ゴールドバッハの予想
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数学において、ゴールドバッハの予想は、加法的整数論の未解決問題の一つ。 ウェアリングの問題などと共に古くから知られている。
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[編集] 概要
予想にはほとんど同値ないくつかの述べ方があるが、特に二素数の場合には次のように述べることが多い:
このとき、同じ素数を2度使っても良いものとする。例えば20までの偶数は、
- 6 = 3+3, 8 = 3+5, 10 = 3+7 = 5+5,
- 12 = 5+7, 14 = 3+11 = 7+7, 16 = 3+13 = 5+11,
- 18 = 5+13 = 7+11, 20 = 3+17 = 7+13
のように、二つの奇素数の和に表せている。この予想は、2006年6月現在、4×1017 までの全ての偶数について成り立つことがコンピュータによって確かめられている。
この予想は、ルネ・デカルトによって既に知られていた。ゴールドバッハの名を冠する由来は、上と同値な次のような予想を、クリスティアン・ゴールドバッハ(Christian Goldbach, 1690年 - 1764年)がレオンハルト・オイラーへの書簡(1742年)で述べたことによる。
- 5より大きな任意の自然数は、三つの素数の和で表せる。
これから上が導けるのは、偶数を三つの素数の和で表すと素数の一つは 2 になっているからである。
多くの数学者は素数分布の確率に関する統計学的な観察から、この予想は正しいと考えている(偶数が大きければ大きいほど、二つの素数の和で表されるというのはより"ありそうな"ことなのである)。
[編集] 現在までの主な進歩
- ノルウェーの数学者ヴィッゴ・ブルンは1920年頃(いくつかの論文に分かれているため曖昧)、エラトステネスの篩を発展させた新しい篩法(sieve method)を用いて、十分大きなすべての偶数は、高々9つの素数の積であるような数の二つの和であることを証明した。
- ハーディとリトルウッドは1923年に、L関数に対する一般化されたリーマン予想(の若干弱い形を)を仮定して、全ての奇数 n ≧ n0 が3個の素数の和となるような下限 n0 が存在することを証明し、またその表現の個数の漸近公式を得た。また同様の仮定のもとにほとんどすべての偶数が二つの奇素数で表されること、すなわち例外的な数全体は零集合であることを証明。しかし偶数を二つの奇素数で表す仕方の数の漸近公式については予想するにとどまった。
- 1930年にソビエトの数学者シュニレルマンは、2個の素数の和で表される数と0, 1からなる集合は正のシュニレルマン密度を持つことをブルンの篩を用いて初等的に示し、シュニレルマンの定理から、すべての自然数が高々 k 個の素数の和であるような、k が存在することを示した。
- 1937年にソビエトの数学者ヴィノグラードフは三素数の問題に関して、三角和の方法を用いてなんらの仮定なしに、上記のような定数 n0 (現在、具体的にわかっている)の存在を証明した。
- 1938年頃、イギリスのエスターマン、ソビエトの数学者チュダコフ、オランダの数学者ヴァン・デア・コルプトらは、それぞれ独立に、なんらの仮定もせずにほとんどすべての偶数は二つの奇素数の和であることを証明した。
- 1947年、ハンガリーの数学者アルフレード・レーニは大きな篩い(large sieve)という新しい方法を用いて、すべての自然数を、素数と高々 k 個の素数の積である数との和で表すことのできるような、k が存在することを証明した。
- 中国の数学者陳景潤(Jing-Run Chen)は1978年までに、十分大きなすべての偶数は、素数と高々二つの素数の積であるような数との和で表されることを証明した。このときの下界は具体的にわかっていない。
- 1995年、仏数学者オリヴィエ・ラマレはすべての偶数が高々6個の素数の和として表せることを証明した。
- 2002年、Heath-BrownとPuchtaは十分大きなすべての偶数は2個の素数と13個の2の冪乗の和で表され、一般化されたリーマン予想が正しいならば、十分大きなすべての偶数は2個の素数と7個の2の冪乗の和で表されることを示した。
[編集] 関連記事
- 双子素数の予想
- 初等整数論
- ゲーデルの不完全性定理
- 数学上の未解決問題
[編集] 参考文献
Ramaré, O. "On Snirel'man's Constant." Ann. Scuola Norm. Sup. Pisa Cl. Sci. 22(1995), 645--706.
L. G. Schnirelmann, Über additive Eigenschaften von Zahlen, Math. Ann. 107 (1932/33), 649–-690.
D. R. Heath-Brown and J. -C. Puchta, Integers represented as a Sum of Primes and Powers of Two, Asian J. Math. 6(2002), 535--566.