中央集権
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中央集権(ちゅうおうしゅうけん、centralization)
対義語は、行政や政治では地方分権、その形態では連邦制など。その他の分野では分権組織など。
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[編集] 特徴
中央集権の行政システムや組織では、組織全体から収集した情報を基に、一極の意思決定組織が全体を統括・管理する。
ピラミッド型の階層が形成される事が多く、上層が財源や決定権を持ち、下層になるほど機能が細分化されたり、財源や決定権が小さく制限され、上下方向の統制がより強化される傾向を持つ。
又、上意下達と情報収集の機関として、中間組織が形成される。特に行政における中央集権では、出先機関が多く設置される。
このような形態を採る行政制度や組織の特徴は、概ね次の通りである。
[編集] 長所
- 上層部においては、全体的な情報を吸い上げる事が容易であり、全体において何が起きているかを把握する事が容易である。又、多くの情報を基に、全体一律に命令を下す事も可能である。
- 命令の上意下達や、権限の優先順位も決まっている為、決定と実行の間の確実性が高まり、責任の所在も明確になる。
- 大量・迅速を要求される物事では、実行が終わるまでの期間が短く済む。
- 全般に、少数の意思決定者には、行動の自由度が高まる。
- 統一的な判断により、規模の経済が発揮される。
[編集] 短所
- 情報を吸い上げる能力が低下したり、上層の判断能力が低下した場合には機能不全に陥る。下部組織(支社、営業所など)は決定権を持たない為、中央組織(本社)が健全に機能する事が、運営上の必要条件である。
- 「大から小へ」の序列になるので、特に政治・行政においては、上層(国家)の立場や決定権が優先され、下層(都市や村落)の立場や決定権が軽視され易い。その為、業務が画一的になり易く、個別案件への柔軟な対応が難しくなりがちである。
- 現場に委ねられる責任と権限が限定される為、横方向(組織間など)の連繋が希薄になり、組織横断的な業務では情報伝達の阻碍、業務の遅延、非効率化が起こり易い。これは、俗に「縦割り行政の弊害」などと呼ばれる。
[編集] 歴史
歴史は、一般的に中央集権と地方分権の循環である。傾向としては:
- 多数の勢力が分立して、その中で大きな力を持つ者が現れる。
- 他の勢力を支配下に収める。
- 中央集権国家が形成される。
- 中央によって形成された下部組織の中に、有力な者が現れる。
- 中央の権限が縮小し、多数の勢力へ分散される。
という循環が多く見られる。
近代以前に成立した中央集権国家では、最高権力者を国王などとする君主制国家が構成されている場合が多い。一方、現代に成立した国家では、最高権力者を大統領などとする共和制国家が形成される場合が多い。国王(王家)の存在は、その国が中央集権体制である、或いはかつて中央集権体制であった事の表れであるが、共和制国家については必ずしも分権国家であるとは限らない。
[編集] 日本
日本において中央集権国家が成立した時期は、律令制の時代や明治維新の時代が代表的である。中央集権型政権は、律令時代では古代天皇制(本拠地:大津京、奈良、京都など)、明治維新期には明治政府(本拠地:東京)がこれに当たる。
現在の日本は、明治維新以来135年以上に渡って、中央集権の形態となっている。しかし、首都たる東京の政財界、とりわけ多国籍企業のリーダーたち(奥田碩〈経団連〉、諸井虔など)が主導し、中央政府(永田町と霞ヶ関)が財源と権限を持ったまま、地方を「出張所」のような位置付けで地方分権を進めようとしている状況である。
この為、政治・経済のシステムから街造りに至るまで、東京一極集中の縮小版が各地方で造られている。中央省庁の出先機関が集中する都市は、中央省庁の出先機関に引きつられて企業の支店や人口が集まり、過密化と一極集中が加速している。
その一方で、多くの基礎自治体(市町村)は、中央政府の合併促進策によって財源と権限を減らされた結果、合併で行政権を失って、過疎化や衰退が加速している。この様相を、「中央分権」「ミニ中央集権」と揶揄する声もある。
- 律令時代(特に奈良時代)の中央政府の所在地
- 明治維新以降の中央政府の所在地
- 「○○地方」という呼称は存在するが、「○○地方」の範囲は五畿七道のように統一されておらず、中央省庁によってバラバラである。又、地方公共団体の単位の定義すら、明記・統一がされていない。
[編集] 世界的な流れ
17世紀以降に、ヨーロッパの絶対王政において中央集権型統一国家が成立した。これ以後、中央集権国家はその機動性で分権国家を凌ぎ、次第に霸権主義へと転化して行った。この影響を受けて、中央集権国家になる国家と、敗北して植民地になる国家とに分かれた。
中央集権国家は、次第に国民国家として統一色を強め、帝国主義国間の戦争へと至った。戦後、それらの中央集権国家は経済復興へ傾斜し、世界的な経済成長をもたらした。しかし、次第にその問題点が露見し、世界的な分権化や水平ネットワーク化が進展している。
それ以前の世界では、古代中央集権国家の残した環境の下で維持可能な体制として、長く分権的な体制が支配的であった。
[編集] 現在の代表的な中央集権国家
- 日本(象徴君主制)
- 大韓民国(共和制、旧立憲君主制)
- 朝鮮民主主義人民共和国(名目上は共和制だが、実際は軍事政権の世襲)
- 中華人民共和国(共和制)
- タイ王国(立憲君主制)
- フランス(共和制、旧立憲君主制)
- スペイン(立憲君主制)