後発医薬品
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後発医薬品(こうはついやくひん)とは、製造方法などに関する特許権の期限が切れた先発医薬品について、特許権者でない医薬品製造企業がその特許内容を利用して製造した、同じ主成分を含んだ医薬品を指す。 先発医薬品の特許が切れるとゾロゾロたくさん出てくるのでゾロ等と呼ばれていたが、商品名でなく有効成分名を指す一般名(generic name)で処方されることが多い欧米にならって、近年、「ジェネリック医薬品」と呼ばれるようになった。
目次 |
[編集] 特許
- 新薬(先発医薬品)の開発には巨額の費用と膨大な時間を必要とするため、開発企業(先発企業)は新薬の構造やその製造方法、構造などについて特許を取得して、自社が新規に開発した医薬品の製造販売を独占し、価格を高く設定して投下した資本の回収を図る。しかし、特許権の存続期間が満了、または再審査期間が終了すると、他の企業(後発企業)も特許使用料を支払うことなく先発医薬品と同じ主成分を有する医薬品(=後発医薬品)を製造販売ができるようになる。
- 通常の特許権利期間は特許出願日から数えて20年だが、開発期間が非常に長い医薬品などに関しては、関連する物質特許・用途特許・製造特許の権利期間を5年間延長できる。
- 先発企業は同一薬効成分に新たな効能・適用・結晶型などを発見することで特許を追加取得して特許期間を延長したり、製剤・剤型を見直して効能以外の付加価値をつけるなどして、後発企業の進出に対抗する。
[編集] 承認申請
- 新薬(先発医薬品)の承認申請には、発見の経緯や外国での使用状況、物理的化学的性質や規格・試験方法、安全性、毒性・催奇性、薬理作用、吸収・分布・代謝・排泄、臨床試験など数多くの試験を行い、20を越える資料を提出する必要がある。
- これに対して後発医薬品では、有効性・安全性について先発医薬品で確認されていると仮定され、安定性試験・生物学的同等性試験等を実施して基準をクリアすれば先発医薬品と同等であると科学的に評価され、製造承認される。従って承認申請時に必要な書類は、規格および試験方法、加速試験、生物学的同等性試験のみであり(医薬品により長期保存試験も必要となる)、7つの毒性試験が全て免除されていることは問題、とする意見がある。
- 生物学的同等性試験とは、健康成人男子に先発医薬品と後発医薬品を投与して、血中の薬物動態を指標として同等であることを示すもので、日本では現在、厚生労働省より通達されている「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に従って行われている。
[編集] 品質再評価
- 1997年4月以降、新薬の承認時には溶出試験規格の認定が義務付けられ、 当該医薬品の後発品についても自動的に溶出試験規格が求められているが、それ以前の医薬品には溶出試験規格が無い。そこで溶出試験規格が無い医薬品のうち、後発医薬品があり、かつ先発医薬品との同等性を設定する必要がある約550成分(約7000品目)を対象として、1997年2月から国が品質の再評価を始めた。
[編集] オレンジブック
- オレンジブックとは後発医薬品の使用促進のため米国で発刊されているもので、 FDAが先発医薬品と後発医薬品の生物学的同等性の判定を行い(生物学的同等性試験)、 その治療上の同等性についての評価を掲載したものである。
- 日本版オレンジブックとは「医療用医薬品品質情報集」のことで、上記の品質再評価の経過や結果を掲載したものである。
- 日本版オレンジブックは通知のごとに発行されるため一覧性が無く、通知に含まれない重要な品質再評価情報が掲載されないことがある為、医薬工業協議会がこれらを補い更に広範囲の情報を掲載したものを「オレンジブック総合版」としてネット上で公開している。[1]
[編集] 創薬と育薬
- 製薬企業が新薬を開発し、その有効性・安全性を確認して医薬品としての承認申請を提出し、国の認可を得るまでの過程を創薬と呼ぶ。そして実際に市販された医薬品の情報を現場の医師・薬剤師等を通じて幅広く収集し、より有効でより安全なものに育てていく過程を育薬と呼ぶ。
- 新薬は勿論、大規模な臨床試験の結果等に基づき認可されるが、クロロキン事件や薬害スモン、薬害エイズ等を見ても判るように、その有効性や安全性の評価が本当に定まるのはこの育薬の過程を経てからなのである。「新薬には飛びつくな」と言われる由縁である。
- 先発医薬品の特許が切れるまで(または医薬品の再審査期間の終了まで)、20~25年もの長い育薬の期間がある為、その先発医薬品の有効性・安全性については充分な知見が集積されていると言えるが、主成分は同じでも同一薬剤ではない後発医薬品については、必ずしもその有効性・安全性に問題が無いとは言い切れない。カプセルの質や錠剤化する技術の差などで有効成分の吸収率や時間などが異なり、薬効に差が出るとの指摘や、毒性試験が免除など申請時の試験項目が先発医薬品に比べて少なく、不純物の混入も多いと云う問題が発生する可能性がある。即ち、安価というメリットと引き換えにリスクは患者自身が負うという事になる。しかし近年は後発医薬品を専門に扱う製薬会社の技術向上や、健康保険の支出を抑えたい厚生労働省・医療費負担の増えた慢性疾患を持つ患者が、医療費の支出を少しでも押えたいと云う現実的な要望・医師側の後発医薬品に対する意識変化もあり、医師が後発医薬品の処方を患者に勧めたり、患者側も後発医薬品の処方を求める傾向が強まり、最近では後発医薬品の需要が増えてきている。
[編集] 日本での経緯
- 後発医薬品の普及率は、欧米では数量ベースで5割近くを占めるのに対し、日本では1割程度に留まっていた。これはブランド嗜好が強い国民性やパターナリズム(家父長主義)が浸透していた医療の現場で、医師が情報提供が少なく信頼性に不安を感じる後発医薬品より、長年の育薬に基づく豊富な情報が提供される先発医薬品を処方した為と考えられる。
- 医療費に占める薬剤費比率は、上昇傾向の欧米諸国に対し、日本は薬価差(=保険請求価格-購入価格)削減により低下傾向を示し、既に仏・伊より低率となった。しかし依然、高めな理由は投薬の種類・量が多い為ではなく、先発医薬品の薬価が高すぎる為であり、経済産業省もこれを国際的に適正な額にまで引き下げれば、1兆5千億円程度削減できる、との試算を発表している。
- 近年、急に後発医薬品であるジェネリック医薬品が注目されるようになったのは、バブル崩壊後の長引く不況の中、長年の放漫経営による健康保険財政の破綻に直面し、政府が少子高齢化を迎えての医療費削減を唱え、その一環として薬価の低い後発医薬品に着目した為である。
[編集] 処方に関連して
- 以前より後発医薬品は安価で在庫のための費用も安く、値引率も高く利益性が高いことから医師が院内で処方する場合に多用されてきた。
- 2006年4月より処方箋の様式が変更となり、医師が処方箋中の「後発医薬品への変更可」欄に署名(または記名押印)すれば後発医薬品に変更して調剤することも可能となった。
- 医師・歯科医師は、院外処方においては先発企業の薬を処方することが多く、後発医薬品はあまり普及していない。また、後発品は内容規格が同一でも、製品名の異なる多数の製品が存在する場合があり、それらに対応するだけの後発医薬品を十分に揃えることは現実的に困難で、処方されても直ちに患者に出せない場合がある。これを避けるために、成分名で処方することも可能であるが、ほとんど行なわれていない。医薬情報担当者 (MR)などの営業活動により、製薬会社は医師との繋がりを固定しようと試みているが、さまざまな問題から、先発品への固定化は困難な様相を呈している。
- 「後発医薬品への変更可」処方箋中に後発医薬品が銘柄で記載されている場合、患者への十分な説明と同意がある場合において、他の銘柄の後発医薬品に変更が可能である。また、先発医薬品同士、あるいは後発医薬品から先発医薬品への変更も可能とする、全面的な代替調剤も一部の地域において行われている。
- 後発医薬品指定があっても、先発医薬品と同じ剤形が用意されていないため交換できない場合がある。剤形の変更については従来どおり医師への照会が必要となる。
- 薬価は国定であり、薬価が先発医薬品と比べ低い設定である後発医薬品は、薬局や薬卸商の収益減をもたらしている。
- 薬の選択が自由に患者に任せられるようになると、薬局は多いとは言えない代替手数料だけで多くの在庫を抱えることになる。使用頻度の低い開封済みの製品が使用期限を迎える等、薬局の経営が難しくなる原因の一つとなる。
- 薬の選択権が患者に与えられたとしても、その選択にあたっての知識や情報が十分に与えられているわけでもなく、かつ、薬自体の選択権があるわけでもないことを考えるなら、この選択権も患者へ金銭的な利益以上のものを与えるものではない。
- 「後発医薬品への変更可」処方箋は同「不可」処方箋よりも診療報酬が2点(20円)高く設定されている。また、薬局で後発医薬品への変更が行われた場合、初回または新たな後発医薬品へ変更した場合に、後発医薬品情報提供料10点(100円)を支払うことになる。そのため、医薬品の種類・投与日数によっては先発医薬品を使った方が一部負担金が安く済むケースがあり、一概に後発医薬品へ変更は安くなるわけではないと言える。
[編集] その他
- どんな画期的発明でもその特許が切れれば発明者の財産から人類共有の財産になるが、特許が切れても高い薬価を維持したい先発医薬品に対して、3~8割も薬価を低くできる後発医薬品は、薬の価格を下げる圧力となる。しかしながら、後発品の普及は先発企業の利益圧縮を招いていることから、新薬開発への意欲を削ぐことにもつながり、これからの医療に大きな問題をもたらす可能性もある。
- 後発医薬品でパッケージや、製剤の改良、規格変更等の工夫をしている製剤もあり、先発医薬品より好評のものもある。
- 後発企業の多くは準大手・中小企業であり、経営戦略上、製品をロット単位でのみ造り切り在庫を抱えないことがある。そのため需要と供給の緩衝が少なく、急激な需給変化に生産が間に合わない可能性がある。また、医薬品以外の部位の素材を安価に済ませていることがあり、外装が脆い、チューブが壊れ易いなどの欠点を持っていることがある。
- 後発医薬品の企業の医薬情報担当者 (MR)の数が少なく、医師や薬剤師の情報収集の一部は彼らが担っていると言う事もあって歓迎されていない。また比較的市販後調査の量が少なく、成分を由来としない潜在的な問題が存在する恐れがある。
- 後発企業は先発企業に対抗するために薬剤の販売に大幅な値引を行うことがある。その結果、2年に1回の薬価改定では大幅な薬価の値下げが行われる。そこで、後発企業はさらに値引き販売をすることになるが、これらの一連の流れの繰り返しにより、最終的に採算が合わなくなってしまう。そこで、後発企業は採算の合わない薬剤を販売中止してしまうことがある。ひどい場合には1ロットを製造した後、在庫が切れたら販売中止してしまうこともある。(これを売り逃げという) 近年は厚生労働省の指導により、売り逃げを行う企業には製造承認を与えない、ということになっており、状況は改善されつつある。
- 2006年9月、公正取引委員会は先発メーカーが不適当な資料を用いた説明などの手段で、医師や消費者のジェネリック医薬品に関する不安を煽る情報を流すなど、ジェネリック医薬品普及への妨害行為が行われているとの情報が寄せられていると発表した[2]。公正取引委員会は、このような行為は独占禁止法に抵触する可能性があるとして、情報収集を進めている。
- 同じ成分の先発医薬品と後発医薬品で効能・効果(適応症)が異なることがある。これは先発医薬品が有する用途特許が残っており、それが原因で同じ成分の後発医薬品がその効能・効果を謳えないことに起因する。
[編集] 取扱会社
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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