鬼火
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鬼火(おにび)
- 火山などで、硫黄が燃える時の炎のこと。
- 空中を浮遊する正体不明の青白い火の玉。以下で詳述。
- 横溝正史の小説作品。→鬼火 (横溝正史)を参照。
- 1963年に公開されたフランスの映画(原題:Le Feu Follet)。→鬼火 (映画)を参照。
鬼火(おにび)とは、空中を浮遊する正体不明の火の玉のことである。
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[編集] 概要
人が誰もいないはずの場所で空中に浮かび上がる正体不明の火を指す。伝承上では一般に、人間や動物の死体から生じた霊、もしくは人間の怨念が火となって現れた姿と言われている。
江戸時代に記された『和漢三才図会』によれば、松明の火のような青い光であり、いくつにも散らばったり、いくつかの鬼火が集まったりし、生きている人間に近づいて精気を吸いとるとされる。また同図会の挿絵からは、大きさは直径2、3センチメートルから20、30センチメートルほど、地面から1、2メートル離れた空中に浮遊すると推察されている。
現在では、外見や特徴にはさまざまな説が唱えられている。
- 外観
- 前述の青が一般的とされるが、青白、赤、黄色のものもある。大きさも、ろうそくの炎程度の小さいものから、人間と同じ程度の大きさのもの、さらには数メートルもの大きさのものまである。
- 数
- 1個か2個しか現れないこともあれば、一度に20個から30個も現れ、時には数え切れないほどの鬼火が一晩中、燃えたり消えたりを繰り返すこともある。
- 出没時期
- 春から夏にかけての時期。雨の日に現れることが多い。
- 出没場所
- 水辺などの湿地帯、森や草原や墓場など、自然に囲まれている場所によく現れるが、まれに街中に現れることもある。
- 熱
- 触れても火のような熱さを感じないものもあれば、本物の火のように熱で物を焼いてしまうものもある。
[編集] 鬼火の種類
- 送り火(おくりび)
- 愛知県の鬼火。人の歩く道を親切に照らしてくれる。
- いげぼ、ごったい火
- 三重県での鬼火の呼称。
- 火魂(ひだま)
- 沖縄県の鬼火。普段は台所の裏の火消壷に住んでいるが、鳥のような姿となって空を飛び回り、物に火をつけるとされる。
- 陰火(いんか)
- 亡霊や妖怪が出現するときに共に現れる鬼火。
- あやかしの怪火、不知火、遊火、かぜだま、小右衛門火、じゃんじゃん火、提灯火、天火、渡柄杓
- 各項目を参照。
- 狐火
- 厳密には鬼火とは異なるが、書籍によっては鬼火と同一視されている。
[編集] 考察
雨の日によく現れることから、「火」という名前であっても単なる燃焼による炎とは異なる、別種の発光体であると推察されている。
紀元前の中国では、「人間や動物の血から燐や鬼火が出る」と語られていた。当時の中国でいう「燐」は、ホタルの発光現象や、現在でいうところの摩擦電気も含まれており、後述する元素のリンを指す言葉ではない。
一方の日本では、前述の『和漢三才図会』の解説によれば、戦死した人間や馬、牛の血が地面に染み込み、長い年月の末に精霊へと変化したものとされていた。
『和漢三才図会』から1世紀後の19世紀以降の日本では、新井周吉の著書『不思議弁妄』を始めとして「埋葬された人の遺体の燐が鬼火となる」と語られるようになった。この解釈は1920年代頃まで支持されており、現在の辞書でもそう記述されているものもある。
これは、1696年にリンが発見され、そのリンが人体に含まれているとわかったことと、日本ではリンに「燐」の字があてられたこと、そして前述の中国での鬼火と燐の関係の示唆が混同された結果と推測されている。しかし人体に含まれているのは厳密には単体のリンではなくリン化合物であることや、リンは人体以外にも含まれているにも関らず人体のみから鬼火が生ずることを疑問視する声もあり、信憑性は薄いとされている。
その後も、リン自体ではなくリン化水素のガス体が燃えているという説、死体の分解に伴って発生するメタンが燃えているという説、同様に死体の分解で硫化水素が生じて鬼火の元になるとする説などが唱えられている。現代科学においては放電による一種のプラズマ現象によるものと定義づけられることが多い。しかし、いずれの説も一長一短がある上、鬼火の伝承自体も前述のように様々であることから、鬼火のすべてをひとつの説で結論付けることも困難とする見方もある。
また、人魂と混同されることも多いが、人魂とは異なるとする説が多い一方、鬼火自体の正体も不明であるため、実のところ鬼火と人魂の区別は明確ではないとの説もある。
[編集] 関連項目
- 西洋における正体不明の火にまつわる伝承。「鬼火」と訳されることもある。
[編集] 出典元
[編集] 書籍
- 水木しげる 『水木しげるの妖怪事典』 東京堂出版、1981年、188頁。
- 多田克己 『幻想世界の住人たち IV 日本編』 新紀元社、1990年、231-233頁。
- 神田左京 『不知火・人魂・狐日』 中央公論新社、1992年、37頁-67頁。
- 草野巧 『幻想動物事典』 新紀元社、1997年、69頁、197頁。
- 村上健司 『妖怪事典』 毎日新聞社、2000年、86頁。