振り逃げ
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振り逃げ(ふりにげ)は、野球のルール。
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[編集] 概要
第3ストライクの投球を捕手が正規に捕球しなかった場合、打者は直ちにアウトにはならず、走者として一塁へフォースの状態となる。守備側が打者をアウトにするためには、打者に触球するか、打者が一塁に到達する前に一塁に送球し触球するかして、打者をフォースアウトにしなければならない。アウトにならずに一塁に到達すると、打者は一塁走者となることができる。
ただし、捕手が投球を正規に捕球していないことに打者が気づいておらず、三振でアウトになったと思い込んでベンチに戻ろうとダートサークル(本塁周辺の土の部分で、本塁を中心とした直径26フィートの円である)を超えた場合、打者は直ちにアウトとなる。
- 注 このルールは、2005年のメジャーリーグプレイオフで起こったトラブルが論議を醸し、メジャーリーグでは2006年度、日本では2007年度に改正された。それまでは、打者は三振でアウトになったと思い込んでベンチに戻ろうとしていた場合、ベンチに入るかベンチの階段に足がかかるまでは走塁放棄とは看做されず、途中で振り逃げできることに気づけば、その場所から一塁に向かって走塁して構わなかった。
振り逃げが成功した場合も、打者には三振が記録される。また同時に暴投または捕逸も記録される。ただし、三振が記録されても振り逃げが成功すれば打者はアウトにはならないので、1イニングで4つ以上の三振が成立することもあり得る。メジャーリーグでは1901年以降47回記録されている。
打者は三振を喫したにも関わらず塁に出ることが出来るというのは、野球を初めて学ぶ者にとって一見不可解に思えるかもしれないが、その意図として、一つのアウトが成立するためには攻撃側の失敗(つまり三振)のみならず守備側もきっちり抑えなくてはならないという考え方がある。
[編集] なぜ「振り逃げ」というのか
一般に「振り逃げ」と言うが、打者がバットを振ったかどうかは関係ない。公認野球規則の中で「振り逃げ」という言葉は定義されておらず、また用いられてもいない。「第3ストライクの投球を捕手が正規に捕球しなかった場合は打者が走者になる」と示されているだけである。
ここでの「正規の捕球」とは、「投手のノーバウンドの投球を捕手の手またはミットで完全捕球すること」である。よって、バウンドした投球を空振りし、捕手の手またはミットで完全捕球できても正規の捕球に該当しない。
稀ではあるが、打者が空振りをしなかったが投球がストライクゾーンを通過したために第3ストライクが宣告されたとき、捕手がこの投球を完全捕球できなかった場合は「振り逃げ」できる状態となる。当然、この場合打者はバットを振らずとも一塁に向かって進塁してよい。 (この状態を庵原英夫は、食い逃げと表現している [1] [2]。)
- 例外として第3ストライクの投球が打者に当たった場合(つまり空振りをした打者に投球が当たった場合やストライクゾーンを通過した投球に打者が当たった場合)や、2ストライク後のバントがファウルボールとなったために第3ストライクが宣告された場合など、ストライクの宣告とともに直ちにボールデッドとなるときには振り逃げは成立しないことになっている。
ただし実際の試合において、一般に捕手が完全捕球できないような投球はストライクゾーンから外れていることが多く、そのような投球に対しては打者が空振りをしないとストライクにならない。よって、捕手が完全捕球できないような第3ストライクの投球は打者が空振りをしている場合が多いので、日本では一般に「振り逃げ」という名称が用いられている。
[編集] 振り逃げとアウトカウント・一塁走者との関係
無死または一死の時に一塁に走者がいる場合は振り逃げは成立せず、第3ストライクを宣告されれば、捕手が正規の捕球をせずとも打者はアウトとなる。これは第3ストライクの時に捕手が故意に正規の捕球をせず、一塁走者に進塁義務を発生させ、フォースプレイでの併殺を試みることを防ぐためである。
二死の時は併殺は起こりえないので、一塁に走者がいても振り逃げを試みることができる。この場合は、一塁走者も進塁義務が発生するのでフォースプレイの対象になる。同様に走者一・二塁の場合には二塁走者にも、満塁の場合は三塁走者にも進塁義務が発生するのでフォースプレイの対象となる。したがってこのような場合は、二塁走者の三塁到達よりも先に三塁に触球したり、三塁走者の本塁到達以前にボールを拾った捕手が本塁を踏んだりなどすることで、走者をフォースアウトにしてイニングを終了することができる。
- 注 リトルリーグでは2アウトからの場合でも振り逃げは認められない。
[編集] 珍記録
1960年7月19日に開かれた東映対大毎(駒澤野球場)の試合、8回表二死満塁の場面で、東映の投手土橋正幸は大毎の山内和弘をカウント2-3から見逃しの三振にしとめた。しかし東映の捕手安藤順三はこのとき第三ストライクの投球を後逸した。東映の保井浩一コーチ(この日は代理監督として指揮した)は三振でチェンジと思い込みナインにベンチに戻るよう指示していたが、大毎の選手は山内に、グラウンドを走るよう指示した。これに唖然とした東映の選手からは当然抗議があったが、一塁に走者がいても二死の時は振り逃げを試みることが出来、一旦はアウトになったと勘違いした山内もまだベンチには入っていない(当時は、打者走者が進塁を放棄したと見做されアウトになるのはベンチの階段に足がかかったときであった)ので、山内の進塁は認められる。山内はダイヤモンドを一周し、満塁走者を一掃して自分も生還。振り逃げで4得点を挙げるという珍記録が生まれた。
[編集] 脚注
- ^ ISBN 4-638-01124-1 野球スコアブックのつけ方・新訂版
- ^ ISBN 4-426-40049-X ザ・プロ野球 記録と話題の52年(p.139)