愛知高速交通東部丘陵線
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東部丘陵線(とうぶきゅうりょうせん)は、愛知県名古屋市名東区の藤が丘駅から愛知県豊田市の八草駅までを結ぶ、愛知高速交通の磁気浮上式鉄道路線である。愛称は「リニモ (Linimo)」。
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[編集] 路線データ
- 路線距離(営業キロ):8.9km(建設キロ:9.15km)
- 方式:常電導吸引型磁気浮上式 (HSST)
- 駅数:9駅(起終点駅含む)
- 複線区間:全線
- 最高速度:100km/h
[編集] 概要
常電導吸引型(HSST)による日本初の磁気浮上式鉄道(リニアモーターカー)の常設実用路線である。HSSTのインフラ整備には、従来の中容量輸送の代表ともいえるモノレールはもとより、新交通システム以上の投資が必要となるが、これまでの車両とは異なり、電動機や車輪を持たないため、騒音・振動源が少なく、また、空転のリスクも無いため、加・減速や登坂性能に優れ、ゴムタイヤ式よりもさらに静かで乗り心地がよく、最高速度も上回る、などの多くの利点を持つ。車両は常に浮いているため停車中は下から押し上げている。そのため扉が閉まり発車するときに押し上げていたものが下がる「ドン」という音がする。
軌道法に基づく軌道として特許され、2005年に開催された愛知万博(愛・地球博)の会場アクセス路線として建設された。万博閉幕後は名古屋市営地下鉄東山線や愛知環状鉄道線と連絡し、名古屋市内と東部丘陵地域を結ぶ、地域輸送路線としての利用が期待されている。
路線は概ね県道6号力石・名古屋線に沿って建設されており、藤が丘駅付近は地下線、はなみずき通駅付近で地表へ上り、以東の区間は高架線となっている。
「リニモ」ではATOによる無人運転を採用し、また安全面にも配慮して全駅にホームドアが整備されている(地下を走る藤が丘~はなみずき公園間では乗務員が乗り込む)。
なお、東部丘陵線で使われている100形車両は、2005年度グッドデザイン賞[1] と2006年度ローレル賞をそれぞれ受賞した。
また、台北市が東部丘陵線と同じHSSTの導入を検討しているとの報道がされている。
[編集] 運行形態
最高速度100km/hで、藤が丘~八草間の所要時間は約17分。最終列車として藤が丘0:05発の愛・地球博記念公園行きがあるほかは、藤が丘~八草間の運転である。平日・土曜休日ともに昼間時10分毎、平日朝ラッシュ時は7分毎の運行体系となっている。
愛知万博開催時の運行形態は愛知万博輸送の項を参照。
[編集] 建設の経緯
東部丘陵地域が「あいち学術研究開発ゾーン」として学術研究施設や公園、宅地開発が進められることになり、輸送需要の増加に対応でき、交通渋滞に悩まされない軌道系交通機関が求められることになり、元来あった藤が丘~長久手間に地下鉄1号線(東山線)を延伸する計画を発展させる形で東部丘陵線の構想が生まれた。
1992年(平成4年)の運輸政策審議会で「2008年までに中量軌道系の交通システムとして整備することが適当」と答申。その後「東部丘陵線導入機種選定委員会」が跨座式モノレール、新交通システム、磁気浮上式鉄道の中から、
- 建設予定地が60‰もの急勾配が続く丘陵地であること
- システム自体の先進性
などの理由で磁気浮上式鉄道を選定し、方式としては、日本航空が開発し、中部エイチ・エス・エス・ティ開発によって名鉄築港線沿いにあった大江実験線で走行試験が重ねられて来た常電導吸引型(HSST)が採用された。
また、愛知万博が長久手町の愛知青少年公園などを会場として開催されることが決まり、その鉄道系のアクセス路線の一つとして位置付けられた。
2000年に運営主体として愛知高速交通株式会社が設立され、2002年に着工された。2004年から完成した本線で試運転が重ねられ、2005年3月6日に開業を迎えた。
総事業費は約1,013億円で、このうち愛知高速交通施工分は約362億円である。
[編集] 歴史
[編集] 愛知万博輸送
[編集] 運行形態
2005年3月6日の開業時から9月26日まで、愛知万博輸送を前提とした運行体系が採られた。東部丘陵線(リニモ)との乗換駅となる愛知環状鉄道の八草駅は2004年10月10日から2005年9月30日の間、万博八草駅と改称されていた(リニモの駅は開業時から2006年3月31日まで万博八草駅)。
運転間隔は朝と夜が6~15分間隔、昼間が5~7分間隔であった。3月19日から万博終了までの土曜・休日には昼間8~10時台と夜20~23時台に藤が丘~万博会場間と万博八草~万博会場間に区間列車が運行された。
[編集] 利用状況
万博輸送に際し、リニモは藤が丘駅で接続する名古屋市営地下鉄東山線との輸送力のギャップから、同駅で乗客が滞留する可能性を指摘されていた。6両編成の東山線は1時間あたり14,500人の輸送量があるのに対し、リニモは3両編成で1時間あたり4千人の輸送量しかない。このためか、日本国際博覧会協会では名古屋駅から鉄道で会場へ向かう場合には中央西線高蔵寺駅経由で愛知環状鉄道線の万博八草駅へ直通運転する「エキスポシャトル」の利用を推奨していた。
愛知万博内覧会が行われた2005年3月19日には、乗客が定員の244人を超えて乗車して過重量となり、車両が浮き上がらないトラブルが発生、一時発車不能になる事態が起きた。同様に開幕前日の3月24日には浮上装置の故障で浮上不能になるトラブルが発生した。
これらに対して、一部のマスコミなどで「予測が甘かった」、「車両をもっと増やすべき」などといった意見が見られたが、この沿線は普段はそれ程多くの輸送力を必要としていないため、ひたすらに車両を増備しても万博閉会後に余剰となる車両は有効活用できないのが実情である。また、日本国内唯一のHSST方式による新規開業路線であるため、つくば科学博時の常磐線415系電車のように、万博開会前に新車を増備し、閉会後に旧型車を淘汰する手法や、大阪万博時の北大阪急行電鉄のように、閉会後、大阪市交通局に増備車を譲渡する手法を採ることも不可能であった。一方、通常軌条の愛知環状鉄道では、万博に向けて2000系電車を増備し、閉会後に余剰になった100・200・300形電車をえちぜん鉄道に譲渡している。
[編集] 万博後の利用者減少
運行会社は、万博閉幕後の利用者数を1日あたり約31,000人と想定し、債務返済に向けての前提ともなっていた。しかし、閉幕後6ヶ月間の平均利用者数は約12,000人程度と低迷している。沿線に15ヶ所ある大学や高等学校の利用者を見込んでいたが、最寄駅から学校まで距離が離れていたり、藤が丘から直通バスを運行する学校もあり、利用者獲得は見込み通りにはならなかった。
運行会社は、学校側に対して藤が丘からではなく最寄駅からバスを運行することなどを働き掛け、現在一部の大学が実施しているが、今後も利用拡大へのさらなる施策が必要といえる。
また、利用者のさらなる増加を狙って、2006年7月15日の愛・地球博記念公園(モリコロパーク)開園に合わせて、「Linimo1DAYフリーきっぷ」(大人800円、子供400円)の発売を開始した。
[編集] 駅一覧
駅番号 | 駅名 | 営業キロ | 接続路線 | 所在地 | |
---|---|---|---|---|---|
L01 | 藤が丘駅 | 0.0 | 名古屋市営地下鉄:東山線(H22) | 愛知県 | 名古屋市名東区 |
L02 | はなみずき通駅 | 1.4 | 愛知郡長久手町 | ||
L03 | 杁ヶ池公園駅 | 2.3 | |||
L04 | 長久手古戦場駅 | 3.4 | |||
L05 | 芸大通駅 (トヨタ博物館前) |
4.5 | |||
L06 | 公園西駅 | 6.0 | |||
L07 | 愛・地球博記念公園駅 (愛知県立大学前) |
7.0 | |||
L08 | 陶磁資料館南駅 | 8.0 | 豊田市 | ||
L09 | 八草駅 (愛知工業大学前) |
8.9 | 愛知環状鉄道:愛知環状鉄道線(18) |
[編集] 運賃
大人普通旅客運賃(小児半額・10円未満切り上げ)。
キロ程 | 運賃(円) |
初乗り2km | 160 |
3~4 | 220 |
5~6 | 280 |
7~8 | 340 |
9km | 360 |
[編集] カード・乗車券
- トランパス対応:リニモではSFパノラマカードを発売。リニモ各駅の自動券売機で購入可能。
- 東部丘陵線(リニモ)でのみ使用できるリニモカードも発売している(藤が丘駅及び八草駅窓口のみ)。
- カードの裏に印字される駅名の略号は、藤が丘駅:リニ藤(実際はリニが半角)、はなみずき通駅:はな、杁ヶ池公園駅:杁池、長久手古戦場駅:古戦、芸大通駅:芸大、公園西駅:公西、愛・地球博記念公園駅:公園(万博会場駅時代も同様)、陶磁資料館南駅:陶磁、八草駅:八草(万博八草駅時代も同様)、である。
- 定期券:藤が丘駅及び八草駅の窓口(8時~20時)にて購入可能(通勤新規及び継続の場合は自動券売機でも)。それ以外の駅の場合は自動券売機で「定期券購入用乗車券」を一旦購入(大人・子供同額)し、発売駅へ行き、定期券購入時に返金してもらえる。
- 一日乗車券(Linimo 1DAYフリーきっぷ):リニモ全駅の自動券売機で購入可能。大人800円、子供400円。リニモのみ利用可能。地下鉄線・愛知環状鉄道線など他社線は利用できない。
[編集] 写真集
2005年9月撮影。車両運転席。 |
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2007年1月撮影。車両運転席(カバーを閉じた状態) |