オープンソース
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オープンソースとは、ソフトウェアの著作者の権利を守りながらソースコードを公開することを可能にするライセンス(ソフトウェアの使用許諾条件)を指し示す概念である。
History of the OSIによれば、1998年2月3日に、カルフォルニアのパルアルトにおいて、Netscapeブラウザのソースコードをどのような形で公開していくかという戦略会議の中でつけられた新たな用語であると説明されている。またオープンソースに関する本 "Open Sources: Voices from the Open Source Revolution" にも、マーケット向けのプロモーション用語として使う新しい言葉“オープンソース”を作り出したとある。
[編集] 定義
Open Source Initiative (OSI) による定義である "The Open Source Definition(OSD)" によればオープンソース・ライセンスの要件として、以下のような基準を挙げている。
- 自由な再頒布ができること
- ソースコードを入手できること
- 派生物が存在でき、派生物に同じライセンスを適用できること
- 差分情報の配布を認める場合には、同一性の保持を要求してもかまわない
- 個人やグループを差別しないこと
- 適用領域に基づいた差別をしないこと
- 再配布において追加ライセンスを必要としないこと
- 特定製品に依存しないこと
- 同じ媒体で配布される他のソフトウェアを制限しないこと
- 技術的な中立を保っていること
詳細はオープンソースの定義を参照
しかしながら、日本においては「オープン」「ソース」という語感から受ける印象が一人歩きしたためか、ソースコードが無償で公開されていることを基本とした様々な定義(のライセンス)に「オープンソース」という表現が使われている、またはそのように判断されている場合が多い。
[編集] フリーソフトウェアとの関連
オープンソースの原型となった概念としてフリーソフトウェア(自由なソフトウェア)を無視することはできない。
- ソフトウェアライセンスとしてはオープンソースなソフトウェアはフリーソフトウェアの一部のようにも見える。事実、フリーソフトウェアライセンスの代表格である GPL は OSD を満たしている。
- OSI は、オープンソースとは社会をフリーソフトウェアに向かって導くためのやり方だと説明している。
- しかし、フリーソフトウェア財団は、オープンソースは「自由」の思想を含んでいないという点でフリーソフトウェアとは決定的に異なるとしている。
創始者の 1 人である、エリック・レイモンドによれば、オープンソースはフリーソフトウェアに付きまとっていた否定的な印象を払拭するための、「製品の再ブランド化を図る」[1]ためのものであった。
ソフトウェアがフリー(自由)であるということは、ソフトウェアを自由に改良していくことを望むハッカーや、そうして改良されたものを利用する消費者の利益となるのみではない。ソフトウェア関連産業の企業にとっても有用な戦略になりうるものとされている。Red Hat の成功や IBM のオープンソースへの投資はその象徴としてしばしば言及される。
しかしながら、1997 年当時、フリーソフトウェアというものに対する経営者や投資家の印象は必ずしも良いものではなかった。1 つには、「フリーソフトウェア」という言葉が「無償のソフトウェア」という意味と紛らわしく、ビジネスには無償という考え方は馴染まないということがあった。もう1つには、フリーソフトウェア運動を進める中心的な存在であるフリーソフトウェア財団 (FSF) がフリーでない(プロプライエタリな)ソフトウェアに対して攻撃的であったことや、その「コンピュータのユーザは、何の制約も受けずにソフトウェアを他人と共有できるべきなのである」[2]という主張が共産主義的だと見なされたことがある。
レイモンドによれば、フリーソフトウェアに対するこのような見方は的はずれなものではあった。しかし、その是非は別として現実的に、フリーソフトウェアというアイディアを広めるためには FSF の努力は逆効果となっていたという。そこで、過去の印象から切り離して企業にも広く浸透するようなイメージ改善を図るために、新たにオープンソースという言葉が生み出された。そこでは敢えて自由という点を強調はせず、むしろ「ソースコードを公開するとどういうメリットがあるか」が関心の中心である。
この方針は一定の成功を収めオープンソースという概念の浸透をもたらしたが、自由を強調しないという点はフリーソフトウェア運動の支持者からの攻撃の的となりがちである。また、オープンソース創始者の 1 人ブルース・ペレンスは1999年2月17日、オープンソースが既に成功を収めたこと、そしてオープンソースがフリーソフトウェアから離れすぎていることを挙げて「今こそフリーソフトウェアについて再び語るべきときだ」と述べた。[3]
[編集] 様々なライセンス
各々のライセンスの詳細については個別の記事やオリジナルの契約書を参照のこと。
以下の各ライセンスは、一定の条件の下でソフトウェアの使用、複製、改変、(複製物または改変物の)再頒布を認めている。次の 2 つの条件はほぼ共通している。
- 無保証であること
- オープンソースの性質上、ソフトウェアやその派生物は元の著作者でも制御しきれない形で流通し、元の著作者がそこから直接に利益を得ることは難しい。そのため、ソフトウェアは「有用であるとは思うが無保証である」と謳っており、ソフトウェアが何らかの損害をもたらしたとしてもそれを保証しないものと定めている。
- 著作権表示を保持すること
- オープンソースは一定の条件内で自由な利用を認めるものであって、著作権を放棄するものではない。むしろ、「一定の条件」を守らせるための法的根拠は原著作者の著作権に求められる。そのため、多くのライセンスは適切な形でソースコードや付属文書に含まれる著作権表示を保持し、つまり派生物を作った者が自分で0から作ったように偽らないことを定めている。
- ソースコードを伴わないバイナリ形式のみでの配布を認めているライセンスでは、その際にも付属文書に著作権表示を記載するように定めているものもある。
次の条件は、採用しているライセンスとそうでないライセンスがある。
- 同一ライセンスの適用
- 複製や改変物を頒布する際には、必ず元と同じライセンスでの利用を認めるように定めているものがある。GPL が代表的である。例えば、GPL のソースコードを BSD ライセンスのソースコードと組み合わせて新しいソースコードを作った場合、GPL の規定によりこのソースコードを頒布する際には GPL での利用を認めなければならない。
- このため、GPL のソースコードを利用して、ソースコードを独占する(プロプライエタリな)ソフトウェアを作成することは難しい。
- この性質を俗に(主に批判的な立場から)ライセンスの「感染性」と呼ぶこともある
- 原著作者の特別な権利
- この種の条件は、現在ソースコードを独占的に所有している企業がそれをオープンソース化するに当たって考慮する余地のあるものである。例えば Mozilla のためのライセンスとして作成された MPL では、派生物を頒布する際にはソースコードを公開しなくてはならないが、元々の Mozilla の著作権を有していた Netscape Communications だけは特別で派生物のソースコードを公開しなくても良い権利を持っている。
[編集] X11 のライセンス
俗に MIT ライセンスと呼ばれることもあるが、MIT は過去にこれ以外のライセンスでもソフトウェアを公開しているので厳密な表現ではない。利用条件は、
- 無保証
- 著作権表示の保持
[編集] BSDライセンス
次の条件のもと、複製・改変・再頒布を認めている。
- 無保証
- 著作権表示の保持
- 派生物の広告には、オリジナルの著作者が紹介されていること
最後の宣伝条項と呼ばれる条項は、多数のソフトウェアを収録したパッケージ製品の場合、広告本体よりも多くの紹介文を必要とする事態を招きかねないという欠点があった。
[編集] 修正版BSDライセンス
オリジナルの BSD ライセンスから広告条項を削除したもの。
[編集] GNU General Public License (GPL)
次の条件のもと、複製・改変・再頒布を認めている。
- 無保証
- 著作権表示の保持
- 同一ライセンスの適用
[編集] GNU Lesser General Public License (LGPL)
LGPL は GPL と同じく同一ライセンスの適用を要求しているが、その条件がいくらか緩やかである。LGPL では、元のソースコードそれ自体を変更した改変版には LGPL または GPL を適用しなければならない。しかし、元のソースコードを改変することなく他のソースコードとリンクした場合には、他のソースコードには LGPL を適用しなくても良い。
これは、LGPL が当初 glibc のためのライセンスとして作成されたことに関係がある。C 言語ライブラリのように他のソフトウェアを作るための基盤として広く利用されるソフトウェアの場合、GPL はリンクされるすべてのソースコードが GPL であることを要求するので、ライブラリとしての価値を低くしてしまう。つまり、ライブラリが GPL であると、そのライブラリは GPL のソフトウェアを作るためにしか使えないものとなってしまう。
この問題を解決するため、LGPL のソフトウェアを一緒にリンクするだけであれば LGPL を適用しなくてもよいものと定めている。
[編集] Apache Software License 1.0
http://apache.org/licenses/LICENSE-1.0
Apache HTTP Server 1.2 などのライセンス。いわゆる「広告条項」が存在する。
[編集] Apache Software License 1.1
http://apache.org/licenses/LICENSE-1.1
Apache Software License 1.0 からいわゆる「広告条項」を削除したライセンス。頒布の際にドキュメントに記載するようになった。
[編集] Apache License, Version 2.0
http://apache.org/licenses/LICENSE-2.0
2004年3月1日以降に Apache プロジェクトからリリースされたソフトウェアのライセンス。 Apache Software Foundation により2004年1月21日に承認された。
http://www.mail-archive.com/announce@apache.org/msg00110.html
[編集] NPL
[編集] Mozilla Public License (MPL)
[編集] Common Public License (CPL)
[編集] GNU Free Documentation License (GFDL)
- 無保証
- 著作権表示の保持
GPL がコンピュータプログラムの配布に主眼を置いて設計されているのに対し、GFDL は文書の配布に主眼を置いて書き直した「文書用 GPL」と言える。
[編集] 主な成功例
[編集] 関連項目
- 著作権
- Debianフリーソフトウェアガイドライン (DFSG) -- OSD の原型となった
- BSDライセンス
- GNU General Public License
- GNU Free Documentation License
- Mozilla Public License
- フリーソフトウェア
- コピーレフト
- オープンコンテント
- オープンソース・インテリジェンス
- OpenDocument
[編集] 外部リンク
- OSI:Open Source Initiative (英語)
- Open Source Group Japan (日本語)
- The Open Source Definition (英語)
- オープンソースの定義 (日本語訳)
- OSI によって認定されたオープンソースライセンスの一覧 (英語)
- 科学技術政策研究所
- みんなの考えたオープンソース(上記の様々な定義が収集されつつあるWikiを使用したサイト)
[編集] 書籍
- Open Sources: Voices from the Open Source Revolution, ISBN 1-56592-582-3
- 「オープンソースソフトウェア 彼らはいかにしてビジネススタンダードになったのか」, ISBN 4-900900-95-8 (Open Sourcesの日本語版)