イングランド
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イングランド(England)は、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国を構成する1つの地域または非独立国である。人口は連合王国の83%以上[1]、面積はグレートブリテン島の南部の約3分の2を占める。北方はスコットランドと、西方はウェールズと接する。北海、アイリッシュ海、大西洋、イギリス海峡に面している。
イングランドの名称は、ゲルマン人の一種であるアングル人の国を意味する"Engla-lond"に由来する。1707年にスコットランド王国と合同しグレートブリテン王国が作られるまでは独立した王国であった。
日本に於ける「イングランド」はしばしば、連合王国の意味で用いられる「イギリス」と混同されて用いられる。
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国のモットー: Dieu et mon droit (God and my right、神と我が権利) | |||||
公用語 | 無し。公用には、英語が使用される。 | ||||
首都 | ロンドン | ||||
領域 - 合計 |
連合王国構成国中1位 130,395km² |
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人口 - 合計(2005年) - 人口密度 |
連合王国構成国中1位 50,431,700人 387/km² |
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統一 | エグバート(839年)が最初のイングランド王と言われることが多いが、実際の肩書きはブレトワルダ(覇王)であった。学校の歴史では、1066年、ウィリアム征服王からとされている。 | ||||
通貨 | UKポンド | ||||
時間帯 | UTC+0 | ||||
国歌 | God Save the Queen, Land of Hope and Glory (非公式)、Jerusalem (非公式) |
目次 |
[編集] 地理
イングランドはグレートブリテン島の南部約3分の2とワイト島などの周辺の小さい島で構成されている。北方はスコットランドと、西方はウェールズと接する。連合王国の中で最もヨーロッパ大陸に近く、対岸のフランスまで約33kmである。
イングランドの大部分はなだらかな地形であるが、北方には標高の低い山岳がある。地形は、ティーズ川とエクス川を結ぶ線で分けられる。平地の部分もあり、フェン(the Fens)と呼ばれる東部の湿地帯は農業用地になっている。
イングランドの最大の都市はロンドンであり、世界でも最も繁栄した都市の1つである。バーミンガムはイングランドで2番目の規模の都市である。英仏海峡トンネルによってイングランドは大陸ヨーロッパと繋がっている。イギリスで最も大きい天然港は南海岸のプールである。オーストラリアのシドニーに次いで世界で2番目に大きい天然港という主張もあるが、これには異論もある。
主要な河川:
主要な都市:
[編集] 気候
イングランドは温帯であり、年間を通して降水量が豊富であるが、季節によって気温は変動する。しかし、-5°C以下になったり、30°C以上になることはほとんどない。南西からの偏西風が大西洋の暖かく湿った空気を運んでくるため東側は乾燥し、ヨーロッパ大陸に近い南側が最も暖かい。高地地帯から離れた地域においては頻繁ではないが、冬や早春には雪が降ることがある。イングランドの最高気温の記録は2003年8月10日にケント州のBrogdaleの38.5°Cである[2]。最低気温の記録は1982年1月10日にシュロップシャー州のEdgmondの-26.1°Cである[3]。
[編集] 歴史
- 詳細はイングランドの歴史を参照
イングランドの名はフランス語で 'Angleterre' と言うように「アングル人の土地」という意味である。ローマ領ブリタニアからローマ軍団が引き上げた後、ゲルマン系アングロ=サクソン人が侵入し、ケルト系ブリトン人を征服または追放してアングロ=サクソン七王国が成立した。アングロ=サクソンの諸王国はデーン人を中心とするヴァイキングの侵入によって壊滅的な打撃を受けたが、ウェセックス王アルフレッド大王が最後にヴァイキングに打ち勝ってロンドンを奪還し、デーンロー地方を除くイングランド南部を統一した。その後、エドガーの時代に北部も統一され、現在のイングランドとほぼ同じ領域の王国となる。一時イングランドはデンマーク王クヌーズ(カヌート)に征服されるが、その後再びアングロ=サクソンの王家が復興する。しかし1066年ノルマンディー公ギヨームに征服され、ギョームがウィリアム1世(征服王)として即位、ノルマン王朝が開かれた。ノルマン人の征服によってアングロ=サクソン系の支配者層はほぼ一掃され、フランス語が国王・貴族の公用語となった。その後、プランタジネット王朝は英仏に広大な領土をもつ「アンジュー帝国」となるが、この時期になるとフランス系のイングランド諸領主も次第にイングランドに定着し、イングランド人としてのアイデンティティを持ちはじめた。そして最終的に、14~15世紀に起こった百年戦争によってほぼ完全にフランス領土を失い、このような過程を経て現在に繋がるイングランド王国が成立した。
[編集] 政治
1603年以来、ジェームズ1世がイングランドとスコットランドの両方を統治していたが、1707年にイングランドとスコットランドが連合してグレートブリテン王国を形成した。合同法によって両国の議会は統合された。
1996年に北部アイルランド、1999年にはスコットランドに292年ぶりに議会が復活し、ウェールズ議会も開設され、地方分権的自治が始まった。
[編集] 経済
イングランドの経済はヨーロッパで2番目、世界で5番目に大きい。連合王国(イギリス)の中では最大である。ヨーロッパの上位500社のうち100社がロンドンに存在する。[4]イングランドは高度に工業化されており、世界経済の中心の1つである。化学工業、 製薬、航空業、軍需産業、ソフトウェア産業などが発達している。
イングランドは工業製品を輸出し、プルトニウム、金属、紅茶、羊毛、砂糖、木材、バター、肉のような資源を輸入している。[5]ただし、牛肉は逆にフランス、イタリア、ギリシャ、オランダ、ベルギー、スペインなどへ輸出している。[6]
イギリスの金利と金融政策を決定する中央銀行であるイングランド銀行はロンドンにある。そのほかにヨーロッパ最大の株式市場であるロンドン証券取引所もある。そのためロンドンは国際的な金融市場の中心地である。
イングランドの伝統的な重工業はイギリス全体の重工業と同様に、急激に衰退した。一方でサービス業が成長し、イングランドの経済の重要な位置を占めている。例えば観光業はイギリスで6番目に大きな産業であり760億ポンドの規模である。2002年時点では労働人口の6.1%にあたる180万人をフルタイムで雇用している。[7]ロンドンには世界中から毎年数百万人が観光に訪れる。
[編集] 文化
現代のイングランドの文化はイギリス全体の文化と分かち難い場合があり、混在している。しかし歴史的、伝統的なイングランドの文化はスコットランドやウェールズと明確に異なっている。
イングリッシュ・へリテッジというイングランドの史跡、建築物、および環境を管理する政府の組織がある。
[編集] スポーツ
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クリケット、ラグビー、ラグビーリーグ、サッカー、テニス、ゴルフ、バドミントンといった数多くの現代のスポーツが19世紀のイングランドで成立した。その中でもサッカーとクリケットは依然としてイングランドで最も人気のあるスポーツである。FAプレミアリーグという国内リーグがあり、欧州サッカー連盟の四ツ星以上のスタジアムの数はイングランドが最も多い。サッカーイングランド代表は自国で開催された1966年のワールドカップで優勝した。しかし、それ以来主要な国際大会では決勝まで進めていない。1990年のワールドカップで準決勝進出、2002年と2006年に準々決勝に進出している。
- イングランド出身の主なサッカー選手
- デビッド・ベッカム
- スティーブン・ジェラード
- フランク・ランパード
ラグビーイングランド代表とクリケットイングランド代表は世界大会で活躍している。ラグビーでは2003年のラグビー・ワールドカップで優勝し、クリケットでは2005年のアッシュシリーズで優勝した。ラグビーリーグではノーサンプトン・セインツ、レスター・タイガース、ロンドン・ワスプスといったクラブチームがハイネケンカップで優勝している。
2012年の夏のオリンピックは7月26日から8月12日までイングランドのロンドンで開催される予定である。ロンドンは1908年、1948年にもオリンピックを開催しており、同じ都市で3度開催されることは初めてである。
[編集] 音楽
[編集] クラシック音楽
[編集] ポピュラー音楽
- 1960年代にはビートルズが登場した。その後ローリング・ストーンズ等が現れた。ブリティッシュ・インベンジョンが起こる。
- 1970年代にはクイーンが登場した。
- 1990年代にはオアシス、スパイス・ガールズが登場した。
[編集] 文学
[編集] 食文化
イングランドには様々な食べ物がある。例えばコーンウォール州の錫鉱山の抗夫の弁当から発達した「コーニッシュ・パスティー(Cornish Pasty)」には挽肉と野菜が入っている。縁が大きいのは錫を採掘したときに付く有害物質を食べないようにする為で、縁は食べない。
レストランやパブのメニューには「シェパード・パイ」がある。スコーンも有名である。
[編集] 宗教
イングランドには多様な宗教が存在する一方で、特定の宗教を持たないあるいは無宗教の人の割合も多い。宗教的な行事の位置づけは低下しつつある。2000年時点のイングランドの宗教の比率は以下の通りである。キリスト教 75.6% イスラム教1.7% ヒンドゥー教1% その他1.6% 特定の宗教を持たないあるいは無宗教 20.1%。
[編集] キリスト教
キリスト教はカンタベリーのアウグスティヌス(初代カンタベリー大主教)の時代に、スコットランドやヨーロッパ大陸からイングランドへやってきた宣教師によって到来した。685年のウィットビー教会会議によってローマ式の典礼を取り入れることが決定された。1536年にヘンリー8世がキャサリン・オブ・アラゴンとの離婚しようとした問題によってローマと分裂し、宗教改革を経てイングランド国教会と聖公会が生まれた。他のスコットランド、ウェールズ、北アイルランドとは違い、イングランドではイングランド国教会が国家宗教である(ただしスコットランド国教会は法律で定められた国家教会である)。
16世紀のヘンリー8世によるローマとの分裂と修道院の解散は教会に大きな影響を与えた。イングランド国教会はアングリカン・コミュニオンの一部であり、依然としてイングランドのキリスト教で最も大きい。イングランド国教会の大聖堂や教区教会は建築学上、意義のある重要な歴史的建築物である。
イングランドのその他の主なプロテスタントの教派にはメソジスト、バプテスト教会、合同改革派教会がある。規模は小さいが無視できない教派として、キリスト友会(通称クエーカー)と救世軍がある。
[編集] その他の宗教
20世紀後半から、中東や南アジアからの移民によりイスラム教、シーク教、ヒンドゥー教の割合が増加した。バーミンガム、ブラックバーン、ボルトン、ブラッドフォード、ルートン、マンチェスター、レスター、ロンドン、オールダムにはムスリムのコミュニティがある。
イングランドのユダヤ教のコミュニティは主にロンドン、特にゴルダーズグリーンのような北西部の郊外に存在する。
[編集] 行政区画
- 詳細はイングランドの州を参照
イングランドの地方行政制度は時の政府の政策によって変遷が激しく、歴史的な実態と必ずしも対応していない。例えば、ロンドン市役所はサッチャー政権によって廃止され、一種の区役所のみが正規の行政組織として機能していたが、2000年にブレア政権によって大ロンドン地域として復活した。
現在のイングランドは行政的に9「地域」 (region) に区分される。このうち、大ロンドン地域のみが2000年以降市長と市議会を有するが、その他の地域には知事のような首長は存在せず、議会を設置するかどうかは住民投票によって決まるので、議会が存在しない地域もある。地域を統括する行政庁は存在するがそれほど大きな権限はない。
つまり「地域」は行政上存在してもあまり実体のある存在とはいえない。ブレア労働党政権は「地域」の行政的権限を強化したい意向だが、保守党は反対している。従って現在のところ、実体のある地方行政組織は行政州(county)または都市州(metropolitan county)であり、都市州の下級行政単位として区(borough)が存在する地域もあるが、都市州がなく区のみが存在する地域もある。
この節の以下の統計は全て2001年時点のもの。
- 大ロンドン地域(面積1,580平方キロ、人口7,172,036人)
- シティ・オブ・ロンドン
- シティ・オブ・ウェストミンスター
- 31の区(borough)
- 南東イングランド地域(面積19,096平方キロ、人口8,000,550人)
- バークシャー州 (Berkshire)
- バッキンガムシャー州 (Buckinghamshire)
- イースト・サセックス州 (East Sussex)
- ハンプシャー州 (Hampshire)
- ワイト島 (Isle of Wight)
- ケント州 (Kent)
- オックスフォードシャー州 (Oxfordshire)
- サリー州 (Surrey)
- ウェスト・サセックス州 (West Sussex)
- 南西イングランド地域(面積23,829平方キロ、人口4,928,458人)
- サマセット州 (Somerset)
- バス・アンド・ノース・イースト・サマセット (Bath and North East Somerset)
- ノース・サマセット (North Somerset)
- ブリストル州 (Bristol)
- グロスターシャー州 (Gloucestershire)
- サウス・グロスターシャー (South Gloucestershire)
- ウィルトシャー州 (Wiltshire)
- スウィンドン (Swindon)
- ドーセット州 (Dorset)
- プール (Poole)
- ボーンマス (Bournemouth)
- デヴォン州 (Devon)
- トーベイ (Torbay)
- プリマス (Plymouth)
- コーンウォール州 (Cornwall)
- サマセット州 (Somerset)
- 西ミッドランズ地域(面積13,004平方キロ、人口5,267,337人)
- ヘレフォードシャー州 (Herefordshire)
- シュロップシャー州 (Shropshire)
- テルフォード・アンド・レキン (Telford and Wrekin)
- スタフォードシャー州 (Staffordshire)
- ストーク・オン・トレント (Stoke-on-Trent)
- ウォリックシャー州 (Warwickshire)
- ウェスト・ミッドランズ州 West Midlands (metropolitan county)
- ウスターシャー州 (Worcestershire.)
- 北西イングランド地域(面積14,165平方キロ、人口6,729,800人)
- 北東イングランド地域(面積8,592平方キロ、人口2,616,479人)
- ノーサンバーランド州 (Northumberland)
- タインアンドウィア州 (Tyne and Wear)
- ニュー・カッスル・アポン・タイン Newcastle upon Tyne (Tyne and Wear)
- ゲーツヘッド Gateshead (Tyne and Wear)
- ノース・タインサイド North Tyneside (Tyne and Wear)
- サウス・タインサイド South Tyneside (Tyne and Wear)
- サンダーランド Sunderland (Tyne and Wear)
- ダラム州 (County Durham)
- ダーリントン (Darlington)
- ストックトン・オン・ティーズ (Stockton-on-Tees)
- ハートルプール (Hartlepool)
- ノース・ヨークシャー州 (North Yorkshire) ※ノース・ヨークシャー州の以下の地域のみ
- レッドカー・アンド・クリーブランド (Redcar and Cleveland)
- ミドルズブラ (Middlesbrough)
- ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー地域(面積15,382平方キロ、人口4,964,838人)
- サウス・ヨークシャー州(South Yorkshire)
- ウェスト・ヨークシャー州 (West Yorkshire)
- ノース・ヨークシャー州 (North Yorkshire) ※レッドカー・アンド・クリーブランド、ミドルズブラは含まない
- ヨーク (York)
- イースト・ライディング・オブ・ヨークシャー州 (East Riding of Yorkshire)
- ハル (Hull)
- リンカンシャー州 (Lincolnshire)
- ノース・リンカンシャー (North Lincolnshire)
- ノース・イースト・リンカンシャー (North East Lincolnshire)
- 東ミッドランズ地域(面積15,627平方キロ、人口4,172,179人)
- イングランド東部地域(面積19,120平方キロ、人口5,388,140人)
- エセックス州 (Essex)
- サロック (Thurrock)
- サウセンド・オン・シー (Southend-on-Sea)
- ハートフォードシャー州 (Hertfordshire)
- ベッドフォードシャー州 (Bedfordshire)
- ルートン (Luton)
- ケンブリッジシャー州 (Cambridgeshire)
- ピーターバラ (Peterborough)
- ノーフォーク州 (Norfolk)
- サフォーク州 (Suffolk)
- エセックス州 (Essex)
上記の行政州(administrative county)以外に伝統的な州(ceremonial county)も名目的ながら現在も使用されるが、行政的な実体はない。
[編集] 著名人
- ロジャー・ムーア - 3代目ジェームズ・ボンド役
- ダニエル・クレイグ - 6代目ジェームズ・ボンド役
- ナイジェル・マンセル - 1992年F1ワールドチャンピオン
- デイモン・ヒル - 1996年F1ワールドチャンピオン
サッカー
- ウェイン・ルーニー- 代表FW
- ピーター・クラウチ- 代表FW
- マイケル・オーウェン- 代表FW
- アンディ・ジョンソン- 代表FW
- デビッド・ベッカム- 元代表MF
- スティーブン・ジェラード- 代表MF
- フランク・ランパード- 代表MF
- ガリー・ネビル- 代表DF
- ジョン・テリー- 代表DF
- ボビー・チャールトン- 元代表MF、FW
ラグビー
- ジョニー・ウィルキンソン- 代表SO
- ローレンス・ダラーリオ- 代表No.8
- ウィル・カーリング- 元代表CTB キャプテンを長く努めた。
- ジェミー・ガスコット- 元代表CTB
- ロリー・アンダーウッド- 元代表WTB
- ロブ・アンドリュー- 元代表SO
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ National Statistics Online
- ^ Temperature record changes hands BBC ニュース 2003年9月30日
- ^ English Climate
- ^ Financial Center by the Corporation of the City of London. URL accessed 20 November, 2006.
- ^ Fact Monster
- ^ Eblex.
- ^ Visit Britain.