トゥモロー・ワールド
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トゥモロー・ワールド Children of Men |
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監督 | アルフォンソ・キュアロン |
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製作 | マーク・エイブラハム エリック・ニューマン他 |
脚本 | アルフォンソ・キュアロン |
出演者 | クライヴ・オーウェン ジュリアン・ムーア マイケル・ケイン |
音楽 | ジョン・タヴナー |
撮影 | エマニュエル・ルベツキ |
編集 | アルフォンソ・キュアロン アレックス・ロドリゲス |
配給 | ユニバーサル映画 (アメリカ他) 東宝東和 (日本) |
公開 | 2006年9月22日 (イギリス他) 2006年11月18日 (日本) 2006年12月25日 (アメリカ) |
上映時間 | 114分 |
製作国 | イギリス/アメリカ |
言語 | 英語/スペイン語 |
制作費 | $70,000,000 |
興行収入 | $35,136,703 ![]() |
allcinema | |
IMDb | |
目次 |
[編集] 概要
『トゥモロー・ワールド(邦題)』(Children of Men:人類の子供たち(原題))は、2006年のイギリス・アメリカ映画。子供が生まれなくなった西暦2027年の英国を舞台に、シリアスでショッキングなサイエンスフィクションとして、紛争・少子化・宗教対立・テロ・人種問題などを一人の男の視点から描く。
第63回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、オゼッラ賞(技術貢献賞)を受賞。ロサンゼルス映画批評家賞では撮影賞を受賞。第79回アカデミー賞では脚色賞、撮影賞、編集賞でノミネートされたが、いずれも受賞を逃す。
日本では2007年3月21日、プレミアム・エディションとしてDVDが発売。次世代DVDの販売は未定。サウンドトラックは発売中。
[編集] ストーリー
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
西暦2027年11月。人類は希望を失い、世界は恐慌状態におちいっていた。なぜか出産の能力が失われ、18年間にわたって全く子供が生まれないのだ。ロンドンはかろうじて秩序を保っていたが、治安は日に日に悪化していた。世界最年少の青年がブラジルで刺殺されて絶望に包まれたこの日も、市街地で爆破テロが発生する。翌朝、英国エネルギー省に勤めるセオは出勤途中に反政府グループに拉致される。首謀者はかつての妻ジュリアン。彼女の要求はある不法滞在者の「通行証」を手に入れることだった。渋りながらも、従兄弟の政府高官から通行証を手に入れるセオ。検問所を突破するためジュリアンと共に乗り込んだ乗用車で、セオが引き合わされた不法滞在者は若い黒人女性、キーだった。検問所に向かう途中、セオたちの車は暴徒の襲撃にあい、ジュリアンが撃たれて絶命。組織のアジトに逃げ込んだセオは、キーから衝撃の事実を告白される。なんと彼女は子供を身ごもっており、間もなく出産を迎えるというのだ…
[編集] キャスト
- クライヴ・オーウェン:セオ・ファロン
- ジュリアン・ムーア:ジュリアン・テイラー
- マイケル・ケイン:ジャスパー・パルマー
- キウェテル・イジョフォー:ルーク
- クレア=ホープ・アシティー:キー
- チャーリー・ハナム:パトリック
- ダニー・ヒューストン:ナイジェル
- ピーター・マラン:シド
[編集] スタッフ
- 視覚効果:ダブル・ネガティブ
[編集] 驚異的「長回し」
興行的には苦戦したが、その映像は革新的・衝撃的で、カルト的人気を呼んでいる。最新のCG技術と伝統的撮影法を駆使し、観る者は映画のシーンに放り込まれたかのような臨場感を体験する。この映画で臨場感を呼ぶ最大の要素である「長回し」は画期的な撮影方法に支えられている。以下の3シーンはいずれも1カットの長大な長回し(に見えるよう編集されている。詳細は後述)。カッコ内は1カットの長さ。
- 映画冒頭の爆破テロシーン(約51秒)
- 主人公セオは、コーヒーショップで世界最年少の青年が暴漢に殺されたテレビニュースを見ながらコーヒーを買う。コーヒーをテイクアウトして街角でコーヒーにウィスキーを入れ、コーヒーを飲もうとする瞬間、いきなりさっきセオが出たばかりの店が爆発する。
- 乗用車襲撃シーン(約4分07秒)
- セオは、かつての妻で反政府活動家のジュリアン、彼女の組織の男女、そして若い黒人女性キーとともに乗用車に乗り込む。幸せな日々を思い出してピンポン玉を口でキャッチボールし、じゃれあうセオとジュリアン。突然、炎上する車が道をふさぎ、暴徒がセオたちの乗用車を取り囲む。バックで逃げる乗用車。追いかけてくる暴徒に混じり、2人乗りのオートバイが迫り、ジュリアンをガラス越しに撃つ。セオはとっさの機転でドアを開けてぶつけオートバイを排除するが、首から大量出血したジュリアンは絶命する。三叉路で転進しスピードを上げる乗用車は警察の車両群とすれ違う。1台のパトカーが引き返して乗用車に停止するよう命令。セオたちはパスポートをかざすが、組織の男はスキを見て警官2人を射殺する。動転するセオ。ここまで乗用車内部の視点だったカメラは外に出る。逃げ去る乗用車。警官の射殺体がクローズアップになる。
- 終盤の戦闘シーン(約6分16秒)
- セオと、出産直後のキーは脱出用のボートに乗り込むため難民キャンプ内のビルを出る。キャンプは収容者の武装蜂起で戦闘状態になっている。そこに反政府活動家グループが突如現れ、セオたちに銃を突きつける。キーと赤ん坊はグループに引き取られ、セオは始末されそうになるが、銃弾の雨がグループを襲う。蜂起を鎮圧するため、政府軍の大部隊が到着したのだ。セオは銃弾と砲撃をかいくぐりながらキーと赤ん坊を探す。3階建てのビルにたどり着き、階段を昇るセオ。最上階でセオはついにキーを探し出す。
メイキング映像や「CG WORLD」誌2007年1月号などによれば、これらのシーンは単純にブルー(グリーン)スクリーン前で撮影したものではなく、セットやロケーションで、ステディカムや特殊カメラを使って撮った長時間ショットをベースにしている。必要に応じ、複数のテイクをコンピュータ処理によって一つのショットにつなぎ合わせてあるが、テイク間の映像の差異を埋め合わせてつなぐ技術(PlaneItと呼ばれるツールを使用)は完成度が高く、つなぎ目がどこかは判別が困難である(CG WORLD誌によれば冒頭のテロシーンは2つのカットをつないだもの。また蜂起後の戦闘シーンでビルの階段を昇るセオは、同じ階段や廊下で撮影したショットをCGでバリエーションをつけたうえ、複数つなぎ合わせて3階まで昇ったように見せている。実際は1階建てだったそうである)。
また、乗用車の天井(撮影時は、ドギーカム社の「スパローヘッド」と呼ばれるカメラ雲台とそれを前後左右に駆動するシステムのスペースを確保するために屋根は取り除かれていた)や、爆発・弾着のエフェクト、レンズに付着する血糊、口で受け渡しするピンポン玉、赤ん坊のクローズアップなど、CGで作られたイメージもショット内にふんだんに合成されている。
綿密なリハーサルを要するアナログ的な長時間撮影とデジタル合成を調和させたこの手法により、長回し特有の緊張感と、長回しではオミットされがちな緻密な画面構成が両立し、画面に圧倒的な臨場感を与えている。
[編集] 劇伴音楽
- 劇伴音楽には、クシシュトフ・ペンデレツキの『広島の犠牲者に捧げる哀歌』、ドミトリー・ショスタコーヴィチの『交響曲第10番』、グスタフ・マーラーの『亡き子を偲ぶ歌』などが用いられている。
- また、キュアロン自身が傾倒していたジョン・タヴナーを説得し、タヴナーにとっても初の映画音楽を書き下ろさせた作品でもあり、ジョン・タヴナーはロック楽曲の選曲もおこなっている(ジョン・タヴナーの才能を最初に発掘したのはビートルズである説もある)。
- キング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』が流れているときにピンクフロイドのアルバム『アニマルズ』のジャケットにある、バタシーパーク発電所と、空とぶブタ(のバルーン)が劇中で登場(『アニマルズ』へのオマージュのため)。また劇中に多くの動物が登場し、プログレッシブ音楽との関連もある。
- 登場人物は有名なロックの偉人の名前が数多く登場。劇中歌にはディープ・パープルやレディオヘッド、リバティーンズ、ビートルズの『トゥモロー・ネバー・ノウズ』カバー曲、ローリング・ストーンズの『ルビー・チューズデイ』カバー曲がつかわれ、エンドスクロールではジョン・レノンの楽曲『ブリング・オン・ザ・ルーシー』がつかわれている。レディオヘッド以外のロック楽曲はサウンドトラックに収録されている(『クリムゾン・キングの宮殿』は短縮版)。
[編集] サウンドトラック楽曲
- ハッシュ/ディープ・パープル
- ウィットネス/ルーツ・マヌーヴァ
- トゥモロー・ネバー・ノウズ/ジュニア・パーカー
- スリーピー・ショアーズ/マイケル・プライス
- クリムゾン・キングの宮殿(エディット・ヴァージョン)/キング・クリムゾン
- バックワード/コードナイン&ザ・スペースエイプ
- ウェイト/ザ・キルズ
- ゼア・イズ・アン・オーシャン/ドノヴァン
- ルビー・チューズデイ/フランコ・バッティアート
- マネー・ハネー/プレッシャー feat.ウォリアー・クイーン
- アーベイト・マーチ・フレイ/ザ・リバティーンズ
- インディアン・ストンプ/サイラス(ランダム・トリオ)
- ブリング・オン・ザ・ルーシー/ジョン・レノン
- ランニング・ザ・ワールド/ジャーヴィス・コッカー(パルプのフロントマン)
[編集] メモ
- 映画はほぼ全編にわたって主人公セオ・ファロンを中心に据えた映像で構成され、世界観や場面設定等の説明が希薄である。単純明快なSFアクション・エンターテインメント大作を期待した鑑賞者はストーリーを追えずに「説明不足」との不満を抱く。
- 原作はP.D.ジェイムズのベストセラー小説『人類の子供たち』であるが、映画版とはストーリーが異なっており、監督はいまだ原作を未読である。これは監督が共同脚本のティモシー・J・セクストンから原作本を貸してもらったとき、ティモシーから「読んでもいいけど、これは僕たちがやる映画とは全く関係がない」と言われ、読むのを止めたため。
[編集] 外部リンク
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