屋上緑化
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屋上緑化(おくじょうりょっか)とは、建築物の断熱性や景観の向上などを目的として、屋根や屋上に植物を植え緑化することである。同様に、建物の外壁を緑化することを壁面緑化(へきめんりょっか)という。
環境問題への対応を迫られる現代において案出された手法と見られがちだが、屋上庭園や草に覆われた土屋根、ツタの絡まる壁をもつ建築物は各国で古くから存在し、人々は先人の知恵としてその恩恵を受けてきた。日本でも古来、夏にはヒョウタンやヘチマの緑陰で家屋に涼を呼ぶ習慣があり、極寒の国では屋根に生やした草が断熱材となり寒さを防いだ。その根源は自然と人間の共生に根ざすものである。
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[編集] 目的
屋上緑化を行う主な目的を以下に列挙する。
[編集] 技術
屋上庭園に必要な技術は、「建築物の陸屋根」と「庭園」の技術である。しかし、メンテナンスの効率や構造上の対策など、特別な対策も必要である。以下に、屋上庭園のために特筆すべき点を挙げる。
- 防水
- 防根
- 植物の根が土壌を貫通し、防水面を破れば水漏れが発生する。また、植物の根はコンクリートへと容易に食い込んでゆくため、躯体に達すると構造上危険である。こうした問題を防ぐため、防根シートなどの層を設ける必要がある。
- 灌漑排水
- 通気性の確保
- 軽量化
- 通常、比較的根の浅い芝類で300kg/m2、高木では1000kg/m2の固定荷重を見込む必要がある。荷重は土壌の湿潤状態を基準として考える必要がある。屋上庭園のため、高分子ポリマー製の保水シートや、根を張れる孔がスポンジ状にあいた緑化コンクリートなども開発されている。
- 手入れの簡便化
- 屋上庭園のメンテナンスに割けるコストにもよるが、吸水・剪定などの作業は一般的な庭園同様に必要となる。スプリンクラーなどの設備が広く使われる。
- 植物の種類
現在、それぞれの項目について技術開発が進んでおり、選択の幅は広がって来ていると言える。しかし行政の推進はあるもののコストはまだまだ高く、建築基準法の荷重制限があり実際に設置するには大幅な改装が必要になる場合があるなど、更なる理解や技術開発や行政による推進など改善が必要といえる。
[編集] 作品事例
建築家藤森照信は、屋上緑化の概念を広げて作品性の高い「タンポポハウス」「ニラハウス」を設計した。これらは、一般的な屋上緑化のように防水や防根が明快になされたものではなく、建築物への「寄生」という形での緑化への試みとして注目を集めた。勾配屋根にタンポポやニラが段上に植わる住宅建築である。「ニラハウス」は、屋上に植わるニラを、透けた屋根ごしに屋内から観察できる。
[編集] 行政
東京都では2001年4月より、『東京における自然の保護と回復に関する条例』において、一定基準以上の敷地における新築・増改築の建物に対して、その敷地内(建築物上を含む)への緑化を義務付けている。これは事実上の屋上緑化促進となっている。
- 第十四条 千平方メートル以上の敷地(国及び地方公共団体が有する敷地にあっては、二百五十平方メートル以上とする。)において建築物(建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第二条第一号に規定する建築物をいう。以下同じ。)の新築、改築、増築その他の規則に定める行為を行おうとする者は、あらかじめ、規則に定める基準に基づき、緑化計画書(地上部及び建築物上の緑化についての計画書)を作成し、知事に届け出なければならない。
[編集] 普及状況
屋上・壁面緑化は、主に環境保護の観点から、日本においては1990年頃より取り組まれるようになった。当初は技術的困難や維持管理コストが障碍となり遅滞したが、東京都の条例など地方自治体が積極的な推進を図ったことから需要が拡大し、技術革新やコスト減を招いて普及を促した[1]。
2000年から2005年の期間に、全国の屋上・壁面の緑化面積が約10倍になる[2]など、大企業や公官庁の建物を中心に広がりつつあるが、雑居ビルや集合住宅などでは初期コストや維持管理面の問題が未だ大きく、普及は遅れをとっている。壁面緑化では、大通りに面した建物や高速道路の防音壁としての利用が多い。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 緑化計画 と 屋上緑化 (東京都環境局)
- 屋上緑化 (エコワンネット)
[編集] 脚注
- ^ 出典:『屋上・壁面緑化/暑さをしのぐだけでない』、神戸新聞、 2006年8月13日付
- ^ 出典:『屋上・壁面緑化空間は近年どの程度創出されているか』、国土交通省、 2006年7月4日付