薬学部
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
薬学部(やくがくぶ)は、大学の学部のひとつ。薬学の教育、研究がなされる。本項においては、別段の記述が無い限り日本の大学における薬学部について述べるものとする。
目次 |
[編集] 概要
[編集] 沿革
日本においては、そのルーツは旧制高等中学校医学部薬学科から旧制高等学校医学部薬学科、旧制帝国大学医学部薬学科、旧制医科大学薬学科を経たものや旧制薬学専門学校にあるが、1950年代から1970年代の文部省の学校教育法改編と国立大学組織の改編などを経て、学部として設置されるようになり、今日に至る。前記以外の学校に起源をもつ薬学部としては、徳島大学薬学部(旧制徳島高等工業学校応用化学科(現・徳島大学工学部))、日本大学薬学部(日本大学工学部(現・理工学部))などがある。
[編集] 学位
薬学部で授与される学位呼称は、学士(薬学)が主な例である。明治時代以降、はじめて学位制度が出来た折は学士号の一種として製薬士の学位が設けられ、その後主に薬学士などの名称になったが、平成以降、学士号が学位に編入されたことから、今日の学位名称となっている。現行の大学院薬学研究科においては、修士(薬学、医療薬学など)、博士(薬学、医療薬学など)の学位が授与される。なお、2006年度入学より4年間を標準修業年限とする通常の大学課程と6年間を標準修業年限とする二つの課程が設けられた。新4年制課程で得られる学位は学士(薬科学)などである。一方、6年制課程で得られる学位は学士(薬学)である。4年制課程は基礎薬学や創薬科学関連の教育研究を確保するため残された。6年制課程は薬剤師職能教育を充実させるため長期の病院薬局実務実習など、薬学の課程のうち臨床に係る実践的な能力を涵養する課程を含んでいる。どちらの課程も大学4年までのカリキュラムに格段の差異はない。薬剤師国家試験の受験資格は6年制課程を卒業または卒業見込の者に与えられ、新4年制課程の卒業または卒業見込の者には与えられない。6年制課程は通常の大学課程と異なり、博士課程に直接入学できるなど修士相当の扱いを受ける。大学院薬学研究科では、新4年制など、通常の大学課程から進学する場合、修士(薬科学)、博士(薬科学)などの学位が、6年制課程から進学する場合、博士(薬学)の学位が授与される。
[編集] 教育
薬剤師法により薬学部の卒業が薬剤師国家試験の受験要件となっているため、(医学部、歯学部、獣医学部、看護学部などと同様に)薬学部は国家資格保有者(薬剤師)養成機関としての性格を有している。ただし、本性格は大学ごとに相当異なっており、東京大学をはじめとするいわゆる旧帝国大学等では薬剤師職能教育よりも、薬学者教育に力を入れるところもある。なお、自然科学系学部であるにもかかわらず伝統的に女子学生が他学部に比べて多いのは、日本において薬剤師は1940年代以前から女性が進出可能な職域であったため、と言われている。
薬学部では、薬剤師国家試験受験資格の他に、大学により教職課程を修めることで中学校教員免許(理科)と高等学校教員免許(理科)を取得できることもあり、薬学部を卒業して薬剤師免許を取得しても薬剤師免許が必要な職業(薬局など)には就かずに、中等教育を担う教員になる薬剤師もいる。
[編集] 設備
薬学部を有する大学は、薬用植物園(薬草園)を附属させることを必要とする(大学設置基準第39条)。また、6年制課程を有する薬学部を有する大学は、薬学実務実習に必要な施設を確保する義務を有する(大学設置基準第39条の2)。
[編集] 入学試験
近年の不況や資格ブームの影響などにより、薬学部は難関化する傾向にあったが、2006年度からの薬学部6年制課程移行に伴って標準修業年限が延長された事より2006年以降の入試動向は不透明である。2006年度の入学試験においては、各大学ともに志願者が減少傾向にあったことが報告されている。現時点では、私立大学薬学部の多くが6年制課程へ移行し、かつ私立大学薬学部の新設が続き薬学部の総定員が増加する傾向にある。2006年度入試結果による、2007年度入学試験の難易度ランキングが有名予備校各校から発表されたが、4年制課程と6年制課程の難易度の差は僅かなものとなっている。なお、東京大学では科類別の選抜後、進学振分けは二つの課程を区別せずに行い、4年生の6月に薬科学科(4年制課程)と薬学科(6年制課程)に分かれる。4年制課程と6年制課程を併設する大学では入学試験の段階で一括募集する場合と別途募集する場合があるので注意が必要である。
[編集] 6年制課程
改正学校教育法(と薬剤師法改正案)により、2006年から薬学部では6年制課程の設置がスタートし、国家試験受験資格が6年制課程卒業或いは卒業見込となる時点に同期して、薬剤師職能教育は完全に6年制に移行する。また、これと連動して2006年度より開始された6年制課程においては、半年の病院実習または薬局実習が必修化された。薬学部の標準修業年限が6年に延長されることとなった背景には、薬剤師の教育の場である薬学部を6年制にすることで先進国の中で遅れている薬剤師の教育を充実させ医療の質の向上をはかる、という旧厚生省(現・厚生労働省)の要望があった。一方、旧帝国大学等一部の研究に重きを置く大学においては、博士前期課程の廃止や博士後期課程の修業年限の延長により大学院生が少なくなる、という反論がなされていたといわれ、現にこれら大学においては4年制課程を残置する傾向にある。4年制の薬学部卒業者が薬剤師国家試験の受験資格を得るには、大学院薬学研究科の修士課程を修了した上で「一定の条件(所定の薬局病院実務実習単位の取得など)」を満たすことが必要となる(法施行後の12年間、2017年入学までの時限的な経過措置)。
[編集] 構成
[編集] 学科
薬学部には以下のような学科が存在している。ただし、大学によってその設置状況は異なっている。
- 旧4年制課程(2005年4月入学生まで)
- 薬学科、総合薬学科、製薬学科、生物薬学科など。卒業または卒業見込で薬剤師国家試験受験資格を得る。
- 新4年制課程(2006年4月以降入学生)
- 学科名称は薬科学科など。6年制課程の設置に伴い旧来の4年制教育は基礎薬学や創薬科学関連の教育研究を確保するため新4年制課程として残された。なお、新4年制課程を卒業しても薬剤師国家試験受験資格は得られない。大学院修士課程で所定の科目を履修し、さらに薬局病院実務実習を行うことにより薬剤師国家試験受験資格を得られる可能性があるが、2007年時点では要件は決定されていない。
- 6年制課程(2006年4月以降入学生)
- 学科名称は薬学科など。長期の薬局病院実務実習が必修化された。実務実習に入る前に、共用試験(CBT:Computer Based Test、「知識」に関する試験)と客観的臨床技能試験(OSCE:Objective Structured Clinical Examination、「技能・態度」に関する試験)が課せられる。卒業または卒業見込で薬剤師国家試験受験資格を得る。
[編集] 大学院
旧4年制課程を基礎におく現行の大学院薬学研究科は、標準修業年限が2年の修士課程、さらに標準修業年限が3年の博士課程がある。
新4年制課程を基礎におく場合は旧4年制課程とかわらない態様、すなわち修士課程、および博士課程となる。この場合の修士課程は、大学院医学研究科に設置されている医科学研究科修士課程と同様のものになることが予想されており、6年制課程の薬学部でも薬科学の教育研究体制を確保する目的があると考えられる。ただし、今後薬学研究科に設置される新4年制課程を基礎におく修士課程が同様の変遷をたどるかは不明である。学位呼称は修士(薬科学)、博士(薬科学)などとなる。
6年制課程を基礎におく大学院薬学研究科は、医学研究科、歯学研究科、獣医学研究科と同様に、博士課程のみで標準修業年限は4年である。学位呼称は博士(薬学)となる。
[編集] 卒業後の進路
毎年薬学部卒業生の卒後動向調査が行われている。2006年の調査結果は次の通り(薬学教育協議会の資料による)。
- 学部卒業者
- 薬学部卒業生を出している45大学が回答。卒業者の数は約8,400人(男3,200人、女5,200人、設置主体別では、国立1,100人、公立200人、私立7,100人)。
卒業生の主な進路は、進学29%(前年比±0)、薬局27%(前年比±0)、病院診療所薬局14%(前年比+1)、製薬会社8%(前年比−1)、一般販売業6%(前年比− 0.5)、病院診療所研究生2%(前年比− 0.5)、衛生行政・大学・卸売販売業2%(前年比±0)、就職せず・未定8%、その他4%である。
設置主体別では、国立大学で進学72%、薬局7.5%、病院診療所薬局7%、公立大学で進学38%、薬局21%、病院診療所薬局15%、私立大学では薬局30%、進学22%、病院診療所薬局15%となっている。
国立大学男子の進学率は81%に達する。全体を通して進学と薬局への就職が多いのが特徴。 - 大学院博士前期課程(修士課程)修了者
- 近年製薬会社への就職が漸減し、病院診療所薬局・調剤薬局への就職が増大している。
- 大学院博士後期課程(博士課程)修了者
- 大学教員・国公立各種研究所・製薬企業をはじめとした各種企業への就職(いずれも研究職)が主。なお、前二者についてはポストドクターを含む。一方、病院診療所薬局・調剤薬局への就職は少ない。