ポリネシア諸語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ポリネシア諸語(-しょご)はポリネシアで話されている、互いによく類似した一群の言語。アウストロネシア語族のマレー・ポリネシア語派に属する。
- しばしば混同されるが、マレー・ポリネシア語派はポリネシアを含む太平洋諸島、東南アジア島嶼部からマダガスカルに至る様々な言語(インドネシア語やタガログ語なども含む)からなり、ポリネシア諸語はそのうちのごく一部にすぎない。後述のポリネシア諸語の特徴も、多くのマレー・ポリネシア諸語と異なる点がある。
[編集] 系統
中核ポリネシア諸語(サモア語、ツバル語、タヒチ語、ハワイ語、マオリ語など大部分のポリネシア諸語を含む)とトンガ語群(トンガ語、ニウエ語)とに分けられる。ポリネシア以外にも飛地状にポリネシア系住民の住む地域(域外ポリネシア)があり、これらで用いられる言語もポリネシア諸語である。
またメラネシアの東フィジー語群(フィジー語を含む)および西フィジー・ロトゥマ語群も近い関係にあり、これらをまとめて中央太平洋諸語と呼ぶ。
歴史的には、メラネシア方面からポリネシアと接する地域(フィジーなど)を通して伝えられたラピタ文化が、トンガ・サモア方面でポリネシア文化に発展し、さらにこの人々が東部の島々に移住したと考えられており、上記のような言語の系統もその証左となっている。
[編集] 特徴
ポリネシア諸語は互いによく似ており、例えばタヒチ語のTahiti(タヒチ)がハワイ語ではKahikiとなるなど、多くの語彙の間に明瞭な音韻対応が見られる。音韻的には典型的な開音節語で、音節は子音+母音または母音のみからなり、母音はu・o・a・e・iの5種類で長・短の区別がある。子音の種類は多くないが、声門破裂音を持つ言語が多い。ハワイ語表記でHawai'iの ' が声門破裂音である(現在ハワイではこの表記が地名表示などにも使われる)。日本語と同様に、外来語の重子音・語末子音には母音が挿入される。
例:
Christmas→日本語Kurisumasu、ハワイ語Kalikimaka(ハワイ語にはsの音がないためkで代用)
語順はVSO型が多いが言語によって異なり、かなり自由なものもある。また一部に能格言語がある。形容詞・修飾語は一般に名詞の後につけるが、冠詞(単数定冠詞teなど)は名詞の前につける。文法関係は語順や前置詞などで示す。
また特異な共通点として、所有表現にa-クラスとo-クラスの区別がある。前者はある人・物によって作られた・所有されているなど(譲渡可能)を表現し、後者はそうでないもの(切り離せない何らかの関係)を表現する。例えばマオリ語では聖書のエレミヤ書(エレミヤが書いたとされる本)をTe Pukapuka a Heremaia、ヨシュア記(ヨシュアのことを書いた本)をTe Pukapuka o Hōhuaという(この場合のaとoは前置詞的に用いるが、所有形容詞にも区別がある)。
マレー・ポリネシア祖語にあったと考えられる語末子音や、接辞による語形成は消失しているが、畳語が多い点は受け継がれている。人称代名詞の一人称双数・複数「われわれ」には、他の多くの言語と同様に包括形・除外形(話し相手を入れるか入れないか)の区別がある(サモア語には一人称単数の包括形というのがあって、相手に甘える言い回しに用いる)。