ナチス式敬礼
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ナチス式敬礼(ナチスしきけいれい)とは、古代ローマのローマ軍団の敬礼をムッソリーニがイタリア軍で復活させたのをナチス・ドイツ(第三帝国)が真似たもの。ドイツ語では「ヒトラーグルス」と呼ばれる。(第二次世界大戦中は「ドイッチャーグルス」(ドイツ式敬礼)と呼ばれた)
本来は古代ローマの軍隊での敬礼であったものをローマ帝国の復活を掲げるムッソリーニがファシスト党の敬礼として取り入れた。そのため「ローマ式敬礼」の呼称のほうが正式であるとの考えもある。また、「ファシスト式敬礼」とも呼ばれる。日本ではナチスのイメージが強く、「ナチス式敬礼」の呼称が一般化している。同様の理由から「ナチ式敬礼」や、比較的稀だが「ヒトラー式敬礼」と呼称される事もある。
直立の姿勢で右手をピンと張り、一旦胸の位置で水平に構えてから、腕を斜め上に突き出す敬礼。通常は「Sieg Heil」(ドイツ語で「勝利万歳」)あるいは「Heil Hitler」(「ヒトラー万歳」)の声が付随する。当時の写真・フィルムを見ると必ずと言ってよいほど写っている。これはヒトラーへの権力や力の集中、忠誠を意味しており、これを受ける唯一の存在である総統ヒトラー自身は、肘から指先までを挙げる答礼でこの敬礼に応える。
ヒトラーと袂を別った反ヒトラー派のオットー・シュトラッサー率いる「革命的ナチス」(所謂「ナチス左派」)の場合は、同じようなスタイルで「Heil Deutschland」(「ドイツ万歳」)と言った。
現在のドイツでは、「扇動法」により、ナチス式敬礼をすると“ナチ賛美・賞賛”と見做され逮捕・処罰の対象となるので、旅行等、ドイツに滞在、居住する際には注意を要する。特に日本人は学校生活以来、呼ばれるとまっすぐ挙手することに慣れているので、誤解を招く恐れが大きく、十分に気を付ける必要があると言える。
なお、台湾(中華民国)では、公職者の就任宣誓でこの敬礼がとられている。また、中近東においてはレバノンのヒズボラに代表されるパレスチナ・アラブの過激派組織が反ユダヤ・反イスラエルの姿勢を誇示するためにナチス式敬礼を使用している。(こちらに写真あり)[要出典]
[編集] スポーツ大会におけるナチス式敬礼
古代オリンピック復活を唱える近代オリンピックにおいては古代ローマ式敬礼が採用された。[要出典]これに伴い、日本においてもスポーツ大会でこの敬礼が広く普及した。その後、ファシストおよびナチスが古代ローマの敬礼と類似の敬礼を採用し、第二次世界大戦後、欧米ではファシズム・ナチズムへの支持表明と混同されるものであるとしてナチス式敬礼は急速に廃れた。
ナチス式敬礼を採用する勢力に支配されたことも交戦したこともない日本ではスポーツ選手が入場行進する際に大会主催者、来賓へのナチス式敬礼が何の違和感もなく行われていた。1960年に開催されたローマオリンピックで日本選手団がナチス式敬礼を行った事が国際的に批判を浴びた。しかしその後も1970年代まで、国体の入場行進の際には、選手団がスタンドの貴賓席に対して「かしらー右」の掛け声の後のナチス式敬礼が行なわれていた。また、高校総体では1990年代まで、入場行進で同様の敬礼が行われていた。ただ、かかる敬礼が国際社会的にふさわしくないとの認識は、オリンピック開会式を端緒として徐々に広まり、時代錯誤であるとの認識はようやく1990年代に定着し、次第にナチス式敬礼はスポーツの場面からも追放されていった。
学校の体育祭においても、入場行進の際に来賓席に向かって同様の敬礼を行うことがあり、千葉県や愛知県の一部地域の公立中学校では、やはり1990年代まで普通に行われていた。現在でも愛知県の一部の県立高校や、千葉県船橋市の一部の市立中学校、各地の一部の私立高校などの体育祭・体育大会において、このような敬礼を行っている。
また、選手宣誓の際に選手の代表が右手を挙げての宣誓を行うが、このスタイルもナチス式敬礼を取り入れたものだとされており[要出典]、日本以外では行われていない(高校野球では廃止)。