ミス・マープル
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ミス・マープル(ジェーン・マープル、Miss Jane Marple)は、アガサ・クリスティ作の推理小説に登場する架空の老嬢。クリスティ作品の中ではエルキュール・ポアロと並ぶ代表的な主人公である。「牧師館の殺人」から、マープルシリーズ最後の作品と同時にアガサ・クリスティ最後の作品になる「スリーピング・マーダー」まで12の長編と20の短編に登場し人気を集めた。
厳密な初登場作品は1927年に雑誌に掲載された短編「火曜クラブ」である。しかし、「火曜クラブ」が短編集として刊行されたのは1932年になり、その2年前の1930年に長編「牧師館の殺人」が刊行されている。そのため初登場作品は「牧師館の殺人」と表記される場合が多く、このページもそれに準じる。
目次 |
[編集] 作品
- 初登場作品については前述した通り「牧師館の殺人」になる。また、最後の作品である「スリーピング・マーダー」はマープルシリーズの完結を目的として1943年に執筆されており、「カーテン」と共に死後出版の契約を結び、クリスティの死後1976年に刊行されている。
長編
- 1930年 牧師館の殺人
- 1942年 書斎の死体
- 1943年 動く指
- 1950年 予告殺人
- 1952年 魔術の殺人
- 1953年 ポケットにライ麦を
- 1957年 パディントン発4時50分
- 1962年 鏡は横にひび割れて
- 1964年 カリブ海の秘密
- 1965年 バートラム・ホテルにて
- 1971年 復讐の女神
- 1976年 スリーピング・マーダー
短編
- 1932年 火曜クラブ (「火曜クラブ」他12話を収録)
- 1939年 黄色いアイリス (「ミス・マープルの思い出話」を収録)
- 1950年 愛の探偵達 (「奇妙な冗談」他3話を収録)
- 1960年 クリスマス・プディングの冒険 (「グリーンショウ氏の阿房宮」を収録)
- 1961年 教会で死んだ男 (「教会で死んだ男」を収録)
- 純粋にマープルシリーズのみの短編集は「火曜クラブ」のみである。(その他は、ポアロなどの短編も収録されている。)
- 舞台は主に彼女の住むセント・メアリ・ミード村であるが、他の探偵物のように出掛けた先で事件に遭遇するということも少なくない。(「予告殺人」「魔術の殺人」など)
[編集] 人物
- 性格は極めて温厚であり人好きするタイプの人間である。まさに一般にイメージされるような優しいおばあちゃんである。
- ヴィクトリア朝後期にロンドン近郊の中流家庭に生まれる。人並みの人生を送るが、両親に結婚を反対されたことから独身を貫くことを決め、ロンドンから45マイル程離れたセント・メアリ・ミード村に移住する。その後は、編み物や刺繍、庭いじりを趣味として村に閉じ篭ったような暮らしぶりだった。(ただし、買物のために知り合いとロンドンまで出かけるなど、社交性が無いというわけではない。)
- ある時、一緒に住む作家である甥のレイモンド・ウェストらによって作られた"火曜クラブ"(訳によっては"火曜ナイトクラブ")にて、家を会合の場所として貸すこととなる。当初は村以外のことは何も知らない老婆と見られて、参加者から軽んじられていたが、参加者が話す迷宮入り事件を完璧に解き、探偵としての才能を認知される。
- なお、村の中で起こった小さな事件などを解決することもあるらしい。
- イタリアの寄宿女学校に留学していた経験を持ち、一通りの教養は揃えている。
[編集] 推理法
- 起こった出来事もしくは話された内容を、自身の経験、特にセント・メアリ・ミード村で過去にあった出来事に当てはめることで推理をするという点に最大の特徴がある。(唐突に、一見無関係のような昔話を始めるので、初めて会った者は彼女を馬鹿にすることが多い。)このような推理法が可能なのは一重に彼女の人物に対する観察力と長年の経験に裏付けられた洞察力によるものである。
- このような理由から、他の探偵達と比べると論理的な推察よりも、主に動機面から推理を始める傾向が強い。このような傾向は、クリスティ作品全般に言えることだが、ミス・マープルはその性質上特にこの傾向を強く持っている。
- 推理スタイルや実質初登場作品である「火曜クラブ」などにより安楽椅子探偵のイメージが強いが、自分から事件現場に赴いたり、出掛けた先で事件に遭遇することも多い。
[編集] その他
- ポアロ物と人気を二分し、クリスティファンの中にはポアロとマープルを一緒に登場させて欲しいというファンレターが多く寄せられたが、クリスティ自身はポアロの性格とマープルの性格が合わないとしてこれを拒否した。結果としてポアロとマープルが同一作品に登場することは無かった。
- ミス・マープルのモデルとなったのは作者の祖母と見られている。また、マープルの原型と呼べる人物が、同作者の作品「アクロイド殺し」に既に登場している(シェパード医師の姉・キャロライン)。これらはどちらもクリスティ自身が述べている。
- セント・メアリ・ミード村自体は架空の村であるが、当時の英国の価値観としてどこにでもあるのどかな村のイメージで作られている。村の名前はすでに1928年のポアロもの長編『青列車の秘密』に出ている。
- 現在まで様々な映像化がなされているが、中でも1984年から1992年にかけてイギリスBBCにより制作された『Agatha Christie's MISS MARPLE』は、長編12編すべてをテレビドラマ化している上、主演のジョーン・ヒクソンの上品な演技も相まって、人気を博した。今ではミス・マープルといえばジョーン・ヒクソンのイメージが定着している。日本でもNHK、テレビ東京で放送され、故山岡久乃の声とともに大変な人気を得ている。
- 2004年、これまでのBBC系列ではなく独立系のITVにおいて、新シリーズが製作された。主演のミス・マープルにはジェラルディン・マクイーワン(en: Geraldine McEwan)を起用。2007年現在第3シリーズまで製作されている。日本では200612月にNHK-BS2にて放送され、主人公のミス・マープルの吹き替えは故岸田今日子が担当した。岸田は放送後の2007年12月17日に他界したため、奇しくも本作が遺作となった。
- また、同名のJane Marpleという婦人服ブランドがある。