獣医師
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獣医師(じゅういし、Veterinarian)は動物の医師。 獣医師になるためには、獣医学系大学を卒業して農林水産省が実施する獣医師国家試験に合格し、獣医師免許を取得しなければならない。
獣医師でない者が、飼育動物(牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診察を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る。)の診療を業務としてはならない。また、獣医師でない者が「獣医師」の名称を用いるのは勿論だが、「動物医」・「家畜医」・「ペット医」等の紛らわしい名称も用いてはならない。(業務独占資格)
に寄与すること、が使命とされている。
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[編集] 臨床獣医師
- 小動物臨床獣医師
- 住宅地等で自ら動物病院など小動物診療施設を開設、または既存の小動物診療施設に雇用されて勤務し犬や猫などを対象として診療行為を行なう小動物臨床、いわゆるペット病院の獣医師。
- 獣医師というとこのような小動物臨床の獣医師だけを連想しがちだが、獣医師免許を持つ者のうち小動物臨床の獣医師が占める割合は、日本全国で見た場合は全体の4割未満であり、最も高い東京都内でも約6割程度である(残りは、これ以降記述されている各分野の獣医師である)。
- なお獣医師は診療した場合、診療簿(医師の診療録にあたる)にその事実を記載しなければならない。最近では空前のペットブームに伴って、ペット保険・ペット共済も登場している。
- 産業動物臨床獣医師
- 農村地域等で自ら診療施設を開設するか農業共済組合に勤務して周辺の畜産農家に往診し、牛や豚・鶏などの産業動物を対象とする診療行為のほか、ワクチン接種及び消毒など伝染病予防の衛生指導といった予防衛生業務を行なう獣医師。最近では動物福祉や食品のトレーサビリティに関する指導を行う例もあり、企業形態の畜産農場に雇用されて勤務している者もこの範疇に入る。
- 農村地域で自ら診療施設を開設した産業動物臨床の獣医師が、往診先の農家で飼われているペットの診療を行なうことに関しては法的に問題ないため、近隣に小動物臨床獣医師がいないような地域ではそのようなケースも意外と多い。
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- もともと他の分野に比べると人気が高く、関係施設や従事者の需要そのものが少ないこと等から、この分野へ就職することは非常に困難とされている。そのため、獣医師免許を取得していても厩務員や飼育係としての勤務を志す者も少なくない。
[編集] 臨床獣医師の実情
- 最近の傾向として、公務員の人気低下に伴って獣医師免許取得者の小動物臨床人気が上昇しているが(下記「獣医師免許取得者の動向」を参照)、開業すれば公務員や民間企業のような定年制度がなく、特に小動物獣医療には健康保険や共済制度の適用がないため、「儲かる仕事」だという誤解と偏見も一部である。
- 動物好きで獣医師を目指す学生にとっても臨床獣医師は、毎日動物を助ける「カッコ良く華やかな仕事」に見えるようであるが、「カリスマ」などと呼ばれてテレビや雑誌に登場するごく一部の例外を除けば、後に述べる他の業種と関係なくその生活は非常に地味なものである。学生時代には実習等で多くの動物を殺さなければならず、実際の開業後も殆どの動物病院が小規模な個人経営のため、汚物処理なども含めた入院している動物の一般的な世話を獣医師自身が行わなければならないこともある。
- また、臨床獣医師の仕事は純粋なサービス業であると言うことができる。技術的に治すことが可能な怪我や病気であっても、動物に与える苦痛や飼い主の経済的負担が大きい場合には安楽死(産業動物であれば食肉としての早期出荷を含めた廃用・淘汰)を勧めなければならない事も多く、飼い主の希望や経済状態に配慮しながら、治療を通じて飼い主との間に良好な信頼関係を築いて行くことが治療以上の重要な仕事となる。更には近隣住民からのペット飼育に関する指導・苦情を含めた相談等の依頼も多々ある。
- 「動物の医師」であっても、使命の根源は一般社会と同様に「人間の生活レベル向上」への寄与にあり、「動物は好きだが人間は嫌い」という者には基本的に勤まらない職業である。
[編集] 「診療をしない」獣医師
公務員や民間企業の社員としての獣医師である。公務員については大きく国家公務員と地方公務員に分けられる。
- 農林水産省や厚生労働省並びに各都道府県の本省庁や各出先機関に勤務しそれぞれの施策・業務に従事する。本省庁では予算、法律の執行や政策立案などの事務的業務が大部分を占めるため、現場で動物を触ることはもちろん、見ることすら殆ど無い。執務中の服装も、見た目には普通の会社員と何ら変わりはない。
[編集] 国家公務員の獣医師職員
- 獣医職としての採用がある省は厚生労働省および農林水産省の2つ。
- 活躍の場所は本省、全国の空港や海港に設けられた「検疫所」や「動物検疫所」など。なお検疫所は厚生労働省、動物検疫所は農林水産省の所管である。
- 「検疫所」は人の伝染病(感染症)の海外から日本国内への流入、及び日本国内から海外への流出を未然に防ぐ重要な機関であり、獣医師職員はこのうち輸入食品の確認検査の業務を担当している。
- 「動物検疫所」では輸出入される生きた動物、食品以外の動物製品に由来する伝染病・感染症の流出・流入を未然に防ぐ業務をしている。
[編集] 地方公務員の獣医師職員
「公務員の獣医師」はごく一部を除いて動物の診療に従事することは殆ど無いが、業務の性質上人事異動を避けて通ることは出来ない。このため、どこへ異動してもすぐに異なる業務に従事できるよう(例:保健所⇔本庁⇔動物園)、常に高度な獣医学上の知識や技術を要求される。また業務内容の違いにより根拠となる法令も多岐にわたるため、これら法令を含めた「幅広い知識と視野並びに一般常識」も同時に要求される。
- 「食肉衛生検査所」からと畜場へ出向き、食肉の検査を通じてO157・BSEなどの人畜共通感染症対策や残留抗生物質対策に従事する者(と畜検査員)。
- 「保健所」において、動物管理業務を含む食品衛生監視業務あるいは環境衛生監視業務に従事する者(食品衛生監視員及び環境衛生監視員、狂犬病予防員)。
- 「動物保護センター(自治体により名称は異なる)」において、保健所等を通して保護された犬の管理・処分、動物愛護普及業務、動物取扱業や特定動物飼育施設の監視業務に従事する者(狂犬病予防員及び動物監視員)。
- 「衛生研究所(自治体により名称は異なる)」等の試験研究機関において、主に人の感染症や食品衛生に関する研究・検査業務に従事する者。
- 「畜産試験場」において、家畜の改良増殖に従事する者。
- 「家畜保健衛生所」において、BSEや高病原性鳥インフルエンザをはじめとする感染症など、家畜の生産性に悪影響を及ぼす各種疾病の検査業務・予防対策に従事する者(家畜防疫員)。
- 「動物園や水族館」にて展示動物の診療を行なう獣医師であっても、その経営母体が都道府県や市町村などの地方公共団体であれば、同様に地方公務員となる。
[編集] 獣医系研究職
- 民間企業のうち、乳業・食肉・家畜飼料等の関連企業では営業や品質管理、製薬関連企業及び独立行政法人を含む各種の研究施設では実験動物の生産や管理などを行うほか、新製品の研究・開発等も行なっている。
- 公務員の多くと同様に臨床業務に携わる事は無いが、研究者としての高度な獣医学上の知識や技術だけでなく、マーケティング感覚や消費者ニーズに即した柔軟な発想・コスト意識が要求される。ただし公務員と違って、業種によっては必ずしも獣医師免許を必要としない場合もある。
[編集] 獣医師免許取得者の動向
- ペット動物の社会的地位の向上や、「動物のお医者さん」・「向井荒太の動物日記~愛犬ロシナンテの災難~」のような獣医大学の学生を主人公とした漫画・ドラマの影響によってここ数年、獣医師は常に「なりたい職業」の上位にランキングされている。
- また前記のようなドラマや、特に女子学生の増加による影響で、学生の卒業後の進路も小動物臨床分野を希望する比率が年々高まっている。先述のとおり、産業動物臨床獣医師の主な対象は牛など大型の動物であることから肉体面での負担が大きく、活躍の場も地方の農村が中心となることから、これを敬遠する女子学生は少なくない。
- 親が開業臨床獣医師でない学生からは「生活の安定」を求める点で公務員の人気も依然として高い。政府も人獣共通感染症や食の安全に対する国民の関心の高まりを受けて家畜衛生・公衆衛生に従事する「公務員獣医師」を増やすべく、平成20年度以降の各獣医大学の定員増加を検討している[1]。しかし、長らく「不景気に強い」と言われてきた公務員も、最近では下記のような相次ぐ組織の統廃合に伴う人員の削減や事業の縮小及び外部委託、それに伴う職域選択幅の減少による人事の硬直化が起こっている。
- 大学に6年間通う分の基本給への年齢的加算や特殊な業務に対する特殊勤務手当の支給はあるものの、医師や歯科医師のような一般職員との格差をつけた給与体系や退職年齢が設定されていない。このため公務員獣医師の待遇そのものは一般事務職員などのいわゆる行政系職員と同一であり、欧米諸国の公務員獣医師と比較すると格段の差がある。また、一般の行政系職員と比較すると上級職のポストが殆どないことから昇任の機会に乏しい。
- 更に基本給の削減や年金制度改革によって開業臨床獣医師との生涯所得の格差がますます拡大している。
[編集] 獣医学科のある大学
- 国公立大学
- 私立大学
- 酪農学園大学獣医学部(北海道江別市)
- 北里大学獣医畜産学部(青森県十和田市)
- 日本獣医生命科学大学獣医学部(東京都武蔵野市)
- 日本大学生物資源科学部(神奈川県藤沢市)
- 麻布大学獣医学部(神奈川県相模原市)
[編集] 関連法規
- 獣医師法
- 獣医療法
- 薬事法
- 毒物及び劇物取締法
- 覚せい剤取締法
- 麻薬及び向精神薬取締法
- 動物の愛護及び管理に関する法律
- 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律
- 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律
- 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律
- 家畜伝染病予防法
- 牛海綿状脳症対策特別措置法
- 牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法
- 飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律
- 家畜保健衛生所法
- 家畜改良増殖法
- 家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
- 狂犬病予防法
- と畜場法
- 食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律
- 化製場等に関する法律
- 食品安全基本法
- 食品衛生法
- 家畜商法