焜炉
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焜炉(こんろ・片仮名でコンロと表記する事もある)とは、本来運搬可能な小型の調理用の炉をさしたが、今日では鍋釜などの調理用具を加熱する燃焼器具又は加熱器具も含まれる。
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[編集] 呼び方
- ガス台
- ガステーブル
- クックトップ(海外製品に対し用いられることが多い。)
- ビルトインコンロ(流し台に組み込まれたコンロ。調理作業面となる天板に一枚板となるようにコンロが組み込まれていることがシステムキッチンと呼ぶ基準の一つとなる。)
正しく無いが用いられる呼び方
- ガスレンジ(囲まれた空間の雰囲気温度を高めることにより加熱調理するものであり、オーブン・電子レンジ・コンベックを本来は対象とする。)
[編集] 概要
本来コンロとは運搬可能な調理用の炉をさしていた。ここでは現代でも屋外で用いられることのある七輪が含まれている。七輪とは珪藻土などで作られ、燃料に木炭などを使うコンロの一種で、空気取り入れ口の加減で火力を調節するが、燃料の燃え具合の調節が難しい。
今日コンロといえば、一般的にはガスコンロをさす。ガスコンロにはガス栓からガスホースを用い、ガスを供給する方式とカセットガスボンベを接続し、ガスを供給するカセットコンロ方式がある。もっともコンロとして、電気コンロ及びIHクッキングヒーターなどをさすこともある。近時はガスコンロとIHクッキングヒーターが並びあい一体となったコンロもある。なお電気で加熱するものとしては、皿や調理済みの料理の入った鍋が冷めないように保温加熱するプレートヒーターもあるが、通常コンロの範疇には含めない。
その他キャンプ及び登山用品として様々な種類の携帯用コンロも存在する。
コンロは一般的な調理に伴い、飛び跳ねた油、吹きこぼれた食材及び食材の断片などによって汚れる事が多い。これらは腐敗したり、病原害虫を呼び寄せる原因になる。ガスコンロの場合、バーナー部分の目詰まりを起こし燃焼不良の原因ともなるし、電気コンロ及びIHクッキングヒーターの場合、腐食や漏電などの原因ともなる。又IHクッキングヒーターでは、基板を収める空間が過熱しないように絶えず冷却ファンを回す必要があり、吸気部のフィルターが目詰まりしないよう常に注意を払う必要がある。
又燃料を使用するタイプのコンロでは原理上、常に換気に注意する必要がある。
[編集] コンロの種類と特徴
一般にコンロは、熱源として電気を使うものと、燃料を使うものとに大別できる。電気を使うものには電気抵抗を利用するタイプ(電気抵抗)と電磁誘導を利用するタイプ(電磁誘導)とがあり、燃焼加熱によるものの燃料には(固体燃料)、(液体燃料)及び(気体燃料)と各物質状態の燃料がある。
コンロの種類により、それぞれ得手、不得手がある。
[編集] 石炭コンロ・かまど(固体燃料)
古くから用いられているもので、石炭、薪及び木炭など固体の燃料が使われる。固体の可燃物であれば大抵の燃料を用いる事が可能だが、煤が溜まりやすい事も有って不完全燃焼を起こす場合がある。又強い火力を必要とする調理には適しているが、火力調節がし辛く弱火で長時間煮込むような調理法は難しい。その上生じた熱を鍋釜などの調理器具に必ずしも確実には伝えられず、その大半を本体側面から逃がしてしまうため、調理を行う者は酷暑に晒される一方で燃料が無駄になりやすい。
もっとも、それでも裸火を使って調理するよりは遥かに効率が良いし、土などの調達が容易な材料で作れることから、近年では森林の乱伐採が問題視される発展途上国で木炭の利用と並びこれらコンロの使用が推奨されている。現行の他のコンロに比べると欠点が目立つこの形式だが、この燃料を選ばない面でのメリットは大きいし、土などの調達が容易な材料で作れることのメリットも大きい。かまどの項を参照のこと。
その他携帯用コンロでは、メタノール系固形燃料やパラフィン系固形燃料などの固体燃料を使うタイプがある。固形燃料タイプでは缶に入っていて缶自体がコンロとして利用できる物がある一方、一回分がパック詰めなどになっていて、燃料自体が燃焼量・燃焼時間も決定する簡易型の物がある。災害時やキャンプなどで上記の高価な液体ないしガスを使用する携帯コンロの代用品としては前者が、屋内での食卓上での調理や屋外でのレーションなどの加熱には後者が用いられる。後者のタイプでは旅館に泊まった際に料理の加熱ないし保温に使われている物を見た事がある人も多いだろう。
[編集] ガソリンコンロ・アルコールコンロ(液体燃料)
ガソリンやアルコールなどの常温では液体の燃料(ある程度穏やかに揮発するが)を用いるコンロ。後述のガスコンロよりも燃料の管理がしやすく、温度変化や気圧変化にも強い。主としてキャンプ・登山用の携帯型コンロに用いられるが、大型の物はバーベキューのような焼き物調理の際に利用されるのに対し、小型の物は燃料の量も限られるため、飲料の加熱などに用いられる事が多い。
コンロ用液体燃料の主流はホワイトガソリンだが、複数の液体燃料にパーツの交換等で対応するマルチフューエルタイプのコンロもある。しかし石油系の燃料は着火性にやや難があり、点火前にヒーター部分を加熱(プレヒート)し燃料の揮発を助ける必要があるし、ポンピングにより燃料タンクに加圧する必要もある。
また燃料に不純物があるとコンロの揮発機構に悪影響があるため、自動車・オートバイ・モーターボート等のエンジン(内燃機関)用の燃料を用いると、内燃機関用の添加剤が原因で、故障をおこす事がある。燃料に「ホワイトガソリン」と指定されているものにはホワイトガソリンを使用しなくてはならない。
一般的なアルコールコンロでは、燃料の揮発性が高いために通常ポンピングによる加圧やプレヒートを要せず、そのため構造が単純で故障が少なく手入れがほとんど要らないし、加圧しないために燃焼音も静かである。しかしその代わり加圧しないためにそれだけ火力も下がり風雨にも弱くなるので風防の類が必須となる。又燃料がアルコールであることから石油系と異なり水で消火できる長所があるが、直射日光下で炎が見えない弱みももつし、燃料としての熱量自体が低いので火力も弱いことになる。
なおアルコールコンロでも、指定燃料以外のアルコール飲料やガソリン・ベンゼン・ライターオイルを入れた場合に、燃焼不良や爆発を起こす危険性があるので注意する。
そのほか、アルコール(メタノール)を固形燃料とした携帯用コンロも存在する。前記「1.3 石炭コンロ・かまど」の項を参照のこと。
[編集] ガスコンロ(気体燃料)
都市ガスやプロパンガス(LPG)などの可燃性の気体を燃料とするコンロ。安定した火力で調理する際に威力を発揮する。その一方で小型の物は常温下では安定した火力が簡単に得やすいことから、沸点が高くカートリッジの耐圧製が低くできるブタン(ガスライターの燃料)や混合ガスを充填したカートリッジを使用する。
プロパンや都市ガスなどを使用する据え置きタイプの物は、火力の調節が楽で、炒め物などの高温を必要とする調理から、煮物などの弱火を長時間用いる調理にまで、幅広く用いる事が可能である。簡易式のカートリッジボンベを使うタイプでも、他の移動式コンロより点火が簡便で、また高温も得やすい。
設置された状態や追加機能により呼び分けることもある。ガステーブルはガス栓からガスホースにより接続された移動が容易なコンロをさす。システムキッチンとして組み込まれた(ガスコンロの上面と手前操作部のみ露出)状態で固定されたものはビルトインコンロと呼ばれる。コンロ手前に組み込まれたグリル機能のあるコンロをガスレンジと呼ぶ。上位機種としてコンロ台にあたる部分にガスオーブンレンジを組み込んだものもある。
燃料とするガス種類は大きく分けて、メタンを主成分とする天然ガスと、高圧下で液体にしてタンクに貯蔵してあるプロパン・ブタンを主成分である液化石油ガスがある。ガス種にあうコンロを用いないと適切な燃焼状態を確保する事が困難である。部品交換により燃料転換修理も可能なコンロも少なくないが、修理費用が意外と料金が掛かる場合が少なく無い。
問題点としては、屋内使用では燃焼による酸素消費があるため、換気が適切でない室内において燃焼を継続すると、不完全燃焼による一酸化炭素を発生させ一酸化炭素中毒による事故となる。テントのような屋外に設置する簡易な住居においても換気が不適切である場合、同様な事故が生じる。これは燃焼加熱式共通の問題である。又、一定濃度で大気と混合している状態にて点火すると、爆発的燃焼を起こす。爆発燃焼事故を未然に防ぐ為、爆発限界に達する前に嗅覚またはガス漏れ検知器等(メタン等のガス主成分に反応)にて容易に発見するために家庭用ガスには付臭することが法で定められていることや、ガス機器や配管損傷を主とする大量の漏れに対しては、ガスメーターの安全装置及びヒューズガス栓が作動しガス供給遮断される等の対策が施されている。コンロでの事故は誤使用に起因することが多く、安全保護機能を備え付けられたガスコンロの普及により減少傾向となった。
この他、温度や気圧で揮発・膨張率に大きな差が生じる事から、液化ガスをボンベに入れて用いるLPG・卓上カセットガスコンロ及びキャンプ用のガスコンロは、寒冷地や高山地帯における使用に支障をきたす事がある。
そのため、一般的にカセットガスやガスカートリッジにはブタンが充填されるところ、冬季用ではより沸点の低いイソブタン又はプロパンも混入されている。もし冬季用にプロパン100%のカートリッジがあれば便利とも思われるが、プロパンは膨張する圧力が大きく耐圧性が求められる事から、相当重量のあるカートリッジになってしまって実用的でないことから商品化はされていないようである。なお日本のカセットガスのカートリッジは1995年以降の製品で全社共通化されているため、何処のメーカーのカートリッジでも利用できるよう設計されている(→参考)。カセットコンロは使用が手軽な分、誤った使用方法によりガスが漏れたり、五徳に載せた鉄板等がボンベ収容上部にはみ出すことによりボンベが過熱し爆発する事故も多いため、注意が必要である。
現在の液化石油ガス自体には毒性はないが、液化石油ガスをそのまま吸引すると酸欠による中毒を起こす危険性がある。都市ガスの中には一酸化炭素を含むものもあるが、天然ガスに転換された地域では一酸化炭素は精製成分として含まれていない。
最近は、ガスコンロでも調理器具を加熱する天板を拭き掃除しやすいようにガラスコートを施されたガラストップコンロが販売されており、『ピピッとコンロ』や『キラクック』といった商品名で販売されている。これはIHクッキングヒーターの「上面が平らであり拭き掃除がしやすい」というメリットをガスコンロにも導入したものである。従来の五徳が際立ったフッ素コーティングのコンロより、デザイン性に優れ、掃除がしやすいなど利便性が向上している。この動きにより、ガスコンロのデザイン史も大きく進化した。又業務用器具としては、IHクッキングヒーターの様に天板が平らであるが加熱方式はガス燃焼式のコンロもある。
近年、省エネの点でも改良が進み、熱効率が向上し調理時間がさらに早くなっている。
[編集] 電気コンロ(電気抵抗)
電流をニクロム線などの、高い電気抵抗のある伝導体に通して、ジュール熱を発生させて調理する。炒め物などの高温を必要とする調理には全く向かない。工事費(ガス配管工事代分等)や設置が簡略化できるメリットが大きいことから、ワンルームマンションなどの賃貸集合住宅を中心に多く用いられていた。
もっとも、かつてはニクロム線が露出している製品が主で、この場合通電中の電気回路が露出していることになり漏電や感電の危険性があったため、今日ではこのニクロム線を非伝導性(電気絶縁性)の素材で覆った上で、金属製の被覆を被せたものが主流となっている。電灯線などの電力インフラさえあれば利用できるため、使う場所を選ばないメリットがある一方、消費電力も大きく運用コスト面での課題がある。
主に煮物等のほか、飲料水や湯煎したレトルト食品の加熱、海苔や干物の炙りなどに利用される。
[編集] IHクッキングヒーター(電磁誘導)
電磁誘導の原理による誘導加熱を利用して、コンロ上に置いた鍋釜等の底面にジュール熱を発生させて調理する。直接鍋釜が熱を発するために熱効率は非常に高い。また、電気コンロ同様に燃焼式ではないため、室内の空気を汚さない、及び防火対策の簡略化(=内装制限の緩和)などのメリットもある。そして安定した加熱管理制御を得意とするため、スープなどの液体の加熱に適している。反面、鍋釜等をガラストップ(コイル)から遠ざけてしまうと、誘導加熱および鍋釜等の温度検出ができず加熱を停止させてしまうため、フライパンを使った場合に調理ムラを生じ易いといったネックがある。
- 参考 IHクラブ
[編集] IHクッキングヒーターとガスコンロ(燃焼式を代表とする)
家庭内に設置する上で、機能特性により派生する異なる点を次に挙げる。
- 換気
酸素供給(不完全燃焼防止)の為にガスコンロは適切な換気を必要とするが、IHクッキングヒーターは酸素供給を目的とした換気は必要としない。
- 排気
ガスコンロは燃焼ガスのドラフト効果もあり、排気捕捉率が高い。IHクッキングヒーターは燃焼ガスが発生しない為、排気ファンの能力は高めの設計が望ましい。また、換気の項目に示しているが、排気(室外へ出す)するには、給気(又は吸気 室内に入れる)が必要であり、換気は必要である。
燃焼ガスの有無によりガスコンロではガスに含まれる水分(水蒸気)にて室内の結露を生じやすい。この水蒸気と調理用油類が合わさり壁面に着くことでキッチンべた付き汚れが発生する。ただし、排気能力に大きく左右されるものであり、IHクッキングヒーターだから汚れないというものではない。
- 清掃性
天板の清掃はIHクッキングヒーターが格段に清掃性において優れている。ガスコンロもガラストップコンロが主流となっているが、燃焼口廻り(バーナー部・五徳部)が有る限りこの差は埋まらない。
IHクッキングヒーターにおいて忘れがちなのが、フィルター部の清掃である。電気製品であるため、内部基盤部で発生する熱を逃がさないと不具合の原因となるためフィルターの目詰りには注意を要する。
- 内装制限
建築基準法により火気を取り扱う部屋では内装制限(不燃材料やたれ壁の設置義務)が定まっている。また、消防法(主に地方の火災予防条例)にて各自治体判断にて決められているが、IHクッキングヒーターでは規制が当たらないことが多く自由度の高い設計が行なえる。例として、固定されたテーブル面に組み込み、天板デザインを同一とするデザインや、剥き出しとした屋内梁を取り入れた設計などがある。ただ、加熱されたフライパンや一部にラジエントヒーターが組み合わさったものでは、可燃物が触れると燃焼するため考慮する必要は残る。
- 内線規程
電気消費機器等の規制で内線規程があり、IHクッキングヒーターは内線規程により最大出力制限がある。よって、ガスコンロのように3口+グリルを同時使用することができない、または出力(火力)が抑制される為、意識して用いる必要がある。
- 電磁波
IHクッキングヒーターはその特性上電磁波が発生する。この電磁波の影響については具体的な安全性は立証されていないものの、危険であるという立証も不確かな要素を含んでいる為、論議は継続されている。確かなこととして、一部ペースメーカーの誤作動や、腕・手への金属装着部への加熱の危険性がある。また、電磁波そのものの影響ではないが、周波振動音を不快に思う者もいる。