ハイドロニューマチック
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ハイドロニューマッチック(hydropneumatic)は、エアサスペンションの一種、またはサスペンションに使われる機構の一種。
バネ、ダンパーの種類であって、ストラットやダブルウィッシュボーンなど一般に言うサスペンションの形式ではない。
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[編集] 概要

窒素ガスとオイルを組み合わせ、車の動きを総合的に制御するシステムで、主にフランスの自動車製造会社シトロエンの製造する乗用車に装備される。一時期、ローバーやベンツ、プジョーといった他社も採用した。また、純正の金属ばねサスペンションと交換するために製作された後付け用の社外品も北米を中心に出回っている。
シトロエンのハイドロニューマチックの特徴として、ダンパーに使われているオイルがサスペンションロッドの一部として使われるだけで無く、ブレーキはもとよりパワーステアリングやギアチェンジやヘッドライトの左右角度調整にも使われる。それらは全てパイプで繋がっておりエンジンの動力でポンプを動かしアキュムレーター(写真参照)で一括管理されている。
合理的なシステムと言えるが、その反面トラブル時には上記の機構全てに影響を及ぼす欠点もある。また一般的に普及したESPを導入する等の為にもブレーキ系を切り離す必要があり、ハイドラクティブIII(+)ではサスペンションにしか使われていない。
オイルは、初期の植物性オイルLHS(ピンク色)・LHS2(茶色)から、鉱物性オイルのLHM(緑色)へ、さらに化学合成オイルLDS(オレンジ色)と変遷している。
[編集] 仕組み
気体の性質としてボイルの法則、フランスではマリオットの法則、基本的には同じ「一定温度下での気体の圧力と体積は反比例の関係にある」というもので、気体を2分の1の体積まで圧縮すると圧力は2倍になる、すなわち反発力も2倍になる。
その性質を車のサスペンションに利用したのがエアサスペンションで、人や荷物を積んだ時はばねレートが上がり、それらをおろすと元のばねレートに戻る。故に、平常時はそうとうに軟らかいばねレートを設定でき、積載時はどれだけ圧縮しても気体は無くならずより強い反発力を得るため、容易にボトミング(底突き)する事も無い。
理想的なバネであってもダンパーは必要であるため、その部分をオイルが受け持つ仕組みとなっている。
[編集] サスペンション
バネとダンパーは、スフェア(写真参照)と呼ばれる金属製のボールとそれに繋がるシリンダーで構成されている。スフェアの内部はゴム状の幕で仕切られており、シリンダー側にはオイルが反対側には窒素ガスが入っている。(図2参照)
基本的に窒素ガスがバネ、オイルがダンパーの働きし、1つの車輪に対して1つのスフェアとシリンダーが配される。
全てが特殊な構造と思われがちだが、形状は普通のサスペンションと大差ないため、金属バネ同様多くのサスペンション形式に対応する。
なおバネ部分の窒素ガスは密閉されているが、ダンパー部分のオイルは車高調整やばねレート調整に使われるため、出し入れできる構造になっている。
[編集] オイルライン
オイルは基本的にリザーブタンク、ポンプ、アキュムレーターと順に繋がり、そのあと各機関に振り分けられる。
リザーブタンクに貯められたオイルは、ポンプでアキュムレーターと呼ばれる高圧タンクに送り込まれる。アキュムレーターではスライドバルブによりオイルが一定圧に保たれるよう制御される。
サスペンションではアキュムレーターで一定圧に保たれたオイルが、ハイトコレクターバルブ(車高調整弁)、ダンパーの順にオイルラインで繋がっている。(図3、左参照)
[編集] セルフレベリング・システム
平常時、快適性のため低いばねレートに設定した場合、積載時に車体が沈み込み大きな姿勢変化を招いてしまう。それを補正するためダンパー部分のオイル量を変化させ、常に車体を一定に制御するセルフレベリング機構を備えている。
その制御は前後に配置されたハイトコレクターバルブで行われる。ハイトコレクターバルブとはダンパーからのオイルライン1本とアキュムレーターからのオイルライン1本リザーブタンクに帰るオイルライン1本の計3本を繋がれたスライドバルブである。バルブの外側はボディに内側はサスペンションアームに固定されている。
平常時ハイトコレクターバルブは閉まっているが、荷物を積むなどして車高が下がるとバルブが押され、ダンパーオイルラインがアキュムレーターオイルラインと繋がり、アキュムレーター側は高圧に保たれているのでダンパー側にオイルが流れ込む、オイルが流れ込むと姿勢が元に戻り、それにともない押されたバルブも元に戻りオイルの供給は止まる。(図3、右上参照)
荷物を降ろすと今度は車高が上がり先ほどとは逆にバルブが引っ張られ、ダンパーオイルラインがリザーブタンクオイルラインと繋がり、圧力の掛かっていないリザーブタンクへオイルが流れる。オイルが戻ると姿勢が下がり引っ張られたバルブも元に戻る。(図3、右下参照)
ハイドロニューマチックでは、電気的なセンサーを使わず物体的現象のみで各機関を制御することが大きな特徴となっている。
[編集] ハイドラクティブ
基本的にはハイドロニューマチックサスペンションに電子制御のセンサーを追加し、欠点であった過度な姿勢変化を補正する機能を追加したものである。
センサーが、ハンドルの切れ角・回転速度、アクセル開度・開閉速度、ブレーキ圧、車速、車の揺れを感知し、その情報をもとにコンピュータがオイルバルブの開閉を制御する。
スフェアの数は、ハイドロニューマチックの4個に対し6個と前後に1個づつ増やされている。
その後、ハイドラクティブII、ハイドラクティブIII、ハイドラクティブIII+(プラス)と変化する。
ハイドラクティブIIIでは、サスペンション系とハンドル、ブレーキ系のオイル経路を完全に分離。また、車速や路面状況に応じて車高の自動制御も行われる。
ハイドラクティブIII にはハイドラクティブIIIとハイドラクティブIII+ が存在する。
ハイドラクティブIIIはハイドロニューマチックと同様サスペンションのスフィアは4つである。
ハイドラクティブIII+はハイドラクティブI や IIと同様前後に前後に一つずつの追加スフィアを持ち硬軟 モードの切り替えも自動で行う。硬軟切り替えのタイミングは "SPORT" ボタンで選択が可能である。
III及びIII+はエンジンにより組み合わせが決められている。ガソリンエンジンの2.0モデルは前期型ではIII+であったが後期型ではIIIに変更された。
[編集] 年表
- 1954年-シトロエン15-SIX Hのリアサスペンションとして採用。
- 1955年-シトロエン・DSの制御システムとして全面的に採用。
- 1956年-シトロエン・DSの廉価版IDのサスペンションとして採用。
- 1970年-シトロエン・SMの制御システムとして全面的に採用。
- 1970年-シトロエン・GSの制御システムとして全面的に採用。
- 1974年-シトロエン・CXの制御システムとして全面的に採用。
- 1982年-シトロエン・BXの制御システムとして全面的に採用。
- 1989年-プジョ−・405GR×4のリアサスペンションのバネと車高調整に採用。
- 1989年-シトロエン・XMの制御システムとして電子制御型ハイドロニューマチックであるハイドラクティブを全面的に採用。
- 1993年-シトロエン・エグザンティアの制御システムとしてハイドラクティブIIを上級グレードに採用。
- 2000年-シトロエン・C5のサスペンションとしてハイドラクティブIIIを採用。サスペンション以外の制御を切り離した。