景観
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景観(けいかん)とは、Landscapeの訳語で、風景とほぼ同義で使われることもあるが、現在では、風景が主に自然の景色を指すのに対し、人工的な、あるいは人間の手が加わった景色を指すことが多い。(以下では主に後者の意味で用いる)
都市の風景(街並み)や村落の風景(例えば屋敷森や棚田、漁港も含む)などがこれにあたる。日本では2004年に景観法が制定されたが、法律上「景観とは何か」は定義されていない。
学術上は、都市工学や土木工学、都市計画や建築学で扱われることが多い。道路・ダム・鉄道・空港や大規模な開発などの事業を対象に行われる環境影響評価においても、自然環境の一要素として景観が取り扱われる。
景観は、伝統的な街並み、住民が育ててきた住環境、あるいは自然と一体になった風土を、無秩序な開発や急速な変化から守る、という保守的な概念として用いられることも多いが、新たな都市開発においてデザイン的に統一された景観の形成が考えられることもある(近年の例では汐留のチッタ・イタリアなど)。
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[編集] 景観に対する規定(日本)
日本では関東大震災後、アメリカの都市美運動en:City Beautiful movementの影響を受け、都市計画関係者の間で「都市美」という言葉がしばしば用いられた。都市美協会が設立され、市民への啓発活動も行われた。しかし激化する戦争、戦災からの復興、高度経済成長という過程の中では、合理性や経済性が優先され、景観への配慮といった要素は主観的なものと考えられ軽視されるようになった。東京・日本橋の上空に架けられた首都高速道路もその一例であろう。
都市計画法には美観地区、風致地区などの規定はあったが、一般の市街地では特段の規定もなかった。特に高度成長の時代においては、敷地をいかに有効に(高容積で)利用するかが優先され、建築基準法も社会的要請に応えるよう、次第に緩和規定が設けられていった。例えば、建築物の高さ制限は景観を左右する大きな要素であるが、商業地などで31m、住宅地で20mと定められていた絶対高さ制限は、1963年の建築基準法改正により撤廃された(注)。このため、1960年代までに形成された中心市街地(例:御堂筋、銀座、新宿)では一定の軒線が守られているものの、それ以降に発達した市街地では高さの揃わない街並みになっている現象が見られる。また、総合設計制度(1970年創設)は都心部に空地を確保する効果もある反面、周囲から突出した高層ビルも建設可能にした。
(注)第一種住居専用地域(第一種・第二種低層住居専用地域)では10mまたは12mの高さ制限とされた。
高度成長期以降、日本人の生活も大きく変わり、伝統的な街並みや農村の風景も大きく変化することになった。飛鳥、奈良、京都、鎌倉といった日本の文化史上特に重要と考えられる地域も開発の波にさらされるようになった。これらの地域の景観を守るため、古都における歴史的風土特別保存地区(1966年、特別措置法)の規定や、伝統的建造物群保存地区(1975年、文化財保護法改正)の規定などが生まれた。ただし、これらもごく一部の地域を対象としていた。
1980年頃から、景観を保全するための条例(自主条例)を制定する自治体が多くなってきた。背景の一つには各地で起きる高層マンションをめぐる紛争があった。周囲がほとんど低層の一戸建ての区域に高層マンションの建設が計画されると、日照権などを巡る紛争になる場合が多い。こうした紛争は各地で起こってきたが、その中でも東京・国立市のマンション建設を巡る紛争は全国的にも話題になった。国立市では景観条例を制定し、行政指導により大学通りの景観を守ろうとしていたが、マンション事業者は2000年に14階建(44m)の建築に着工し、住民、市、事業者が裁判で争うことになった(国立マンション訴訟)。
2003年時点で、27都道府県、450市町村が景観に関する自主条例を制定していた。しかし法律の委任規定のない自主条例では、建築基準法や都市計画法より厳しい制限を設けることはできないため、国の立法措置が求められることになった。高度成長の時代、急激な都市化の時代は終わり、良好な景観に対する関心が高まってきたことを背景に、2003年、国土交通省では「美しい国づくり政策大綱」を策定した。これを法的に裏付けるため、2004年(平成16年)「景観法」が制定された。同法では「美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現」が目的に挙げられている(第1条)。
景観法自体は何ら規制を行うものでなく、規制を行うには、自治体が景観計画などを定める必要がある。
[編集] 景観を巡り議論となった事例
- 皇居周辺の美観を損なうとして都市美協会が反対したため、望楼が短縮された。
- 丸の内で初の超高層ビル・東京海上ビル(前川國男設計)を巡る論争。1966年に計画が発表され、1974年に竣工。
- イタリア人建築家ガエ・アウレンティ設計。外壁に使われている派手な赤い色彩が物議をかもしている。
- 公共の色彩を考える会
- 「赤い壁」めぐり対立 伊外相と渡辺恒雄氏 2007年2月2日 東京新聞
- 渡辺恒雄氏一喝「赤は趣味悪い」 伊文化会館壁問題 2007年2月3日 産経新聞
- 文化会館の外壁塗り替え問題、伊外相「友好的に解決」 2007年2月3日 読売新聞
- 赤い色は景観乱す? 行ってみた伊文化会館 2007/02/05 インターネット新聞「JANJAN」
[編集] 景観の経済効果
観光地の中には伝統的な建物の再生や、電線の地中化などにより街並みを整備している動きが見られる。観光客が増加するという経済効果を挙げている地域もある。
- 例
[編集] 日本の景観の何が問題か
次のような現象は、日本の景観の特徴として指摘されることが多い。多くは否定的に語られるが、混沌とした街並みに対してアジアらしく活気があると肯定的に捉える意見もある。
- 電線・広告物
- 電線・電柱が、大都市部の商業地区などを除きほとんど地中化されておらず、風景を邪魔していること。(電線類地中化を参照)
- 企業や商品の看板が氾濫していること。
- 電柱などに捨て看板を巻きつけたり、ビラを貼り付けたりする行為。
- 建築物
- 建物の高さが一定でなく、統一感に欠けること。
- 建物の意匠や色彩が近隣の風景や伝統的風致との調和を考えていないこと。(強烈な形態や色のため、違和感を持たれる場合もある)
- 風土的由来を感じさせない建築の意匠が多くなり、外装に人工素材を多用するようになったため、無機質な工業製品のような印象を与えること。
- 狭い土地一杯に建てた「ミニ戸建」・「ペンシルビル」などが狭隘な印象を与えること。
- 土木構造物
[編集] 関連項目
- 景観シミュレーション
- 景観破壊
- ランドスケープ
- 眺望権
- 日照権
- 芦原義信
[編集] 外部リンク
- 美しい景観づくりのための土地利用 (国土交通省土地水資源局)
- 美しい景観を創る会
- 景観行政ネット
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