高松凌雲

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高松凌雲（たかまつ　りょううん、天保7年12月25日（1837年 1月31日）－大正5年（1916年）10月20日）は、幕末～明治期の医師。名は権平。荘三郎。函館戦争においては函館病院を開院。その後、民間救護団体の前身と言われる同愛社を創設。日本における赤十字運動の先駆者とされる。

[編集] 生涯

[編集] 幕府に登用されるまで

高松凌雲は、天保7年12月25日（旧暦）、福岡県で庄屋の子として生まれた。20歳の時、久留米藩家臣の川原家の養子となった。22歳で江戸にいる兄を頼って上京し、医師を志すようになる。

まず、その当時、蘭方医（オランダ医学）として著名だった石川桜所の門下に入り、オランダ医学を徹底的に学んだ。その後大阪に出て、全国から俊才が集まっていた適塾に入塾し、緒方洪庵の指導を受けた。凌雲はここでも頭角を現し、西洋医学の知識のみならず、オランダ語を自由に操るまでになる。更に、幕府が開いた英学所で学び、英語もマスターした。

1865年、彼の学才を知った一橋家が、凌雲を一橋家の専属医師として抜擢する。ほぼ時を同じくしてこの一橋家出身の徳川慶喜が第15代将軍となったため、凌雲は幕府から奥詰医師として登用されることとなった。

[編集] フランス留学

1867年、日本はフランスのパリで開催されたパリ万博に参加することになる。幕府は、倒幕運動で国内が混乱しているなか、国際社会から認知を受け、幕府の主権を固める意図を持っていた。将軍徳川慶喜は弟の昭武を代表に日本代表団を派遣することとし、凌雲は西洋医学の知識と語学力が評価されて代表団の随行医に選ばれた。パリ万博を終えると、凌雲は留学生としてパリに残るよう言い渡される。資金は幕府負担である。

凌雲が留学先として選んだのは、オテル・デュウ（HOTEL-DIEU:神の家）という病院を兼ねた医学学校であった。病院とは、新しい生命が生まれ、また消えていく「神が宿る場所」であり、すなわち医学とは神聖なものである、ということを彼はこの学校で学ぶこととなる。

凌雲はこの学校で様々な最新医療にふれた。当時の日本では外科手術はあまり行われておらず、患部に膏薬を貼る程度の治療しかなかった。ところが「神の家」では、麻酔を用いた開腹手術なども行われていた。しかし技術の差以上に凌雲に衝撃を与えたのは、「神の家」に併設された貧民病院であったという。ここでは、貧しい人たちに無料で診察・治療していた。無料の貧民病院とは言え、設備は十分に揃えられ、診察も「神の家」に所属している医師や看護師が一般患者と同様に行っていた。しかもこの病院は、貴族、富豪、政治家などの寄付によって成り立っており、国からの援助を受けない民間病院であった。

このように、凌雲は「神の家」での留学中に、「医師は人間の生命を救う尊い職業である」という精神を徹底的に叩き込まれた。「神の家」では、医師には高尚な人格が求められ、患者には貧富の区別なく常に最良の治療を施すべしとされた。貧民病院はまさにこの精神の実践の場であった。

[編集] 函館戦争

しかし、その留学生活も1年半で幕を閉じることになる。徳川慶喜による大政奉還、そして、鳥羽伏見の戦いの勃発など、日本が混乱状態に陥ったためである。凌雲が江戸湾に到着した時には、すでに幕府は崩壊し、江戸城は薩長勢に明け渡され、主君である慶喜は水戸で謹慎中という状態であった。凌雲はパリに留学させてくれた幕府への恩義に従い、蝦夷地に幕臣の国を作ろうとした榎本武揚らに合流。函館戦争に医師として参加する。

函館に入ると、凌雲は函館病院の院長に就任する。これは榎本の依頼ではあったが、「病院の運営には一切口出ししないこと」という条件を榎本につけたという。ここで凌雲は、戦傷者を敵味方を問わず治療した。当然、最初は敵方の兵士と共に治療されることに対して混乱・反発が生じたが、凌雲はパリ留学で学んだ精神を胸に、毅然とした態度でこれを制したとされる。

ほどなく、函館戦争は旧幕府軍の敗北で終結する。凌雲も榎本らと行動を共にした立場ではあったが、敵味方の差別なく治療に当たり、また高い医学知識を持っていることは新政府にも評価され、特に大きな処罰を受けることはなかった。（ただし、函館戦争の終戦処理においては、黒田清隆が「有為な人材を失うことは国家の損失」と主張して比較的寛大な処罰に止められたから、凌雲が取り立てて贔屓をされたということではない。）

[編集] 函館戦争後

函館戦争後、凌雲は東京に戻って病院を開院した。新政府での役職の誘いが多数来たが、それら全てを断り、町医者として「神の家」の精神を実行する道を選んだ。この病院は成功し、また貧窮の家庭には治療費を無料にしてはいたものの、一方で彼一人で対応できることにも限界があった。凌雲は、他の医師の協力も得て組織的に無料診察を行う必要性を痛感するようになった。

1878年12月、医師会の席上、医師会長であった凌雲は、貧民を無料で診察する組織「同愛会」の設立を提案する。この提案は支持を集め、翌年の1879年、民間救護団体の前身と言われる同愛社が創設された。この同愛社によって診察を受けた貧民は、70万人とも100万人とも言われる。

1916年、81歳で死去。