたり運行してきた近鉄と、MGやCP、それに空気ブレーキまでグループ内で製造している三菱電機のコンビならではの卓抜なアイデアであるが、この種のユニット構成については、1952年に日立製作所笠戸工場が製造した高松琴平電気鉄道10000形電車が先駆例として知られている。ただし、こちらは本来1C4M方式で旧式の吊り掛け式モーター搭載する電動車と、主要機器を搭載しない制御車のペアとすべき所を、橋梁などの地上施設の制約から、自重減を目的としてやむなく2個モーター搭載の制御電動車2両のペアとして機器を分散搭載としたものであり、そのコンセプトにおいてユニット方式とは似て非なるものであった。
ユニットは、必ずしも運行時の最小単位であるとは限らない。例えば国鉄117系電車の場合、電動車自体は2両1ユニットであるが、電動車に運転台付きの車両が存在しないため、両端に制御車を連結した4両が最短の編成となる。
[編集] ユニット方式の拡大
一般的には取り扱いの利便性から2両単位とされることが多いユニット方式であるが、様々な事情から、下記のように構成両数を増やした例が幾つか存在する。
- 京浜急行電鉄800形高加減速性能を実現する必要と、当時3両編成が基本であった普通列車に使用する必要から、異例の1C12M方式として設計された(この他にも2000形も1C12Mである)。
- 新幹線500系電車:300km/hでの超高速運転を実現すべく、軽量化と高出力化を両立するための手段としてM1-M2-M3-M4の4両1ユニット化が選択された。
- 京成電鉄3200形などの車両は先頭車の片方の台車にモーターがない1C6M方式である。
[編集] 付随車を含むユニット方式
上記以外にも、電動車以外に付随車を含めたひとまとまりを1ユニットとする場合がある。例えば新幹線300系電車では、通常のMM'ユニット間に変電機器を集約搭載した付随車を挿入する、M1-Tp-M2による3両ユニットを基本としている。この例を含め、電動車の機能の一部を分散搭載された付随車をユニットに含む例は交流電化線区向け車両に多く見られ、それらの大半では付随車に交流→直流変換機能を集約搭載することで、電動車の機器設計を直流電化向けと共通化することや、高圧機器と低圧機器の混在によるトラブル防止に役立てている。
なお、この300系のMTMユニット方式は後続の500系で4両ユニット構成の全電動車方式となり、さらに700系では経済性を重視してそこから1両分の主電動機を省略した、M1-M'-M2-Tの4両ユニットとなったため、日本においては他例が存在しない。ただし、ドイツ鉄道(DB)のICE3において、重量軽減と日本に比べて遙かに複雑な電化方式[4]への対応の必要からこの方式が採用されている。
[編集] 2モータ独立制御
台車の1軸に対して電動機が1台であるから、電動機が2台ついているが、それぞれを個別にコントロールできる仕組みを指す。なお、片側の台車だけに電動機が搭載されているものを0.5Mと表記する場合がある。
又、この方式では2台車全てに電動機が4台搭載してあるものを1Mとして表す。このようなシステムを持つものの例として京成電鉄3500形電車の先頭車両等が挙げられる。
なお、、ディーゼルカーなどには片側のみの台車を駆動するものも多い。
[編集] ユニットカット
地下鉄や山岳線区など、故障による走行不能が重大な事故に繋がりかねない路線では、運行ができなくなることを防ぐために1編成内に2組以上の電動車ユニットが連結される。そのような編成が、故障などの異常時や運行上1組の動力を用いないことをユニットカットという。
通常の運転で行われることはまれであり、電動機に過剰な負担がかかるという点からも望ましい処置ではなく、事故などの際に短期に行われることは見受けられものの、長期では行われることはほとんどない。
例えば、連続14‰の上り勾配を持つ青函トンネルの通過を前提として設計を行った北海道旅客鉄道(JR北海道)の789系電車では5両編成(MT比=4M1T)のうち2組ある動力車ユニット1つが欠けても青函トンネルを通過できる設計とされている。
また、東日本旅客鉄道(JR東日本)の103系常磐快速線配属車では、MT比8M2Tの基本編成と4M1Tの付属編成との連結が変電所の容量の関係で不可能であったので、付属編成のうち1ユニットについて力行機能をカットし、発電ブレーキのみ作動するように改造したという事例が存在したが、これは一般的な意味でのユニットカットの範疇からは外れており、電動車の代用付随車化と見なすべきである。
[編集] 自動車
自動車の場合原動機を持つものを指すが、「動力車」と呼ばれるものはトレーラーヘッド等無動力車を引く牽引車(けんいんしゃ)のみを指す場合が多い。
[編集] 脚注
- ^ 1 Controller 8 Motorsの略で、2両分で合計8台の主電動機を、1台の主制御器によって一括制御することから命名された。以後、近鉄などではこの呼称が常用されている。
- ^ 主制御器をはじめとする主要電装品を搭載するM車と、MG・CPなどの補助的な機器を搭載するM'車で構成されることから、このように呼称されている。なお、101系電車においては三菱のMM'ユニット方式、東洋電機の中空軸平行カルダン、それに東芝のパッケージ制御器、と主要電機メーカー各社の持つ最新技術がつまみ食い状態で集大成されており、その代償として参加各社は公開されたライバル各社のノウハウを自社製品に使用する権利を得ている。
- ^ もっとも、最近のVVVF制御車などでは機器の内部構成を並列化(2C8M)し、一部を解放することでユニット全車の共倒れを防ぐ設計の導入が進んでおり、こういったデメリットが表面化する機会は次第に減少しつつある。
- ^ 電化方式の異なる各国への直通に対応するため、最大4電源方式対応となっている。