十三人の刺客
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『十三人の刺客』(じゅうさんにんのしかく)は東映京都撮影所製作、工藤栄一監督、片岡千恵蔵主演により、昭和38年(1963年)12月7日に封切られた日本映画の時代劇である。実録タッチの作風による集団抗争時代劇として有名。約30分に及ぶクライマックスの13人対53騎の殺陣シーンは、時代劇映画史上最長とされる。
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[編集] あらすじ
弘化元年(1840年)、明石藩江戸家老間宮図書の抗議自殺をきっかけとして、明石藩主松平斉韶の異常性格と暴政が幕閣の知るところとなるが、将軍徳川家慶の弟である斉韶を幕府は容易に処罰できかねていた。しかし、事情を知らない将軍が斉韶を老中に抜擢する話が持ち上がったために、筆頭老中土井利位は暴君斉韶の排除を決意する。利位の命を受けた旗本島田新左衛門は13人の暗殺部隊を組織して、参勤交代で帰国途上の斉韶一行を襲撃するのだった。
[編集] 特色
集団抗争時代劇は1963年7月に封切られた『十七人の忍者』(長谷川安人監督)によって生まれ、その年の暮れに公開された『十三人の刺客』によってジャンルとして確立されたといわれている。この両作品とも、天尾完次の企画によるものである。ただし集団抗争時代劇という言葉は、時代劇映画全般に適応されるものではなく、あくまでも東映京都撮影所で作られる時代劇のみに用いられたものである。集団抗争時代劇の特色としては、まず史実に基づいたリアリズム・タッチであること、モノクロ映像によってそのリアリズムを引き立てること、そして権力闘争の結果として集団による乱闘劇がクライマックスに用意されることが挙げられる。『十三人の刺客』の場合は、明石藩は架空の藩であり、松平斉韶暗殺もフィクションではあるものの、その根底には徳川家斉の大御所時代が招いた弊害という史実が据えられている。こうした集団抗争時代劇が生まれた背景には、今井正監督の『武士道残酷物語』などのリアリズム時代劇のヒットがある。また、テレビの登場によって映画界全体が衰退する中で、スターを大量に抱える撮影所が彼らを有効活用するために忠臣蔵のようなオールスターキャストによる集団劇を模索した結果であるという説もある。
クライマックスである罠を仕掛けられた木曽落合宿での13対53の殺陣シーンは、映画のテーマである「平和な時代に人を斬ったことのない侍が刀を持った時の殺陣」を表現するために1対1の対決を極力避け、集団戦をメインに据えている。撮影にあたっては、殺陣師が殺陣を綿密に指示するのではなく、ヨーイドンの掛け声と共に刀を持った明石藩側の俳優たちを自由に動かし、そこに刺客側の俳優が現われると一斉に斬りかかるというラフな演出を行うことで、斬り合いの混乱をリアリスティックに再現した。また、この作品では手持ちカメラによる移動撮影が採用され、逃げ惑う侍たちや、大人数を相手に修羅場を駆け回る刺客たちの姿をダイナミックに捉えている。
[編集] 関連作品
- 『四十七人の刺客』(小説)=脚本を担当した池上金男が、後に池宮彰一郎のペンネームで発表した忠臣蔵もの。大石内蔵助ら赤穂浪士を、当時の権力闘争に利用された「刺客」とした点で『十三人の刺客』と同じ性質を持っている。なお、登場人物の台詞は『十三人の刺客』から多数引用されている。
- 『大殺陣』=『十三人の刺客』のヒットを受けて、工藤栄一が1964年に作った集団抗争時代劇。里見浩太郎主演。こちらも将軍継嗣問題を巡りクライマックスで暗殺者が将軍後継者を襲撃する内容だが、『十三人の刺客』とは異なり、刺客が暗殺を成功させるための計画性は一切排除され、そのぶん衝動的な暴力性がより強調されている。工藤はその後、東映が仁侠映画路線に移行した時期に、『十一人の侍』(1966年)で再度集団抗争時代劇を作っている。
他に、近衛十四郎主演による『十兵衛暗殺剣』(1964年 倉田準二監督)、『忍者狩り』(1964年 山内鉄也監督)、『幕末残酷物語』(1964年 加藤泰監督)などが、集団抗争時代劇と呼ばれている。また、集団抗争時代劇のジャンルには入らないが、内田吐夢監督の『宮本武蔵 一乗寺の決斗』(1964年)におけるクライマックスの決闘シーンも、この頃の時代劇映画の特色を反映したものとなっている。
[編集] リメイク
1990年にフジテレビ時代劇スペシャルでテレビドラマとしてリメイクされた。仲代達矢が島田新左衛門、夏八木勲が鬼頭半兵衛をそれぞれ演じている。また、丹波哲郎がオリジナルと同じ土井利位役で出演して話題となった。
[編集] スタッフ
- 監督=工藤栄一
- 企画=玉木潤一郎、天尾完次
- 脚本=池上金男(池宮彰一郎)
- 撮影=鈴木重平
- 音楽=伊福部昭
- 美術=井川徳道
- 装置=西川春樹
- 装飾=川本宗春
- 録音=小金丸輝貴
- 照明=増田悦章
- 編集=宮本信太郎
- 語り手=芥川隆行
[編集] キャスト
(刺客)
- 島田新左衛門(直参旗本)=片岡千恵蔵
- 島田新六郎=里見浩太朗
- 倉永左平次(与力)=嵐寛寿郎
- 三橋軍太夫(倉永配下)=阿部九州男
- 樋口源内(三橋配下)=加賀邦男
- 堀井弥八(三橋配下)=汐路章
- 日置八十吉(倉永配下)=春日俊二
- 大竹茂助(倉永配下)=片岡栄二郎
- 石塚利平(倉永配下)=和崎俊哉
- 平山九十郎(島田家食客)=西村晃
- 佐原平蔵(浪人)=水島道太郎
- 小倉庄次郎(九十郎の弟子)=沢村精四郎
- 木賀小弥太(木曽落合宿郷士)=山城新伍
(明石藩)
- 松平左兵衛督斉韶(藩主)=菅貫太郎
- 鬼頭半兵衛=内田良平
- 浅川十太夫=原田甲子郎
- 丹羽隼人=北龍二
- 小泉頼母=明石潮
- 出口源四郎=有川正治
- 仙田角馬=小田部通麿
- 間宮図書(江戸家老)=高松錦之助
- 間宮織部=神木真寿雄
- 間宮小浪=高橋漣
- 大野多仲=堀正夫
(幕府)
- 土井大炊頭利位(筆頭老中)=丹波哲郎
- 老中=香川良介
(尾張家)
(その他)