ドリトル先生
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ドリトル先生(ドリトルせんせい)は、ヒュー・ロフティング著のアメリカ合衆国の児童書シリーズの名、および主人公の博物学者・医学博士(ダーハム大学で学位を取ったという設定)。ジェントリ。
本名はジョン・ドリトル。正確な表記は「John Dolittle」(ジョン・ドゥーリトル)であるが、直訳すると「働きが少ない」となり(『マイ・フェア・レディ』でオードリー・ヘプバーンが演じたイライザも同じ姓)、“ヤブ先生”になってしまうため、困った岩波書店の担当者が翻訳者の井伏鱒二にお伺いを立て、“こうしましょう”と提示された井伏の訳に賛同、変えられる事になったという。
ロフティングが第一次世界大戦で遭遇した、動けなくなった軍用馬の射殺処分に心を痛め、自分の子供に出した手紙での話が原型とされる。
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[編集] 設定
先生はある日、会話の中で“動物にだって言葉があります”と答えたペットのオウム・ポリネシアから、鳥語を始めとする幾つかの動物語を教わった事がきっかけで、動物たちと話すことができるようになった。噂を聞きつけた世界中の動物から頼まれて、ドリトル先生はアフリカから果ては月にまで診療に赴くこととなる。
なお、ポリネシアとの会話が成立したのは、以前から先生が英語を(単なる物真似でなく意味や文法も)教えていたからである。だが一方で、ほとんどの動物たちは人間の話を聞いて理解する事ができ(おかげで貴重な情報を得られた事もある)、この辺りに若干の矛盾が感じられないでもない。
イギリスの「沼のほとりのパドルビー」という町(イングランド東部・ノーフォーク州の湖沼地方所在と思われる)にある自宅 ―元は貴族の邸宅であったらしい― には先祖が園遊会をしたという広い庭があり、たくさんの動物たちと一緒に住んでいる。先生は獣医師ではなく人間の医者であったが、ドリトル先生の家に動物が入り浸るようになってからは人間の患者は誰も来なくなってしまった。
人間よりも動物相手になってしまった為に愛想を尽かした妹のサラ(Sarah)が結婚して出て行ってしまって以来、一人身だが、家事や家の動物たちの世話はアヒルのダブダブやフクロウのトートー達が手伝っている。動物たちが話す身の上話も印象的である(ちなみにドリトル先生はベジタリアンではない)。
この他のレギュラーメンバーには、犬のジップ、猿のチーチー、豚のガブガブ、白ネズミ(ホワイティという名があったがいつしか“白ネズミ”表記になってしまった)、ロンドン・レジェント公園(「リージェント―」が正しいが井伏の原訳どおり)にある聖エドモント像の左耳に営巣している雀の夫婦チープサイドとベッキー(ロンドンっ子を自負しており、「田舎者」を見下す癖があるのが玉に瑕)、“海外駐在員”としてツバメの“韋駄天”スキマーや紫ゴクラクチョウのミランダなどがいる。
鹿(あるいはレイヨウ)に似た双頭の「オシツオサレツ」(Pushmi-Pullyu)や、透明な殻の中に人を乗せることもできる巨大な巻貝「大ガラス海カタツムリ」などの架空の動物も登場する。これらの動物たちが持ち前の才能(オウムの物真似は元より犬の嗅覚、フクロウの暗視力、どこにでも潜り込めるネズミなど)を生かして先生を助けたり、意外な知識を披露したりするのが各作品の楽しみでもある。
ゲストとしてパガニーニが登場したこともある。「ドリトル先生のキャラバン」で、彼は先生の上演する動物オペラの聴衆として現われ、“動物語が話せると言うと狂人・山師扱いされる”と謙遜する先生を、動物ときちんと意思疎通が出来なければ、こんなに見事な出し物は不可能だと絶賛する。
彼を慕う少年“トミー”トーマス・スタビンズが第2巻「航海記」から住み込みの助手として参加。靴屋を営む父・ジェイコブの修理技術を先生は高く評価し、靴直しは必ずジェイコブの店(トミーの実家)に頼んでいた。屋敷の中にある「動物園」の副園長を務めたりもしている。航海記以後の全ての作品は、ドリトル先生亡き後ポリネシアの口述を、トミーが書き取った形で構成されている。
キプリングの「白人の責務」に見られるような“未開の土人を優れたイギリス人が教化する”という差別・蔑視思想、植民地主義に基づく表現が、残念ながら散見される(「航海記」における統一戦争以後のエピソードや「郵便局」の描写)。ただし、ドリトル先生自身は、時代背景や身分を考えれば稀有といっても良いほど、人種や階層などによる差別意識を持たない人物として描かれている(動物に対しても人格を認めるのだから当然かも知れないが)。彼の最も尊敬する博物学者ロング・アローはインディアンであり、また親しい友人にはアフリカ・ジョリキンキの王子カアブウブウ・バンポ(当然黒人である)や、ペットの餌にする屑肉を商う行商人マシューとテオドシアのマグ夫妻(マシューは札付きの密猟者でもある)らがいる。スタビンズをも当初から子供扱いせず、一人前の弟子として扱っている。
女性との交流はほとんどなく、バンポから彼の父王が120人の妻を持つ事を聞かされ「それはますますよろしくない、120倍もよろしくない」といっている(当時のジェントリには独身が多かったという背景もある)。
[編集] シリーズ
シリーズは全12冊と番外編1冊。挿絵も作者の自筆によるものが使われている。刊行年は全て原書のもの。
- ドリトル先生アフリカゆき(1920年刊)
- ドリトル先生航海記 (1922年刊)
- ドリトル先生の郵便局 (1923年刊)
- ドリトル先生のサーカス(1924年刊)
- ドリトル先生の動物園 (1925年刊)
- ドリトル先生のキャラバン (1926年刊)
- ドリトル先生と月からの使い(1927年刊)
- ドリトル先生月へゆく (1928年刊)
- ドリトル先生月から帰る (1933年刊)
- ドリトル先生と秘密の湖 (1948年刊)
- ドリトル先生と緑のカナリア(1950年刊)遺稿を夫人が整理し刊行
- ドリトル先生の楽しい家 (1953年刊)遺稿を夫人が整理し刊行
- ガブガブの本 ― ドリトル先生番外篇 遺稿を夫人が整理し刊行
[編集] 映画化作品
1967年にレックス・ハリソン主演のミュージカル映画として「ドリトル先生不思議な旅」のタイトルで映画化された。(原案は第2巻の「ドリトル先生航海記」)
また、動物と話せる医者という設定以外にあまり共通点はないが、エディ・マーフィー主演によるリメイク(「ドクター・ドリトル」「ドクター・ドリトル2」)もされている。
「ドリトル先生航海記」は、テレビ向けアニメ映画もアメリカで製作され、日本語版も1972年頃NHKで放映された。動物の言葉を話す秘密を奪い、世界征服をたくらむ海賊スカービーとその一味がドリトル先生一行を追いかけ、毎回大失態を演じるというコミカルタッチの内容で、原作と味付けはかなり異なる。日本語版でドリトル先生の声を人気オペラ歌手の故・立川清登が担当した。キリギリスのロックバンドが旅仲間にいる、というのも現代風のアレンジだが、こちらは日本語版でヤング101が歌を担当、毎回1曲披露した。
[編集] 発禁問題
黒人描写などについて問題があるとしてアメリカ合衆国では1970年代に発禁となっていたが、1997年に該当記述がパトリシア&フレデリック・マッキサックによって修正され出版された。とは言え、白人と同じ大学に通う黒人青年(パンポ王子はオックスフォード大学に留学している)、イギリス海軍に協力して奴隷商人を捕まえるエピソードなど、発禁の背景に白人至上主義者達にとっても嫌な話題があったことを指摘する説もある。
[編集] 関連書
- 南條竹則 『ドリトル先生の英国』文春新書 文藝春秋 ISBN 416660130X