地方分権
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地方分権(ちほうぶんけん)とは、特に政治や行政において、国家権力を地方自治体に移して分散させる体制を指す。政治・行政以外の組織体では、分権組織と呼ぶ場合もある。対義語は中央集権。
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[編集] 特徴
[編集] 長所
- 各地方が、その地方の事情に合った、適切な業務を行うことができる。
- 中央が機能不全に陥っても、それをバックアップできる。
[編集] 短所
- 中央の統率力が弱いので、国家全体で総まって仕事をする時には不便である。
- 地方組織の規模が小さ過ぎると、運営に支障を来す事がある。
[編集] 「地方分権」と「地方主権」
一部の政治家や団体などで、「地方主権」「中央主権」という語が使用されている。本来、「主権」とは「国家の統治権」を意味する語であり、現在の日本では主権在民の思想の下、内閣総理大臣がそれを代行している。そのため、本来の意味からすれば、「地方主権」や「中央主権」という語は存在し得ない。
「地方主権」「中央主権」における「主権」という語は、財源と権限における「主導権」の略、若しくは「主体性」の比喩表現として用いられており、「国家の統治権」を意味する所の「主権」とは異なる。以下に、「地方主権」「中央主権」という造語を使用する一部の政治家や団体の主張に沿った定義を記載する。
「地方分権」という場合、平成期の日本のように、中央政府が指揮命令権を持ったまま、地方を「出張所」として仕事を投げ売りするケースも起こり得る。このように、地方統治の合理化としての「地方分権」は、「中央分権」と揶揄される事もある。
この場合、地方が主体性を持つとの意味で、「地方主権」という語を用いて、「中央主権のままの『地方分権』」と区別する事もある。
更に、「地方分権」や「地方主権」といっても、基礎自治体(市や村)が主体なのか、県が主体なのか、道が主体なのか、というように、どの規模の地方自治体が主体性を持つかによって、意味合いも異なる。
[編集] 各国の事情
アメリカ合衆国など、連邦制を敷いている国家は、地方分権的傾向が大きい。
(※ 基礎自治体を青、県規模の広域自治体を緑、道規模の広域自治体を赤で示す。)
[編集] 日本
- 単位系:市・町・村<都・府・県・道<中央政府:二層制
江戸時代の日本は、幕府という中央政府は存在するが、藩という「地方王国」に権限が下ろされていた。但し、藩の大名は、参勤交代による江戸への出張や、幕府の公共事業への強制的な出費や参加も命じられており、半ば中央統制的な面も有していた。
明治維新で廃藩置県が実施されると、強固な中央集権体制を作り上げ、135年が経った現在も変わっていない。
2000年施行の地方分権一括法では、機関委任事務が廃止され、国家と地方公共団体が名目上では対等な関係とされている。しかし、中央政府主導で基礎自治体を合併させるなど、上から強制する姿勢で、「地方自治」と相容れない現象も起きている。
小泉純一郎政権は、「三位一体改革」による地方分権を進めようとしているが、地方への財源と権限の保障が曖昧であるため、地方公共団体からは「『地方主権』からは程遠い」と指摘する声も少なくない。
又、道州制論議も、首都の政財界(諸井虔など)が区割りを勝手に決めている状況であり、財源と権限に関する論議が行われていない。
[編集] アメリカ合衆国
- 単位系:シティ・タウン・ヴィレッジ<州<連邦政府:二層制
アメリカ合衆国は、連邦政府の力が弱く、州が大きい自治権を持つ地方分権国家である。二度の世界大戦と、戦間期の不況やニューディール政策期を経て、連邦政府の権限と影響力は大幅に拡大したものの、なお州が独自の立法権を持ち、それぞれ憲法や軍を所持しており、連邦政府の管轄は合衆国憲法で定められた分野に限定され、合衆国憲法の改正に州議会の承認が必要になるなど、各州が高い独自性と決定権を持つことに変わりはない。 また、地方制度の構築に関する権限は、基本的に州に与えられており、具体的にどのような種類の地方団体が設けられるかは州及びその地域ごとに異なっている。
[編集] ドイツ
- 単位系:ゲマインデ<クライス<州<連邦政府:三層制
ドイツは、「連邦共和国」という名称にもあるように、十六の州(ラント)が強い自治権を持った連邦制であり、地方分権の進んだ国家といえる。州は独自の憲法と法体系を持ち、独自の行政権を持ち、司法権も州の権限が強い。 また、地方制度に関する統一法典はなく、地方自治体の組織や運営については、各州が制定する法律によって、それぞれ異なる制度が設けられている。 なお、バイエルン州などに見られるように、州都への一極集中が起こっている州も存在する。
ゲマインデ(基礎自治体)は独自性も比較的強いが、(小さな)基礎自治体同士の広域連合体として、クライス(郡)が結成されている所もある。又、州政府の出張所(下部行政区画)をクライス(県)と呼ぶ州も存在する。
歴史的に見ると、ドイツは小国家(バイエルン王国、ハノーファー王国など)が分立していた期間が長く、ドイツ帝国時代も地方分権の気運が強かった。ヴァイマル共和政時代も地方分権制だったが、ナチ政権の時代になると州議会は解散させられ、州の行政権も中央に移されて強力な中央集権・中央主権体制が敷かれ、アドルフ・ヒトラーの独裁政権を作った。
現在のドイツで地方分権が進んでいるのは、ナチ政権の再来を防ぐ意味と、ドイツの大国化を避けたい外国の思惑もある。
[編集] 関連項目
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