ピトー管
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
ピトー管(—かん)は流体の流れの速さを測定する計測器である。発明者であるHenri Pitotにちなんで命名され、Henry Darcyにより改良された。航空機の速度計などに使用される。ほかに風洞でも使用される。
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[編集] 仕組み
基本的な構造は2重になった管からなり、内側の管は先端部分に、外側の管は側面にそれぞれ穴が開いている。二つの管は奥で圧力計を挟んで繋がっており、その圧力差を計ることができるようになっている。
ピトー管は、先端を流れに正対させて使用する。側面の穴(外側の管)は流れの影響を受けないため、ここには静圧がかかる。一方、先端にある穴(内側の管)には静圧と流れによる動圧とを合わせた全圧(総圧とも)がかかる。この全圧から静圧を引いた差圧(動圧)を測定し、ベルヌーイの式を適用することで流体の速度を計算することができる。
このように、側面に穴(静圧孔)を備え、単体で全圧と静圧の両方を測るタイプのピトー管はピトー静圧管とも呼ばれる。狭義のピトー管は、側面に静圧孔を持たず、全圧のみを測定するものである。この場合、静圧はピトー管とは別の位置に設けられた静圧孔から、センサあるいは計器へと導かれる。
[編集] 航空機のピトー管
ある程度以上高速の航空機において、ピトー管は最も一般的な速度計測手段である(飛行船程度の低速が計測下限)。他の航空機に比べ相対的に揚力の少ないジェット戦闘機等では、特に着陸時の対気速度が判らないのは致命的となるので、離陸前にピトー管カバー取り外しの確認作業が重要である。
ピトー静圧管か、純粋なピトー管と胴体側面などに設けられた静圧孔とからなる。こうした、速度や高度(静圧は高度指示にも利用される)といった非常に重要なシステムでは、複数のピトー管と複数の計器を互いに独立して設け、冗長性が高められていることが多い。全圧をピトー管からセンサや計器へと導くチューブやホースにはリーク(漏れ)があってはならない。
[編集] 設置位置
正確な測定のために、ピトー管は境界層の外側で、かつ流れの乱れが小さな場所に設置される:
- 機首先端 - 現代の戦闘機やF1に多い。また、試験飛行を行うプロトタイプの航空機では、さらに正確な計測が要求されるため長いブーム(棒)の先端に設けられることがある
- 機首側面 - 旅客機やヘリコプターに多い。横風の影響も考慮し、ふつう機首の両側面に設けられる
- 翼下 - 単発の小型プロペラ機などで機首に設置できない場合、胴体からやや離れた翼の下面に置かれることがある。片翼下のみのことが多い(おそらくコストの点から)
機首側面と翼下の場合、流速の遅い境界層から距離をとるために、ふつうL字型に曲げられている。静圧孔を別に持つようなシステムの場合、横風による誤差を軽減するため、静圧孔はふつう胴体両側面に設けられる。
F/A-22。機首先端 |
V-22オスプレイの試験機。赤いブームの先端 |
ボーイング 307。機首下側面 |
フォッカー F50。機首側面 |
ユーロコプター タイガー。機首側面 |
セスナ 182。左翼下 |
[編集] 防氷
気温が氷点下に達する上空では、水分が凍結し、ピトー管や静圧孔を閉塞してしまう可能性がある。速度や高度システムの指示が異常となり、事故に繋がる危険性がある。これを防ぐために、電熱線などによる防氷システムが備えられていることが多い。
[編集] 関連項目