スティーヴン・ジェイ・グールド
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スティーヴン・ジェイ・グールド(Stephen Jay Gould、1941年9月10日 - 2002年5月20日)はアメリカ合衆国の古生物学者、進化生物学者、科学史家。1973年にハーバード大学の比較動物学教授となり、1982年からハーバード大学アリグザンダー・アガシ記念教授職を務めていた。ダーウィン主義をベースにした進化論の論客であり、膨大な読書量からくる博学の科学エッセイストとして活躍していた。
日本では、NHKの番組「生命」で取り上げられていた”アノマロカリス”などのカンブリア紀の生物を紹介したベストセラー『ワンダフル・ライフ - バージェス頁岩と生物進化の物語』(早川書房)の作者として知られている。
グールドは、複雑なものを複雑なまま説明する天才だった。単純なものに置き換えて説明する還元主義を嫌い、進化の単位は遺伝子だけ、あるいは動物の形態や行動にはすべて適応的な意味があるといった主張とは激しく対立していった。
また、進化論を否定するアメリカの宗教的原理主義である「創造論」に対して一貫して反論しており、さらには、欧米一般にある優生思想と人種主義を批判し、いかに科学的に差別が行われたかを『人間の測りまちがい』(河出書房新社)で著している。『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンスとは進化学上の論敵関係であったが、反創造論では共闘関係にあった。
1982年にがんの一種である腹膜中皮腫(mesothelioma)と診断されたが、回復後に雑誌で発表したエッセイで「余命八ヶ月」を彼らしいアプローチで説明した。これは多くのがん患者に読んでもらいたい珠玉の一編として知られている。(著作物『がんばれカミナリ竜』32章「メジアンはメッセージではない」を参照)。彼はこの後20年間生きながらえたが、2002年3月に肺ガンを発症し、同年5月に没した。
ベースボールの熱狂的なファンであり、しばしば野球をテーマにしたエッセイを書いている。
[編集] 経歴
1941年、ニューヨーク市に生まれる。アンティオック・カレッジを卒業後、コロンビア大学大学院へ進む。1967年、博士号取得。26歳でハーバード大学助教授に就任。1973年、同大学教授(専門は比較動物学)。1982年、ハーバード大学アリグザンダー・アガシ記念教授職、博物館古無脊椎動物学キュレーター。
リチャード・ドーキンスなどの正統ダーウィニズムに対する、修正ダーウィニズムを唱える学派の最大の論客であり、1972年にナイルズ・エルドリッジとともに提唱した「断続平衡説」(区切り平衡説)は、古生物学からの進化学への提議として有名である。
アメリカの科学雑誌『ナチュラル・ヒストリー』誌にエッセイを毎月かかさず書いていて、そのエッセイをまとめたものもベストセラーとなっている。
[編集] 著作物
- 『ワンダフル・ライフ』(ハヤカワ文庫NF236) ISBN 4150502366
- 代表作。20世紀初頭にロッキー山脈中で発見された5億年前の化石動物群についての古生物学研究を、一般向けに分かりやすく、魅力的に書いており、日米でベストセラーとなった。
- 『 人間の測りまちがい』(河出書房新社) ISBN 4309251072
- 脳の容量も知能指数も、人間の知能を測る尺度とはなり得ないことを示した名著。
- 『個体発生と系統発生』(工作舎)
- 大進化の問題を扱った科学書の大作。もうひとつの代表作。
- 『ダーウィン以来』(ハヤカワ文庫NF196) ISBN 4150501963
- 「ナチュラル・ヒストリー」誌に投稿されたエッセイシリーズ第1弾。
- 『パンダの親指』(ハヤカワ文庫NF206) ISBN 4150502064
- エッセイシリーズ第2弾。表題作「パンダの親指」は科学エッセイの傑作として全米図書賞を受賞している。
- 『ニワトリの歯』(上・下)(ハヤカワ文庫NF219 NF220) ISBN 4150502196 ISBN 415050220X
- エッセイシリーズ第3弾。原題は "HEN'S TEETH AND HORSE'S TOES" (ニワトリの歯とウマの足)。
- 『がんばれカミナリ竜』(早川書房)
- エッセイシリーズ第5弾。癌に向き合ったエッセイ「メジアンはメッセージではない」を収録。
[編集] 関連項目
カテゴリ: アメリカ合衆国の生物学者 | 古生物学者 | 1941年生 | 2002年没