横溝正史
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横溝 正史(よこみぞ せいし、1902年5月24日 - 1981年12月28日)は、日本の小説家、推理作家。本名は同字で「よこみぞ まさし」。兵庫県神戸市中央区東川崎町生まれ。金田一耕助を探偵役とする一連の探偵小説で有名である。また薬剤師免許を持っていた。
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[編集] 経歴
1902年(明治35年)5月24日、兵庫県神戸市東川崎に父・宜一郎、母・波摩の三男として生まれる。父の郷里は岡山。
1920年(大正9年)3月神戸二中(現・兵庫県立兵庫高等学校)を卒業、第一銀行神戸支店に勤務。
1921年、雑誌『新青年』の懸賞に応募した「恐ろしき四月馬鹿」が入選作となる。これが処女作とみなされている。
1924年、大阪薬学専門学校(大阪大学薬学部の母体)卒業後、一旦薬剤師として実家の生薬屋「春秋堂」に従事していたが、1926年に江戸川乱歩の招きに応じて上京、博文館に入社する。1927年に『新青年』の編集長に就任、その後も『文芸倶楽部』、『探偵小説』等の編集長を務めながら創作や翻訳活動を継続したが、1932年に同誌が廃刊となったことにより同社を退社して専業作家となる。
1934年(昭和9年)7月、肺結核の悪化により、信州での療養を余儀なくされ、執筆もままならない状態が続く。一日あたり3~4枚というペースで書き進めた渾身の一作『鬼火』も当局の検閲により一部削除を命じられる。また、戦時中は探偵小説の発表自体が制限されたことにより、捕物帖等を中心とした執筆に重点を移さざるを得ないなど、不遇な時代が続いた。作家活動が制限されたため経済的にも困窮し、一時は本人も死を覚悟するほど病状が悪化したが、終戦後、治療薬ストレプトマイシンの急激な値崩れにより快方に向かう。
第二次世界大戦終戦後、推理小説が自由に発表できるようになると本領を発揮し、本格推理小説を続々と発表する。1948年、『本陣殺人事件』により第1回日本探偵作家クラブ賞(後の日本推理作家協会賞)長編賞を受賞。
社会派ミステリーの台頭で一時は忘れられた存在となっていたが1968年、講談社の『週刊少年マガジン』誌上で『八つ墓村』が漫画化・連載(作画:影丸穣也)されたことを契機として注目が集まる。ミステリとホラーを融合させたキワ物的な扱いであったが、映画産業への参入を狙っていた角川春樹はこのインパクトの強さを強調、自ら陣頭指揮をとって角川映画の柱とする。
結果、『犬神家の一族』を皮切りとした石坂浩二主演による映画化、古谷一行主演による毎日放送でのドラマ化により、推理小説ファン以外にも広く知られるようになる。作品のほとんどを文庫化した角川はブームに満足はせず、更なる横溝ワールドの発展を目指す。
六十の坂を越した横溝もその要請に応えて驚異的な仕事量をこなしていたとされるが、社会派の影響を受けた作品などはファンの評価も様々である。ただ、この後期の執筆活動により中絶していた『仮面舞踏会』の完成や、エラリー・クイーンの「村物」に対抗した『悪霊島』、金田一耕助最後の事件『病院坂の首縊りの家』が発表されている。また小林信彦の『横溝正史読本』などのミステリ研究の対象となったのもブームとは無縁ではない。
1981年(昭和56年)12月28日、結腸ガンのため死去。
横溝は大の電車嫌いであった。電車に乗る際は必ず酒の入った水筒を首からかけ、それを飲みながら電車を乗り継いだ。時には妻とともに乗ることもあり、その際には妻は横溝の手をずっと握っていた。 これは確言できないが、今日パニック障害とされる疾病の症状の1つに酷似している。
ちなみに横溝は、執筆に行き詰まった際には編物をして気分転換をしていた。また、プロ野球チーム近鉄バファローズの大ファンであった。
息子の横溝亮一は音楽評論家。
[編集] 解説
金田一耕助が登場する作品は、長短編併せて77作(中絶作品・ジュブナイル作品等を除く)が確認されている。探偵・金田一耕助は主に東京周辺を舞台とする事件と、作者の疎開先であった岡山など地方を舞台にした事件で活躍した。前者には戦後都会の退廃や倒錯的な性、後者には田舎の因習や血縁の因縁を軸としたものが多い。一般的には後者の作品群の方が評価が高いようである。骨格としてはすべて論理とトリックを重んじた本格推理で、一部作品で装飾的に用いられるケースを除いて超常現象やオカルティズムは排されている。
一旦発表した作品を改稿して発表するケースも多かった。通常このような原型作品は忘れられるものであるが、『金田一耕助』シリーズについてはそれらの発掘・刊行も進んでおり、人気の高さが窺える。創作した探偵役は他に、由利麟太郎と三津木俊助。捕物帖には人形佐七、お役者文七を主役とするシリーズがある。
金田一もの以外で重要なのは、戦前に発表された「鬼火」「蔵の中」「かいやぐら物語」などの耽美的中短編、坂口安吾に世界的レベルの傑作と激賞された終戦直後の純謎解き長編「蝶々殺人事件」(探偵役は由利麟太郎)など。また、昭和初期に書かれた、しゃれた中に一抹の哀愁を湛えた都会派コントの数々は、『新青年』編集長として昭和モダニズムの旗手であったこの人の一面をよく伝えている。
1980年から角川書店の主催による長編推理小説新人賞、横溝正史ミステリ大賞が開始されている。
[編集] 主要作品リスト
- 『蔵の中』
- 『真珠郎』
- 『鬼火』
- 『蝶々殺人事件』
- 『本陣殺人事件』
- 『獄門島』(1947.01~1948.10)
- 『蝙蝠と蛞蝓』
- 『黒猫亭事件』(1947.12)
- 『殺人鬼』
- 『黒蘭姫』
- 『夜歩く』
- 『八つ墓村』(1949.03~1951.01)
- 『死仮面』
- 『犬神家の一族』(1950.01~1951.05)
- 『女怪』
- 『百日紅の下にて』
- 『女王蜂』(1951.06~1952.05)
- 『鴉』
- 『悪魔が来りて笛を吹く』(1951.11~1953.11)
- 『幽霊座』
- 『湖泥』
- 『不死蝶』
- 『生ける死仮面』
- 『迷路の花嫁』
- 『幽霊男』
- 『花園の悪魔』
- 『堕ちたる天女』
- 『蜃気楼島の情熱』
- 『睡れる花嫁』
- 『三つ首塔』
- 『吸血蛾』
- 『車井戸はなぜ軋る』
- 『首』
- 『廃園の鬼』
- 『毒の矢』
- 『蝋美人』
- 『黒い翼』
- 『死神の矢』
- 『魔女の暦』
- 『暗闇の中の猫』
- 『夢の中の女』
- 『七つの仮面』
- 『迷路荘の惨劇』
- 『華やかな野獣』
- 『トランプ台上の首』
- 『霧の中の女』
- 『女の決闘』
- 『泥の中の女』
- 『鞄の中の女』
- 『鏡の中の女』
- 『傘の中の女』
- 『檻の中の女』
- 『鏡が浦の殺人』
- 『貸しボート十三号』
- 『悪魔の手毬唄』(1957.08~1959.01)
- 『壺中美人』
- 『支那扇の女』
- 『扉の影の女』
- 『悪魔の降誕祭』
- 『洞の中の女』
- 『柩の中の女』
- 『火の十字架』
- 『赤の中の女』
- 『瞳の中の女』
- 『スペードの女王』
- 『薔薇の別荘』
- 『悪魔の寵児』
- 『香水心中』
- 『霧の山荘』
- 『人面瘡』
- 『雌蛭』
- 『白と黒』
- 『悪魔の百唇譜』
- 『日時計の中の女』
- 『猟奇の始末書』
- 『夜の黒豹』
- 『猫館』
- 『蝙蝠男』
- 『仮面舞踏会』
- 『悪霊島』
- 『病院坂の首縊りの家』
- 『女の墓を洗え』(仮題、構想のみ)
- 『千社札殺人事件』(仮題、構想のみ)
[編集] ジュヴナイル作品
- 『大迷宮』
- 『仮面城』
- 『黄金の指紋』
- 『金色の魔術師』
- 『燈台島の怪』
- 『黄金の花びら』
- 『迷宮の扉』