クール・ビズ
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クール・ビズ(COOL BIZ、造語)は、小泉政権下で2005年以降の夏に環境省が中心となって行なわれた環境対策などを目的とした衣服の軽装化キャンペーン、ないしはその方向にそった軽装をいう。環境省が想定する実施期間は6月1日から9月30日まで、とされている。
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[編集] 語源
「涼しい」や「格好いい」という意味のクール(cool)と、仕事や職業の意味を表す「ビジネス(Business)」の短縮形ビズ(BIZ)をあわせた造語である。2005年4月に行われた環境省の公募によって選ばれた。
[編集] 概要
小池百合子が環境大臣になった際、当時の小泉総理大臣に相談したところ「夏場の軽装による冷房の節約」をキャッチフレーズにしたらどうかとアドバイスされた。 それ以降、環境省が音頭をとり、ネクタイや上着をなるべく着用せず(いわゆる「ノーネクタイ・ノージャケット」キャンペーン)、夏季に28度の冷房に対応できる軽装の服装を着用するように呼びかけている。与党もこれを推進しており、小泉首相をはじめとする閣僚や議員のノーネクタイ姿がテレビによく映るようになった。また、東京都霞が関の中央官庁では、夏季に上着やネクタイをしている職員はほぼ見かけなくなった。
推奨されている衣類は、新たに購入しなければならないような特別な衣類や、ノーネクタイ・ノージャケットなど具体的な衣装を定義し指すものではなく、事務所衛生基準規則を出所とした室温上限の摂氏28度という温度設定の中でも涼しく効率的に働くことが出来るような軽装全般を指していて、それが満たされる衣服であればよいとされている。そのため、自治体によってはアロハシャツや、その土地特有の服装を採用している役所も存在し、市や町のイメージ向上や宣伝に活用されている場合もある。しかし、衣料メーカーや百貨店は、かつての「カジュアル・フライデー」につづく紳士服の商機ととらえ、開襟シャツなど、ネクタイを装着していなくともだらしなく見えないデザインのシャツや、沖縄で夏のシャツとして普及しつつあるかりゆしウエアの販売を展開している。第一生命経済研究所が試算したところによると、クール・ビズの実施によって衣類の買い換えが日本経済に与える経済効果は1,000億円以上と試算されている。
あるアンケートでは認知度が9割以上と高いものの、クール・ビズ自体に関しては賛否両論の声が上がっている。政治家の亀井静香が「だらしない、政治家として相応しくない格好」と酷評したり、売り上げの減少に繋がるためネクタイ業界から批判の声が上がっている。一方、メーカー以外のファッション業界からも疑問の声が上がっていて、ピーコも自身のエッセイで酷評している。また、特に営業職は顧客と接する職種であるため、社外からの理解が無ければ軽装にて顧客と接することは困難であるが、一般論として男性社員が上着・ネクタイを着用しないことへの非難は根強い。第44回衆議院議員総選挙の際の選挙活動でもクール・ビズを取り入れた服装の候補者がいるほか、有権者に対して礼儀良く接したいなどの理由から、ネクタイ姿の候補者がいる。
かつて、第二次オイルショック後の1979年に大平内閣で提唱され、元首相・羽田孜が夏期によく着用している半袖の背広である「省エネスーツ」は、ほとんど普及しなかったが、新・省エネルックともいわれる今回の提案はどれほど定着してゆくのか注目されている。
[編集] 効果の検証
[編集] 環境保全効果
環境省が平成17年9月30日に実施した、アンケート調査の結果[1]では、「COOL BIZ」の認知度は95.8%、「勤務先が例年より冷房温度を高く設定している」と回答した就業者の割合が32.7%であった。この割合をもとに二酸化炭素削減量を推計すると、約46万トン-CO2(約100万世帯の1ヶ月分のCO2排出量に相当)とされる。
また、平成18年9月27日~9月30日に実施したアンケート調査の結果[2]では、「COOL BIZ」の認知度は96.1%、「昨年又は今年から冷房の設定温度を高く設定している企業」は43.2%であった。この割合をもとに推計した二酸化炭素削減量は約114万トン-CO2(約250万世帯の1ヶ月分のCO2排出量に相当)とされる。
[編集] 経済波及効果
経済産業省が実施した産業連関表による分析[3]によると、平成17年の5~7月における消費支出において「被服及び履物」が減少し、「クールビズ関連品目」がわずかに増加している。クールビズ関連品目のうち、ネクタイ、背広服が前年比マイナスとなっている一方、開襟シャツなどが含まれる「他の男子用シャツ」がプラスとなっている。 これにより、1世帯あたりの消費支出が919円、「被服及び履物」の消費支出が約1.9%押し上げられたと試算されている。この場合の国内生産への波及効果は、全体で約180億円となっている。
[編集] 費用対効果
クール・ビズを含む環境省の地球温暖化防止大規模「国民運動」推進事業では、テレビ・新聞・雑誌・ラジオに加えて街頭ポスターや電車内広告、webサイトや携帯電話サイトといったメディアでの大々的な温暖化防止集中キャンペーンを行うために30億円の予算が計上されている。
[編集] 効果への疑問の声
クールビズによる二酸化炭素削減量が数十万トンとする[要出典]という推計がある一方、専門家からはその効果に疑問を持つ声も少なくない。
[編集] 日本社会との関係
地球温暖化防止という目的のためとはいえ、ファッションという極めて私的な領域に対して、国家が国民運動という形である種の押しつけをして統一化するというのは、先進的な自由民主主義国家においては特異な現象であるとしてかかる取り組みを批判する見解がある。また、逆に言えば、それぞれの会社や団体において、柔軟に温度調節をしたり服装を変えたりする自由がほとんど無いことが、このような大規模国民運動という帰結を生み出しているともいえる。また男性ビジネスマンが酷暑の時期においても清涼な服装を選択できない社会習慣も根底には存在するだろう。
[編集] 日本国外での反響
中国では、当時の日本の首相である小泉純一郎がラフな服装で登場した日本式の軽装が注目されており、「清涼商務(チンリヤンシャンウー、qīngliáng shāngwū)」という当て字が使われている。これはあくまでも日本の「クール・ビズ」を指しているが、中国では新語として定着するまでになっていない。 韓国の環境部は2006年6月にクール・ビズ・キャンペーンを開始すると発表した。趣旨は日本のものと同様である。
また、2006年7月にはイギリスのナショナルセンターである労働組合会議(TUC)が、猛暑続きの夏季にはクールビズに倣い、公務員や民間企業における服装の簡素化を提唱している。ただ、イギリスでも議会や、企業でも重要な顧客との会議などの席では、未だに厳格な服装着用を求める声が根強く、定着にはまだまだ程遠いのが現状である。
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- クール・ビズのニュースリリース(大韓民国環境部、英語)