首都
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首都(しゅと)は、一般に国の政府あるいは連邦政府が所在し、国家の政治機能の中枢を担う都市である。
南アフリカ共和国のように首都が複数存在する国もあるように、首都機能と呼ばれる国の政治中枢機能が複数の都市に分散されている国も存在する。
外国大使館は基本的に首都に置かれるが、イスラエルのように、承認に係る事情から外国大使館が他の都市(テルアビブ)に置かれる事例もある。
その国の経済の中心地とは一致しない例も多数ある。首都がその国最大の経済の中心でもある国(日本、フランス、ロシア連邦、英国、韓国、北朝鮮など)とそうでない国(米国、トルコ、中国、ベトナムなど)とがある。
なお主権国家として承認されている都市国家については、一つの都市が主権を持ち国家となっているため、理論上「首都」は存在しないことになっているシンガポールの例もある(モナコは首都であるモナコ市のみが存在する国である。)。
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[編集] 類義語
- 首都圏
- しばしば「首都」と「首都圏」は混同されるが、「首都」は、政府機関が置かれている都市(点)であって、「首都圏」は首都とその周辺に広がる首都の影響下にある範囲、すなわち圏域(面)である。首都圏を一個の地方行政区分とする例(フィリピンのマニラ首都圏)から、日本のように一部の法律に定義される程度の事例まで存在する。また中国の北京市など、首都である地方行政区分そのものの区域を拡げる例もある。
- 首府
- グリーンランドなど非独立国や連邦国家を構成する地域の政庁所在地や、国家内に存在する小国家(例:日本の藩)の政府所在地は、首府と表記される場合もある。
[編集] 日本の首都
- ※詳細は「日本の首都」も参照せよ。
日本の首都については、一般的に東京都(実際にはその特別区。旧東京市)とされるが、それを定めた法令は無く、法的には京都府であるとする説まである。また、東京都区部は、経済的な影響力が周辺の都市にも広大に及んでいる。東京都としては、何度か日本の首都がどこかを法的に明確にすべきだとの要望を出しているが、実現していない。
[編集] 世界の首都
- ※「首都の一覧」も参照せよ。
[編集] 法律上の首都と事実上の首都
憲法や法律で「首都」を規定している国家では、法的な首都と政府機関の集中する事実上の首都が異なる例が存在する。
オランダの政府機関は独立以来ハーグにあるが、憲法上はアムステルダムを首都としている。ボリビアでは、最高裁判所以外の政府機関が最大都市のラパスに移った後もスクレを首都としている。タンザニアでは法律上はドドマに首都を移したものの、政府機関のほとんどは未だ最大都市のダルエスサラームにある。
また、中華民国(台湾)のように、実質上の首都は台北であるが、それは「臨時首都」に過ぎず、あくまで首都は南京であると主張するように、実際には統治していない場所を政治的理由から首都と主張する事もある。これは、南京は中華人民共和国の支配下にあるが、中華民国がかつて南京に首都を置いていた事に由来する。朝鮮民主主義人民共和国の首都は平壌であるが、1972年までは、憲法上の首都はソウルであり、平壌は統一までの臨時首都とされた。
イスラエルは議会の決議によりエルサレムを首都と称し、政府機関の多くもエルサレムにあるが、国連や諸外国の多くはこれを認めず、テルアビブを首都とみなしている。
王国では、王宮所在地と首都は必ずしも一致しない。
[編集] 首都と主要都市
首都は、国政の中心として交通の便が良い場所に建設される事が多い。従って、首都と国家内最大都市は、必ずしも一致しない。
これらの国家では、政治の中枢都市と経済の中枢都市を棲み分けして、政治の中枢都市を首都とする国家が多い。例えば、以下のような例が挙げられる。
- 中華人民共和国の首都北京(政治の中枢)と、最大都市の上海(経済の中枢)
- ベトナムの首都ハノイと、最大都市のホーチミン(旧南越首都。旧称:サイゴン)
- インドの首都デリーと、最大都市のムンバイ
- スリランカの首都スリジャヤワルダナプラコッテと、最大都市のコロンボ
- パキスタンの首都イスラマバードと、最大都市のカラチ
- カザフスタンの首都アスタナと、最大都市のアルマトイ
- アラブ首長国連邦の首都アブダビ(政治の中枢)と、経済・観光の中心都市ドバイ(経済の中枢)
- トルコの首都アンカラと、最大都市のイスタンブール
- イスラエルの首都エルサレム(国連は認めていない)と、最大都市のテルアビブ(実質上の首都)
- モロッコの首都ラバトと、最大都市のカサブランカ
- コートジボワールの首都ヤムスクロと、最大都市のアビジャン
- ナイジェリアの首都アブジャと、最大都市のラゴス
- 現ロシア連邦の首都モスクワと、旧ロシア帝国の首都サンクトペテルブルク
- アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.(政治の中枢)と、最大都市のニューヨーク(経済の中枢、建国当初の首都)
- カナダの首都オタワと、最大都市のトロント
- ブラジルの首都ブラジリアと、最大都市のサンパウロ
- オーストラリアの首都キャンベラ(政治の中枢)と、最大都市のシドニー(経済の中枢)
- ニュージーランドの首都ウェリントンと、最大都市のオークランド
[編集] 遷都の例
首都の移転の例としては、古代の中国の遷都やロシア帝国からソビエト連邦の成立など政府の交代に伴って首都を移転する例、かつてのリソルジメント期におけるイタリア王国(トリノ→フィレンツェ→ローマ)や、東西統一後のドイツ(ボン→ベルリン)のように、領土の拡大に応じて首都を移転する例や、アメリカ合衆国やオーストラリア、ブラジルのように、新たに首都として計画都市を建設する例がある。また、朝鮮戦争時の韓国と北朝鮮のように、戦線の移動による占領地域の変化によって遷都が行われている例もある。
[編集] 傾向
一般に、首都は過密地域になりやすい。これは、政府機関(国家機関)が置かれているために、政府機関の周りに企業が密集するためである。このように、本来、首都は政治の中心地であるが、経済の中心地になる事も珍しくない(例:東京、ソウル)。こういう経過に至った国家では、遷都によって新しい都市を首都に選定したり、前述のように経済の中心地ではない都市を首都に選定する事もある。
但し、ブラジリア(ブラジル)やキャンベラ(オーストラリア)のように、何もない原野などに国会議事堂や中央省庁だけを建設した場合は、この限りではない。ベリーズの首都であるベルモパンに至っては、人口が1万人未満である。
[編集] 特別市
一市単独で広域自治体(県や州)を構成する市は、特別市と称される。特に首都は過密化しやすい点から、特別市となっている所が多い。
又、首都以外でも、首都に対するカウンターカルチャーの発達した大都市(大抵は1つ)は、特別市とされる所もある。
- 一市単独で「県」を構成する首都
- 一市単独で「州」を構成する首都
- ソウル特別市(大韓民国)
- 北京市(中華人民共和国)
- バンコク首都府(タイ王国)
- ジャカルタ特別市(インドネシア)
- ベルリン特別市(ドイツ)
- ウィーン市(オーストリア)
- ワシントンD.C.(アメリカ合衆国)
- メキシコシティ(メキシコ)
- ブラジリア市(ブラジル)
- サンティアゴ市(チリ)
- 首都以外で、一市単独で「州」を構成する市
- 釜山広域市(大韓民国)
- 上海市(中華人民共和国)
- 自由ハンザ都市ハンブルク(ドイツ)
[編集] 首都の選定
首都が置かれる位置には、以下のようなパターンが挙げられる。
- 十字路型(坊城型)
- 外交拠点型
- ロンドン(イギリス):首都としては南に寄り過ぎているが、大陸ヨーロッパとの関係を重視して首都が置かれた。
- 太宰府、福岡(日本):アジア近隣諸国との関係を重視すれば、朝鮮半島や中国大陸に近い位置に中心地が来る。律令時代には外交機関が置かれていた。
- 前線型
- 北京(中華人民共和国):北方の守りのために軍の展開が必要であったが、首都から離れていては、自国軍が脅威となる。
- 鎌倉、東京(日本):人口が多い畿内と、人口が少ない陸奥国や北海道の両方への足掛かりを伸ばすには、両方の中間点に重心が来る。本州の幹線でも、東西軸と南北軸が入れ替わっている。
- ベルリン(ドイツ):古くから経済の先進地が多いライン川流域に首都が置かれると、東部の開発が軽視される。又、外交上でも、東欧に近い位置に首都が置かれている方が便利である。
- 開拓型
- 妥協型