ヒットエンドラン
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ヒットエンドラン(英: "hit-and-run" )は、野球における戦術の一つ。
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[編集] 概要
投球と同時に走者(多くの場合は、一塁走者)が次の塁へスタートし、その投球を打者が打つ戦術。略して「エンドラン」とも言われる。ゴロを打つことが最低条件で、出来ればライト方向に打つほうが良い。
バットに当てる必要があるので、ストライクが来る確率の高い(ピッチドアウトしづらい)投球カウントで実行されることが多い。打者はバットに当てることが上手な、そしてできれば右打ちが確実にできる選手であることが条件となる。
打者が打つことを前提に走者が走るのがヒットエンドランであり、走者が走ることを前提に打者は打つかどうかを決める戦術「ランエンドヒット」とは似て非なるものである。また、バントの構えから直前にヒッティングに切り替えて、かつ走者も走らせる作戦を「バスター」と「ヒットエンドラン」を合わせて「バスター・エンドラン」と呼ぶ。
[編集] 発案と受容
19世紀のメジャーリーグのシカゴ・ホワイトストッキングス (現シカゴ・カブス)に所属していたキング・ケリーが戦術の原型を考案したとされている。20世紀初頭にメジャーリーグの監督だったジョン・マグローは、初めてこの戦術を使ったシーズンで、1試合に12回挑戦して全て成功させたというエピソードを残している。このときの対戦相手だったボルチモア・オリオールズの監督は「こんなのが野球であってたまるか」と猛抗議したという。 近年の日本プロ野球では、2006年に広島の監督に就任したブラウンがこのヒットエンドラン戦術を多用している(その代わりバントは多くない)。
[編集] 戦術の得失
ヒットエンドランには、次の利点がある。
- 打球がゴロとなり内野手が捕ったときは、投球と同時にスタートした走者は既に次の塁近くに到達しているのでアウトをとりにくい。結果として併殺を回避でき、走者が進塁したことになる。
- 打球がヒットとなった際は、より先の塁に走者が辿り着きやすくなる。例えば、走者一塁でライト方向へヒットが出た場合、走者がスタートしていなければ多くのケースで結果は走者一塁・二塁であるが、ヒットエンドランをかけていると走者一塁・三塁(場合によっては一塁走者がホームインも)となることが多い。
- 打者が打つまでは、基本的に盗塁と見分けが付かないので、捕手の送球に備えて二塁手もしくは遊撃手のどちらかが二塁のベースカバーをする必要がある。そのため、一・二塁間もしくは三遊間が広く空くことになり、そこへ打球が飛んだ場合、安打になりやすい。
逆に次のリスクの可能性もある。
- 打球がライナーになった場合、すでにスタートしている走者が帰塁するのはほぼ不可能で、高確率で併殺となる。
- 打者が空振りまたは見逃した場合、単独盗塁を行ったのと同じになる。しかしヒットエンドランは、走者が単独の盗塁ができる選手でなくともサインが出ることがあるうえ、たとえ盗塁の得意な選手であっても、通常の単独盗塁よりスタートが遅めになり、またスタートの成否に関わらず盗塁の試行を余儀なくされるためアウトになる確率が高くなる。
- メジャーリーグで20世紀以降記録された12の無補殺三重殺の多くは、走者一・二塁でヒットエンドランを掛けたケースで発生している。ヒットエンドランにより一塁走者が二塁直近にまで到達しているため、二塁付近へのライナーを捕球した二塁手または遊撃手が容易に走者へ触球可能な位置となるためである。
[編集] 応用戦術
打者がヒッティングする代わりにバントを行う作戦をバントエンドランと呼ぶ。バントでは一・二塁間や三遊間安打は望めないが、守備力の高くない相手に対しては、
- ヒッティングよりも確実にバットに当てることができ、走者の二進が確実になる。ライナーの心配が無い(ただし小飛球でも併殺になる可能性は高い)。
- 走者二盗の際に二塁手か遊撃手のどちらが二塁カバーに入るか予め見極められれば、
- 二塁手が二塁カバーするなら、一塁線へ一塁手と投手のどちらが捕るか躊躇するようなバントをする。そうすれば一塁カバーが不在となり打者が一塁に生きる確率が高くなる。
- 遊撃手が二塁カバーするなら、三塁線へ三塁手と投手のどちらが捕るか躊躇するようなバントをする。三塁カバーが不在となり一塁走者が一気に三進できる確率が高くなる。
バントエンドランのうち走者を三塁に置いたものをスクイズと見ることもできる。