統計学
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統計学(とうけいがく)とは、統計に関する研究を行う学問である。
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[編集] 概要
統計学は、経験的に得られたバラツキのあるデータから、応用数学の手法を用いて数値上の性質や規則性あるいは不規則性を見いだす。統計的手法は、実験計画、データの要約や解釈を行う上での根拠を提供する学問であり、幅広い分野で応用されている。
英語で統計または統計学を statistics と言うが、語源はラテン語で「状態」を意味するstatisticum であり、この言葉がイタリア語で「国家」を意味するようになり、国家の人力、財力等といった国勢データを比較検討する学問を意味するようになった。現在では、経済学、自然科学、社会科学、医学(疫学、EBM)、薬学、言語学など広い分野で必須の学問となっていることは論をまたない。また統計学は哲学の一分科である科学哲学においても重要なひとつのトピックスになっている。これは統計学が科学的な研究において方法論上の基礎的な部分を構成していながら、確率という一種捉えがたい概念を扱っているためであり、その意味やあり方が帰納の正当性の問題などと絡めて真剣に議論される。
[編集] 統計的手法
- 実験計画
- データ収集の規模や対象、割付方法をコントロールし、より公正で評価可能なデータが収集できるよう検討すること。統計の世界には Garbage in, garbage out という格言がある。これは「ゴミのようなデータを使っていくら解析しても出てくる結果はゴミばかりだ」という意味であり、データ収集の前にその方法を十分に検討する必要があることを強調したものである。
- 記述統計
- 記述統計とは、収集したデータの要約統計量(平均、分散など)を計算して分布を明らかにする事により、データの示す傾向や性質を知ること。
- 推計統計
- データからその元となっている諸性質を確率論的に推測する分野。推計統計学の項に詳述。
- 尺度水準
- データ(あるいは変数、測定)の尺度はふつう次のような種類(水準)に分類される。尺度水準によって、統計に用いるべき要約統計量や統計検定法が異なる。
[編集] 統計学の用語
[編集] 歴史
統計学の源流は国家または社会全体における人口あるいは経済に関する調査(東西を問わず古代から行われている)にある。
学問としては、17世紀にはイギリスでウィリアム・ペティの『政治算術』などが著述され、その後の社会統計学につながる流れが始まった。またゴットフリート・ライプニッツやエドモンド・ハレーによる死亡統計の研究も行われた。これらの影響のもと18世紀にはドイツのジュースミルヒが『神の秩序』(1741年)で人口動態にみられる規則性を明らかにしたが、これには文字通り「神の秩序」を数学的に記述する意図があった。
ドイツでは17世紀からヨーロッパ各国の国状の比較研究が盛んになったが、1749年にアッヘンヴァルがこれにドイツ語でStatistik(「国家学」の意味)の名をつけている。19世紀初頭になるとこれに関して政治算術的なデータの収集と分析が重視されて、Statistikの語は特に「統計学」の意味に用いられ、さらにイギリスやフランスなどでも用いられるようになった。この頃アメリカ、イギリス、フランスなどで国勢調査も行われるようになる。
一方ブレーズ・パスカル、ピエール・ド・フェルマーに始まった確率論の研究がフランスを中心にして進み、19世紀初頭にはピエール=シモン・ラプラスによって一応の完成を見ていた。またレオンハルト・オイラーによる誤差や正規分布についての研究も統計学発展の基礎となった。ラプラスも確率論の社会的な応用を考えたが、この考えを本格的に広めたのが「近代統計学の父」と呼ばれるアドルフ・ケトレーであった。彼は『人間について』(1835年)、『社会物理学』(1869年)などを著し、自由意志によってばらばらに動くように見える人間の行動も社会全体で平均すれば法則に従っている(「平均人」を中心に正規分布に従う)と考えた。ケトレーの仕事を契機として、19世紀半ば以降、社会統計学がドイツを中心に、特に経済学と密接な関係を持って発展する。代表的な人物にはアドルフ・ワグナー、エルンスト・エンゲル(エンゲル係数で有名)、ゲオルク・フォン・マイヤーがいる。またフローレンス・ナイチンゲールも、社会医学に統計学を応用した最初期の人物として知られる。
同じく19世紀半ばにチャールズ・ダーウィンの進化論が発表され、彼の従弟に当たるフランシス・ゴルトンは数量的側面から進化の研究に着手した。これは当時Biometrics*(生物測定学)と呼ばれ、多数の生物(ヒトも含めて)を対象として扱う統計学的側面を含んでいる。ゴルトンは回帰の発見で有名であるが、当初生物学的と思われたこの現象は一般の統計学的対象の解析でも重要であることが明らかとなる。ゴルトンの後継者となった数学者カール・ピアソンはこのような生物統計学をさらに数学的に発展させ(数理統計学)、19世紀終わりから20世紀にかけ記述統計学を大成する。
(*注:現在の言い方では生物統計学Biostatisticsに当たり、この単語は現在では生体認証という別の意味で使われている)
20世紀に入ると、ウィリアム・ゴセット、続いてロナルド・フィッシャーが農学の実験計画法研究をきっかけとして数々の統計学的仮説検定法を編み出し、記述統計学から推計統計学の時代に移る。ここでは母集団から抽出された標本を基に、確率論を利用して逆に母集団を推定するという考え方がとられる。続いてイェジ・ネイマン、エゴン・ピアソンらによって現代の推計統計学の理論体系が構築され、これは社会科学、医学、工学などの様々な分野へ応用されることとなった。
推計統計学は精緻な数学理論となったが、その反面、応用には必ずしも適していないとの批判がある。これに対抗しうるものとして主観確率を認めるベイズ統計学が1950年代に提唱され、現代ではこれも種々の場面に応用されている。またこのほかにも、応用に重点を置いた様々な統計学的方法が発展している(オペレーションズ・リサーチと重複する部分も多い)。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 統計学(Statistics)
- 統計学の系譜
- 日本統計学会
- 日本行動計量学会
- 応用統計学会
- 日本計算機統計学会
- Excel NAG 統計解析 Excelの関数を追加する統計ツール